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勇者の血を継ぐ者  作者: エコマスク
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【456話】 月夜のダカットとアンと

リリア達は墓地の様子を見るべく深夜前にリーヤ村のゲートに集合している。

夜空には星が散らばり、雲は有るものの晴れと言って良い天気。

メンバーはリリア、アリス、ルナ、アンと村長で対応することになった。

いちよう勇者リリアと仲間達のフルメンバーで集まったのだが、アンを中心とした作戦会議でレクイエミストのアン、プリースト技能者のアリス、ルナ以外の物理、あるいは物理的魔法攻撃者は無理に出ていく必要はないとなったので、ペコ、オフェリア、コトロは村で待機、っというかそのまま休める事になった。


「恐らくそれほど脅威となるような事態にはならないと思います。また、ソウル系の問題でしたら物理はあまり意味が無いですし、多少ならこのメンバーで対応できるでしょう。他の方は休まれても良いと思います」アンが対処の概要を伝えてから皆に告げる。

「集まったし別に墓地の傍に皆で待機しても良いけど…そういうなら遠慮なくベッドに戻るわよ」ペコ。

「…そういうことなら私も部屋で休んでるわ」オフェリア。

「私もここまで来たからには… いちよう精神効果の呪歌がありますが… まぁ、休んで良いと言われているのに私だけ押し切っていくのもなんですからね。私も部屋に戻っていますから何かあったら呼んでください」コトロの言う。

休める時に休むのも冒険者の務めであり、作戦の主導者の言葉に従わずワラワラと沸くように人がうろつくのも好ましい事ではない。

フレンドリーファイアー等を考慮しての事かも知れない。

休んで良いと言われているのに「私はやります!」と妙なやる気を見せるのも周囲とのバランスを考えると宜しくない時もある。

アンの話しでは、日中の時点で施した魔法陣が役に立つだろうし、その上で何か出てきてもアンが十分対応できるレベルの事態を想定しているようだ。

こっち系統のトラブルには疎いリリア達でも、そんなに凶悪な物が出現している事態ではないことは何となく想像できるし、アンがそういうのであれば、アンの言う通りのようだ。

ペコやオフェリアも「来なくて大丈夫」と言われたら遠慮なく休む方だし、コトロも別に無理するような正確でもない。

「自分達が作戦に必要なければお任せします」ってな感じ。

そもそも、一般の魔物退治などとは違って魂がどうのとか、思念の残像がどうのとか、気持ちの振るわない事である。


「そっか、まぁ…確かに言われてみたら物理属性は今回意味無いかな。あたしもベッドに戻ってるよ」リリアが言う。

「何言ってるの?リリアは責任者でしょ。ちゃんとついてきて」アリスが微笑む。

「え?あたしは行くの?あたし、思いっきり物理だよ、弓だからね。だいたい、こういうオカルトっぽいの苦手だし、嫌いだし…」リリアがゴニョっている。

「あんたねぇ、アンが主導するけど、あんたがリーダーだろ。勇者が聞いてあきれるわ、アホおっぱい」ペコ。

「控えに名前が出てこなかったのに何勝手に休んじゃおうとしているんですか。リリアはリーダーとして行くのですよ」コトロ。

「えぇ…そうなの?… アン…」リリアは切なげにアンを見る。

「どちらでも構いませんが…皆の意見に従うべきでしょうね。大丈夫ですよ、脅威になるような事態はないでしょう。むしろ墓地の傍で待機している時間の方が不気味かも知れません」アンが言う。

まぁ、そんなこんなでメンバーはリリア、アリス、ルナ、アンと村長になった。



で、『何かが墓地に出る』時間帯の少し前からリリア達はランプの灯りを頼りに墓地の傍で待機を始めた。

最初にアンが魔法陣が発動する条件が壊れていないか魔石の状態を確認した後は皆で石や切り株などに腰を下ろし、雑談や今後の墓地の運営方法を村長を踏まえて話しながら時間を潰す。

月夜のせいか墓地の背後に迫る森の影がやたら大きく不気味に思える。

振り返ると高い木柵の内にある村の家々もほとんど灯りは付いてないようで、月夜の明かりの中で影を作っている。

時折風が森の樹々が迫るラインに沿って吹き抜けていくが、そろそろ春の訪れを知らせるように温かい空気感があるのだが、墓地周辺は森が迫る草原独特な冷たい空気感が漂う。

皆、ちょっとした上着やクロークをひざ掛けにしながら待機中。

「森の中にいるの、野犬か何かだよね、ダカット」リリアが言う。

先ほどから樹々の奥からは何か野生動物か何かの気配が時々している。

「ここからじゃ分からないよ。けど、襲ってくるような距離でも気配でもないと思うよ」ダカットが応える。

「…ん よし」

リリアは軽く言うと立ち上がってポーチに手を入れる。

「皆、手を出して! はい、燻製ハムとビスケット」

リリアは皆におやつを配って回る。

「チーズとクラッカーの次はハム?色んな物を持ち歩いているのね」ルナが笑う。

「キャンティーンに紅茶も残ってるよ。それにまだドライトマトの燻製と焼きパンもあるよ。だって絶対長丁場だと思って色んな物を準備して来たんだよね」リリアが笑う。


「ちょっと無縁墓地と村の墓地を見てきます」

アンはハブとビスケットを口に放り込むと立ち上がった。

「OK!ついて行かなくても大丈夫?あ!ダカットを貸すよ。真っ暗でも見えてるし、全周囲見えるし、多少だけど魔力や生命力を感知できるみたいだし」リリアがホウキを差し出す。

「は?ちょっ… 俺いいよ、だいたい貸すとか俺は物扱いかよ」ダカットが何か言っている。

「あんたねぇ、普段はおんぶに抱っこで連れて回ってもらってるんだから少しは役に立ちなさいよ」リリアはそういってホウキを翳す。

「… せっかくなのでダカットも一緒に行きましょう」

アンはリリアからダカットを受け取る。

「ところで、リリアさん、勇者って普段は何を…」

村長やリリア達がおしゃべりするのを背にアンはダカットと大鎌を手に巡回に出る。



ダカットがアンを見る。

フードを目深に被った口元だけが僅かに微笑んでいるようにも見えなくない。

”綺麗な人だなぁ”ダカットは思う。

”これが魔族なんだ”ダカットは思う。

リリアが、リリア達が美人であるかどうかは断言できないが、リリアやアリス達は皆、個性的ではあるが整った顔立ちで平均以上であると言って良いであろう。

だが近くで見るアンは彼女達と違う一段二段上の外見を持っている。

外見だけではなくそれ以外の何かを纏っている感じで、必要に応じてそれは強弱するようでもある。

ダカットはアンが苦手である。

いや、魂だけホウキに宿ってしまったダカットにしたらアリス等のプリースト系統の技能者も苦手感がある。

「あなたはリリアにあまり構わないようにね。あなたはこっちにいるべきではない」

アリスが時々微笑みながらダカットに語りかける。

その時、アリスはゾクっとする様なオーラを出す。

そのオーラの中で自分が待機中に散ってしまいそうなオーラ。

ダカットも自分はあまりホウキの中に留まるべきではなないと理解しながらも、もう少しリリアを傍で見ていたい気持ち。

アリスは攻撃系の魔法を使わないが、リリア達の中ではかなりアリスの実力は認められている。

詳細を知らないダカットでも冒険者ギルド・アーマー&ローブのメンバーはなかりの手練れが集っている。

その中でもアリスはかなりのリスペクトを受けている存在である気がしている。

事実そうなのであろう。


アンは…

リリア達もアンの実力はそうとうなものだと認めている。

っというか、リリア達全員、アンはまだまだ実力の半分も見せておらず、本気にさせたらそうとうなスキルの持ち主だと話している。

恐らくそうなのであろう…

いや、間違いなくそうだ…

ダカットには魔族のアンの怖さが伝わってくる。

もちろん本気のオーラには触れたことは無いが、蓋のしてある容器をちょっと触れた時に手に伝わる感触で、容器が満水か空なのか見当がつくかの如く、何となく凄さが伝わってくる。

時々一瞬放つオーラというのか、気配というのか…

とにかく恐らく相当な兵であるはず。

そして、アリスやルナ、他の治癒術や、神聖魔法使いの放つオーラとは全く違ったオーラ。

例えばアリスがダカットに向けてくる感じ、ダカットはその気によって混ざり合い、空中に意識が拡散されていき、天に登る様な感じが伝わる。


アンの場合…

何かが口を開き、底なしの深い海の中、闇の中に延々と飲み込まれていくような感覚。

逝かされると言うより、何かに囚われていくのであろう感じ…

アンは魔族なのだと納得する。

”それにしても… 美人だな…”

ダカットは口元を眺める。

肉体の無いダカットは欲情という感情はあまりないが、もし自分がまだ肉体を持っていたら、普通の男だったら魅了されるだろうと思う。

蒼いと評して良いほど透き通るような肌。

魅力的な口元…

ダカットは強烈に引き込まれそうに…


ダカットの意識になにかがポワポワと光るように訴えかけてきてダカットは慌てて意識を逸らした。

見返すとアンは明らかに微笑んでいる。

まるでダカットの気持ちを察したかのように一瞬、瞬くようにアンの美に惹かれていた。

「………」

ダカットはアンから意識をそらし周辺の様子を伺う。

アンはそのまま村人の墓地を回り無縁墓地の傍に立った。


「わかりますか?」アンが口を開いた。

アンがダカットを少し無縁墓地に向けて翳す。

「え?…わかんないよ。村の墓地は静かだった。でも、やっぱりゾンビになってしまった人の何かがあった気はした。こっちはやっぱり何か嫌な感じがするよ。ちゃんと癒されてないというのか… 上手く言えないけどザワザワしとしてるのは地面から感じるけど… よくはわからないよ」ダカットがしどろもどろに返答する。

アンはダカットの言葉を静かに聞いていたが墓地の裏手まで行くと森の中の気配を伺い出した。

ダカットも森の中を伺う。

”野犬か?狼…か… 四頭程度か… こっちの様子を見ているな”

ダカットは気配を見積もった。

「腐臭に煽られて来ていますね。ただ、変な気を感じているのでしょう。様子を見ているといったところでしょうか」

アンは呟きながら鎌とダカットを束ねるように掴むと、空いた手を森に向かって翳した。

ダカットの意識が一瞬引っ張られるように、引きちぎられるように歪む。

「ま!待ってくれ!俺までもってかれる!!」

ダカットが慌ててアンにいう。

「あなたがいましたね」アンはクスクスっと笑う。


アンは改めて手を翳すと短い言葉を唱えた。

今度は何かが一瞬にして手から放たれた。

「キャン!!」

樹々の奥で悲痛な鳴き声がし、何かが大慌てで暗い樹々の奥に散るように走り去っていった。

アンは闇の中を確認するようにしばらく立っていたが、やがて踵を返してリリア達の方に戻り始めた。


「な、なぁ、アン。さっきのわざとやったろ」ダカットが口を開いた。

アンはランプも持たず、月明かりを頼りに墓地の傍を歩いて行く。

「私の場合、人間にとっての善行は捧げものという代償を必要とする場合が多いのよ。でも、今回はやめました。あのような代償の取り方はあの娘が嫌がるでしょうから」

呟くようなアンの言葉を聞きながらダカットはリリアを思い浮かべる。

「… 答えになってないよ」ダカットが呟く。

「あなたの様な存在は捧げものとして随分と都合の良い存在なのですが…」アンは静かに言う。

「………」ダカット。

「アリスは当分あなたを見逃すと言っています。私もしばらくは見逃しますよ。しっかりリリア達の仲間として役目を果たすのです」

アンが言う。

アンは笑っているようだ。


「………」ダカット。

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