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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件  作者: 藤原湖南
第16章 大魔卿 ギルファス・アルフィード
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16-11


大魔卿の襲撃から、どれぐらいの時間が経っただろうか。ほんの数分という気もするし、1時間という気もする。

確実に言えるのは、これが僕の人生の中で最も危機に瀕している状況だということだ。


ただ、ここに僕がいるのは不幸中の幸いであったかもしれない。本来ならゴイルの執務室で大河内さんや自衛隊との連携を取っている所だった。

それがジュリが急にイルシアを離れることになった。詳しく理由は聞いていない。ただ、彼女がやっていた「ゲート」の管理は一時的に補助役のランカさんがやることになった。


そして、彼女の代わりの補助役に指名されたのがアムルとシェイダだった。

僕はアムルの付き添いで地下に来たにすぎない。ただ、結果としては大魔卿の襲撃から難を逃れられた。もし執務室にいたら、ただの一般人である僕は確実に殺されていただろう。


戦況はイルシアを警護している自衛隊第一師団の水元陸将補から入ってきていた。

大魔卿はイルシア城内にいるイルシア人や自衛隊員を瞬く間に皆殺しにしたと聞いている。そのあまりの苛烈さに支援もできず、ただ様子見に徹するしかなかったという。

その後町田たち4人が王城に入っていったとも聞いている。全ては、彼らに任せるしかない。


『……何ということ』


アムルの表情が陰った。よくないことが起きたと知りつつ、僕は「どうしました」と訊く。


『……上の階から感じられる魔力が……微弱になっています。急に加わった1人も含め……』


僕は唾を飲み込んだ。町田たちが全滅??

しかも急に加わった1人というのは、多分ハンス氏のはずだ。彼ですらダメだったのか??


「……かなりマズいんじゃ」


『分かりません。ただ、魔力持ちが2人……こちらに近づいてきています』


アムルが『キョウヘイさんは後ろに下がって』と僕を後ろへと追いやる。

彼女もまだ怪我から癒えて間もない。無理させるわけにはいかないのだが、僕には彼女を護る術がない。自分の無力さに、思わず唇を噛んだ。


『2人ということは……大魔卿と御柱様』


『だと思います。シェイダさんとアムルさんは、『ゲート』の維持に専念してください。私は前方に『反魔結界ヴィズ・アブロシア』を張ります。……気休め程度ですが』


コツ、コツ、コツと足音が段々と大きくなる。そしてそれは僕らのいる牢の前で止まった。


『『ゲート』の維持、御苦労』


ニコリと金髪の中年男が嗤う。……実際に目にするのは初めてだ。

この男が、ギルファス・アルフィード……


その後ろには、目が虚ろなジュリがいる。操られているのだと、皆が一瞬で察した。


『御柱様っ!!!』


叫ぶシェイダをランカが制した。


『あなた……娘を殺したの』


『娘?ああ、『破壊スル者』の母体かね。少々勿体ないから、あの子はまだ殺さないようにしてあるよ。その番と、御柱の相方は始末したがね。』


……やはり。僕は愕然とした。町田は、もう……


ランカは険しい表情のまま『ここは通さない』と告げる。『ハハッ』と大魔卿が嘲笑った。


『君がかい?僕を?できるわけがないだろう、君はただの一神族に過ぎない。僕の相手ではないよ』


『ならなぜ私たちをすぐに殺さない』


大魔卿が真顔になった。ランカは話を続ける。


『あなた、相当消耗しているわね?魔力の残量が驚くほど減ってる。

しかも私は反魔結界を張ってる。この中で魔法を使うなら、相当無理をしなければいけない。だから自然回復を待ってる』


『……相変わらず小賢しいねえ。……ジュリ』


大魔卿が隣にいるジュリを見やった。ジュリが右手をかざしヴォン、と風のようなものが吹くと、ランカの表情の険しさが一段と増す。


大魔卿が愉しそうに笑った。


『馬鹿だねえ、同じ『反魔結界ヴィズ・アブロシア』を使っても、クトの力を使った彼女と君とじゃ話にならないほどの差があるに決まってるじゃないか。打ち消すのは造作もないことだよ』


そう言うと、奴は右手を前に出した。


『とりあえず、君たちにはここで消えてもらおうかな。……ん?』


大魔卿が訝し気に僕の方を見る。……いや、厳密にはその後ろにある「ゲート」だ。


『僕がやる前に随分開いているじゃないか。何のために……援軍を呼ぶためか?』


『援軍?』


訝し気にランカが答える。


そう言えば、何故一度封印されていた「ゲート」をもう一度開き拡張するのか、その真意を知っている者はいない。ただハンス氏から要請されたからやっているだけだ。

あの男を信用していないわけではない。だからこそその指示に僕たちは従っている。ただ、どういう意図があるのか不可解には思っていた。

てっきり援軍を呼ぶためだと思っていたが……違うのだろうか。


頭の中にチリチリと何かが入ってきた感覚がする。アムルが『読心魔法っ!?』と頭を押さえた。

不快な感覚はすぐに引いた。同時に大魔卿が眉間に皺を寄せる。


『……誰も知らない?ハンス・ブッカーに命令されたからやっただけ……だと??』


大魔卿が思案顔になる。……その時だ。


『どういうこと!??』


ランカが呟く。同時に両手を前に出す。


『……馬鹿の一つ覚えかな?『反魔結界』はジュリ・オ・イルシアが打ち消せると……』


大魔卿がジュリの方を見やる。……が、さっきと違い彼女は反応しない。

いや、目に力が戻り始めたような気がする。僕の気のせいだろうか?


『何?僕の『誘惑のディア・カイルペリア』がこんなに早く解除されるはずが……』



「僕が上書きしたからだよ」



急に女性の声が聞こえた。この声はっ!?



同時に、大魔卿の身体を黒い剣が貫く。それを持っていたのは……



「町田ッ!!?」



その後ろにはサマーズがいる。これは一体、どういうことだ??


『ぐっ……ぐおおおおおっっ!!?』


苦悶の表情を上げながら、大魔卿が腕で町田を払いのけようとする。町田は剣を持ったまま距離を取った。


『あ……がああっ……どうして、だっ!?』


「『ゲート』が十分開いたことで『奇跡』が起きたんだよ。だからサマーズは間に合った。俺も復活した」


『『奇跡』、だと??そんなもの、起きるはずがっ……まさかっっっ!!!?』


町田がニヤリと笑う。


「ハンスさんが少しだけ種明かしをしてくれたんだよ。

全てはここにある。いや、厳密に言えば『ゲート』の向こう側か」


大魔卿が初めて驚愕の表情を浮かべた。分かりやすいほどに焦りが顔に出ている。


『そうなのか!??まさか、これらは『全て仕組まれていた』のかっっっ!??』


「仕組まれていたどうかは知らない。だが、結果的にはそうなったな。『彼女』が望まない結果は、もう起こらないからだ」


町田が腰を落として剣を構える。



「さて、第二ラウンドと行こうか。残り魔力が少ないお前と、この世界の『真なる神』の加護を受けた俺と……どちらが勝つか、やってみようじゃないか」




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