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「オンライン会見、ですか」
綿貫さんの言葉に、僕は少し驚いた。確かにこの前のは上手く行った、らしい。既にジュリのファンクラブみたいなものもできているという。
しかり、今回の襲撃について僕らから先に情報発信する自信はない。というより、それは日本政府がやるべきことなんじゃないか。
そう綿貫さんに言うと、彼は「そう思うのが道理だ」とあっさり認めた。
「本来ならそうすべきだ。ただ、これには複雑な事情があってね。石川重治総理をここに来させないための仕込みととりあえずは理解してもらえればいい」
「石川総理を?ジュリと浅尾副総理の会談は、確か明日なんですよね。そこに石川総理も来るという話になってるんですか」
「このまま行くとそうなる。仮に自衛隊員4人がイルシアで死亡したと日本政府から先に公表したとしよう。間違いなく重大案件だ。それを受けて首相が視察に来ても、何の不思議もないだろう?」
「いえ、まあそうですけど……それが何か問題なんですか」
綿貫さんがふうと息をついた。
「君はニュースは見ているか」
「え、ええ。イルシアの件に巻き込まれてからは、あまり見てませんけど……」
「なら石川総理の評判も聞いているはずだ。浅尾副総理との関係の悪さについても」
「あっ」と僕は声を上げた。そうか、やっと理解できた。
「……石川総理がイルシア対応に乗り出すとなると……確かに」
あの総理は独善的で人の話を聞かないという評判は耳にしている。もちろんそれはSNSとかで作られたものなのだけど、同じ民自党の議員である綿貫さんがそう言うからにはそれは本当なのだろう。
そして「二度と犠牲が出ないように」という名目の元、イルシアを徹底的に管理しようとするはずだ。あの浅尾副総理も似たような考えではあったみたいだけど、まだ融通が利く。石川総理が出張ってきたら、イルシアは多分完全に自由を奪われるだろう。
綿貫さんが軽く頭を下げた。
「察しが良くて助かる。だから、こちらから先に動こうという話になった。僕もそう考えていたし、大河内さんも同じアイデアだ。情報戦で先にこちらが優位を取る。そして、イルシアにパイプのある浅尾派主導でこの一件は落着させる。
ひとまずマスコミの批判はろくに情報を把握できていなかった政府、ひいては石川総理に向かうはずだ。そんな状況下で、のこのことここに来れるメンタルはあの男にはあるまいよ」
「でも、オンライン会見って……肝心のジュリは、また『繭の間』に」
僕らを守るために彼女はあの戦闘でそれなりに魔力を使った。地下の「封魔の間」の修復も彼女がやっている。物理的に破壊されたはずの牢が、みるみるうちに元に戻っていくのは僕も目を疑ったほどだ。
そしてやはり、彼女の魔力の消耗はあまりに激しかった。すぐに回復のためあの「繭の間」に戻らざるを得なくなっている。こうなると半日は出てこれない。
綿貫さんはしばらく考え、少し身を乗り出した。
「君が予定していた『同化の儀』、繰り上げることはできまいか」
「……!!それでジュリを引っ張り出すんですか??しかし……」
「できないならジュリ以外の人間に出てもらうことになる。ただ、日本語が流暢に話せるのは彼女だけだ。後は全員通訳が必要になる」
それが意味することは僕にでも分かる。まずその動画は信用されない。
ただ、「同化の儀」を予定より早めるなんてことができるのだろうか。ゴイルさんは「儀式自体はそれほど時間はかからない」と言っていたけど。
「ちょっと相談してみます」と、僕は綿貫さんを残して小会議室を出た。まだ混乱が続いているのか、下の階の方がかなりざわざわしている。僕はそれをよそにゴイルさんの執務室に向かった。誰か中にいる気配がする。
「失礼します」
『だからあんたのやり方は生温いと言ったんだ!!』
入るなり怒号が聞こえてきた。ガラルドさんだ。
『ペルジュードの連中がこっちに来ているにもかかわらず、こちらの兵士は一切何もしないでここに籠ってろだと!?だからこれだけの被害が出たんじゃねえかっ!!』
『ガラルド、落ち着きなさい』
シェイダさんがそれを制する。彼女はガラルドさんほどではないけれど、強硬派の一人ではある。
『流石に私たちがこの世界の人間に交じってペルジュード討伐に動くことは現実的ではありませんでしたわ。ただ、こっちの世界の人間にいいように言われた結果がこれなのでは?』
『そうかもしれん。だが、こちらの被害は最小限に抑えられた。むしろ感謝すべきはこちらの方だ。4人の尊い犠牲を払って、我々を守って……』
『しかし彼らを撃退したのはノアとトモ、それによく分からないタカマツとかいうカルディナの工作員ではないですか!?我々の手によるものでは……』
シェイダさんが僕の存在に気付いた。敵意のある視線を向けられ、一瞬たじろぐ。
『とにかく!!イルシアという国は我々のものですっ!!そこを、くれぐれもお忘れなくっ』
『分かっておるよ。イチカワ君、少し、席を外してはくれんかね。彼らともう少し話さねば……』
僕ははっとなった。さっきのオンライン会見の話は、今の話とも噛み合う。
そもそも会見で何を話すかの詳細はまだ決まっていない。精々、ペルジュードの襲来とその脅威がなお残っていること、そして今日4人の自衛隊の人たちが亡くなったこととその哀悼ぐらいだ。
細かい調整は3時間後ぐらいに来るらしい篠塚さんというPR会社の人と会ってからになる。そこで会見をいつ、どうやるかを決めるという流れになるらしい。つまり、こちらからの提案もある程度できる、ということだ。
「いえ、ちょっといいですか。僕からも話があるんです。今の話とも、密接な関係がある話です」
『何だそれは』とガラルドさんが不機嫌さを隠そうとせずに言う。彼は「御柱付き」になった僕のことを明らかに認めていない。僕は彼の目を見て続けた。
「実は、綿貫さんから提案がありました。これから、オンラインで会見を開けないかと。ジュリが出席し、今日の出来事についてオンラインで――つまりは世界中に報告するというものです」
『は?そんな魔法みたいなことができるわけ……』
「この世界ではその気になれば子供だって同じようなことができるんです。そういう技術がある、とだけ知っておいてください。
とにかく、ジュリの口から色々話してもらうつもりです。亡くなった人たちへの感謝と悲しみだけじゃなく、イルシアがどういう経緯でここに来て、これからどうしたいのかを」
『そんなことは決まっている!イルシアはイルシアであり、このニホンという国の属国ではないということだ!!』
僕は彼の言葉に応じて「その通りです」と頷いた。拍子抜けしたのか、ガラルドさんは口をぽかんと開けている。
『……な??』
「だから、そういうメッセージを発します。綿貫さんには綿貫さんなりの考えがあるらしいんですけど、とりあえずそれは置いておきます。
こちらからは、あくまでイルシアは主権を持った独立国家であるという点を強調します。その上で、日本と同盟を結ぶ。そのための特使は、こちらから指定する……そういう方針を示せればと」
『上手く行くのか』
「分かりません。ただ、世論工作のプロを呼んで相談することになってます。その人に、ひとまずお任せしようかと」
頭に?が浮かんでいそうなガラルドさんをよそに、ゴイルさんは事情を理解したのか『なるほどな』と頷いた。
『要は、国民を説得する話術師のような存在に協力を仰ぐ、ということか』
「ええ。ただ、それにはジュリが必要です。今彼女は『繭の間』にいますが、『同化の儀』を早めてもらうことはできますか」
ゴイルさんは目をつぶり、しばらくしてガラルドさんとシェイダさんを見た。
『お主たち、しばらくこの部屋から外してもらえぬか』
『……何故です』
『イチカワにだけに伝えたい話がある。お主たちにとって都合の悪い話ではないが、『御柱付き』以外には伝えてはならぬ決まりだ』
『本当なのでしょうね』
静かにゴイルさんはシェイダさんに頷く。軽い溜め息をつき、シェイダさんは『行きましょう』とガラルドさんを促した。
『どのぐらいかかります』
『5分もかからぬよ。すぐに呼び戻す』
『……分かりました』
シェイダさんたちの気配が消えて、ゴイルさんは目を閉じた。何か重大なことを伝えようとしているのだと、僕は悟った。
「何かあるんですか」
『『同化の儀』は行おう。ただ、やはりお主に黙ったまま遂行するのは儂の気が引けてな』
「何か、デメリットがあるんですか」
『お主と御柱様にはない。だが、儂にはある』
「それって、どういうことですか」
嫌な予感がした。よく考えれば、「誰が『同化の儀』を発動するか」は知らされていない。そして、それは恐らく……
ゴイルさんが静かに告げた。
『『同化の儀』を発動する際に使う魔力は、儂の命を以て賄う』




