第二十四話 「咆哮、森より来たりて」
初投稿です。
山あいの道を、朔也たちは進んでいた。
澄んだ空気に草の香りが混じる。空には薄雲が流れ、心地よい風が吹いている。
「……静かすぎるな」
先頭を歩く晴仁が、足を止めた。
「どうしたの、晴仁?」
舞が明るく声をかけるも、晴仁は険しい顔のまま、前方の森を睨んでいた。
「鳥とかの声がしねえ。……あまりにも静かすぎないか」
「それって、つまり……」
茜の声がかすかに震えた。
朔也は、周囲に意識を集中する。
――感じる。微かに、しかし確かに、遠くで揺れる殺気のようなもの。
「近くに、何かがいるな。行ってみよう」
*
程なくして、一行は荒らされた村跡に辿り着いた。
倒された柵、引き裂かれた屋根、地面には大きな爪痕。
血の跡もわずかに残っているが、死体は見当たらない。住民は逃げ延びたのだろう。
「でっかい足跡……これは、獣?」
舞がしゃがみ込み、土に残された痕をなぞる。
「四足歩行の大型獣、それも……虎、のようなものかもしれない」
朔也は跡を辿るように森へと目を向ける。
「けど、これは単なる野生の獣じゃない。ここまで継続して人の生活圏を襲うなんて……」
「どうして……」
茜がぽつりと呟いた。
その瞬間、森の奥から──低く、重い咆哮が響いた。
「来るぞ!」
朔也が叫んだのと同時に、森を割って影が飛び出してくる。
それは虎に似た、しかし尋常ならざる風貌のケモノだった。
しなやかで強靭な体躯、黄金色の瞳、そして鋭く光る牙。
体毛は深い焦げ茶に黒の縞が走り、尾は太く、まるで鞭のようにしなっていた。
「構えろ!」
朔也は即座に刀を抜き、前へ出る。
ケモノの瞳が朔也を射抜く。
その一瞬に、朔也は奇妙な感覚を覚えた。
(憎しみ、怒り、悲しみ……こんなに深い感情をただの獣が持つのか。もしかして、この理性を持つ感じ......妖獣か......!?)
それは、理性なき獣の目には見えないものだった。
「……こいつはただの野獣じゃないな」
朔也は小さく呟いた。
「戦うの?」
舞の声が揺れる。
「戦わずに済むなら、それが一番いい……でも、守るためには、戦わないといけない時もある」
朔也は剣を構えた。
ケモノも、低く咆哮を放ち、地を蹴って迫る。
鋭い爪が振るわれる瞬間、朔也も踏み込んだ。
剣と爪が交錯し、火花が散る。
「速い!」
朔也は紙一重で攻撃をかわし、反撃に出るが、ケモノは二撃目を躱して後退する。
「……動きに迷いがない。人間との戦い方を知ってる……?」
その刹那、再び咆哮。
しかしそれは怒りではなく、何かを訴えるような──
「朔也っ、来るよ!」
舞の声で、朔也は我に返る。
再び衝突する剣と牙。
その戦いは、どこか試すようでもあった。
(こいつ……ただ暴れてるんじゃない。……何か、理由があるな)
そう確信した時、森の奥から別の足音が聞こえた。
現れたのは、里の者たち数人だった。
彼らの手には、松明や武器が握られている。
「化け物め……今度こそ仕留めてやる!」
里人たちが怒声を上げると、ケモノは一瞬たじろいだ。
「待て! 下がれ!」
朔也が叫んだ。
「こいつは……敵とは限らない!」
ケモノの瞳が、朔也を見つめる。
その視線には、明らかに迷いが宿っていた。
「退く気があるなら、今ここで示せ。……俺たちは、お前の言葉を待っている」
刀を下ろした朔也に、晴仁も拳を緩め、茜と舞も続くように一歩前へ出る。
静寂の中──
ケモノは、ゆっくりとその場に伏せた。
「……信じて、くれるのか?」
声ではなく、瞳が語っていた。
そしてその瞳に、ほんの少しの――安堵が灯った。
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