16-10
「ぐっ」
斬った勢いそのままに、私は地面へと叩き付けられる。肉体強化魔法を使った上で受け身を取り、しかも死体がクッションになったが衝撃は大きい。右腕か肩がイカれたかもしれない。
痛みをこらえながら大魔卿を見る。肩口の辺りから両断した。手ごたえはある。
『ぐおおおおおおっっっ!!!!?』
苦悶の叫びをあげながら、奴はそれでも立っている。大量に流れ出る魔力と、展開されている「反魔結界」に耐えながら、「時間遡行」で無理矢理身体を修復しようとしているのだ。
追撃しようとしたが、脚が動かない。……誠二に使った「100倍速」のダメージが、やはり癒えてないのだ。こんな時にっ!
私は町田たちの方を見る。……戦闘要員である町田は左肩に負傷、ノアも万全とは言い難い。ジュリや市川は、恐らく白兵戦には長けていない。
……私がやるしかないのか。だが、行けるのか??
体勢を何とか立て直した時、大魔卿は既に元の姿に戻っていた。
『やってくれたな……ハンス・ブッカー……!!!』
「……」
私は「滅魔の剣」を構える。ジュリ・オ・イルシアが「反魔結界」を使い続けているおかげで、大魔卿は魔法を使った行動に大きな制約を抱えている。さっきの「時間遡行」にしても、相当な無理をしたはずだ。
あと一撃、決定打を食らわせればそれで充分だ。だが、どうやるか。
「時を統べる者」は「反魔結界」の中では使えない。脚と腕に大きなダメージを抱えながら白兵戦を仕掛けるか?
……いや、その成算は小さい。向こうは無理すれば魔法を使える。それが何であれ、私に有効な——恐らくは致命的なダメージを与えるだろう。刃が届くことは、奇跡でも起きない限りない。
……「奇跡」を願うか?いや、それは「まだ」だ。
この感じからして、まだ時間が来ていない。奴が来るのが早過ぎた。もう少しだけ、時間を稼がねばならない。
その時、死体の隙間にサブマシンガンが落ちているのが見えた。自衛隊のものだ。
私は咄嗟に左手でそれを拾い上げる。同時に、胸の辺りを何かが貫く感じがした。
「があっ!!!?」
魔力の矢か??この状況でも放てるのかっ。
ただ、致命傷ではない。何とかなっている。
私は痛みをこらえつつ「滅魔の剣」を町田の方へと投げた。
「君がやれっ!!!」
返事を聞かず、私はサブマシンガンの引き金に手をかける。
無論、これを使ったことはない。ただ、ニューナンブなら大昔に何度も訓練ではあるが撃っている。その要領で大魔卿へと狙いを定め、引き金を引いた。
ダダダダダッというリズミカルな銃声と共に、大魔卿の身体が壊れた操り人形のように揺れる。だが、その眼光は死んでいない。
『この世界の兵器など効かんっ!!!』
銃創はたちまち埋まっていく。そして撃たれながらも奴の右人差し指は銃のように私に向けられる。さっき撃たれたのは、これかっ!!
バシュッ
「うっっっ」
今度は腹を撃たれた。……まずい、これでは……動けない。
痛みに耐え切れずその場に跪く。大魔卿を見ると、奴の息も荒い。かなりの無茶をしたのは間違いない。……が最後の一手が遠い。
「うおおおっっっ!!!」
町田が「滅魔の剣」を拾い上げ、大魔卿へと向かうのが見えた。だが、奴の指は無情にも彼に向けられる。
「止まれっ!!!」
バシュッ
『トモッ!!!!!』
ノアの絶叫と共に、町田が無言で後ろへと倒れていく。
……頭を撃たれた。これでは……生きてはいまい。
大魔卿は立て続けにノアにも魔法の銃弾を浴びせる。これは胸に当たった。続いて市川。これは頭部だ。……断末魔の叫びすら上げさせないのか。
『はあっ、はあっ……手間を、かけさせる』
『あ、ああっ……!!!』
ジュリが絶望の叫びをあげた。ここで動けるのは私しかいないというのに……身体が、動かない。
大魔卿はジュリへと近寄りながら、私の方を一瞥した。
『これほど、追い詰めてくれるとはね……流石だよ、ハンス・ブッカー。だが……運はこちらにあったようだ』
そう言うと奴はジュリの手を取る。
『離してっ!!!』
『そうも行かない。君にはゲートを完全に開いてもらわないといけない。そして、それをモリファスに繋げるという役目がある』
『貴方の国は滅びた!!!知らないの!!!?』
『滅びていようと何であろうと、それは知ったことじゃない。僕の使命は、メジアの人々を――いや、かの世界の人々を救うことだ。そのために最善の手段を取っている。それだけだよ。……『来るんだ』』
最後の一言に魔力が込められているのに気付いた。「誘惑の声」かっ……!!
ジュリの目がとろんとし、ハイライトが消えた。大魔卿に手を引かれるまま、彼女は歩いていく。
「やめろっ!!!」
私の声に、勝ち誇ったように大魔卿が嗤う。
『もう終わりなのだよ。僕にここまで食い下がったその栄誉を称え、しばらく生かしておいてあげよう。では、しばしのお別れだ』
地下に向かう通路で倒れているゴイルとガラルドを足蹴にし、大魔卿が去っていく。
……胸と腹の痛みは、さらに強まって来た。このままでは……私もいつか死ぬ。
遠くから何かを叫ぶ声が聞こえる。……この声は、確か……
それが誰であるかを知った瞬間、私の意識は途切れた。




