【455話】 墓地に出るもの
ここはリーヤ村。
山に囲まれた盆地にある小さな村。
リリア達はトールさんと商人の馬車を引き連れてリーヤ村に到着。
魔物騒ぎで商人が寄り付かなくなってしまっていたので物資の到着に村人は大喜び。
トールさんも他の商人も日用品や雑貨は飛ぶように売れ、運んできた素材等も取引が成立した。
今回は売る側も村人も利益か一致して完全にウィンウィンの状態となった。
出店等の方は一段落したのでリリア達は村長と村の男を伴って村外れの墓地にやってきた。
村長の話しによると夜になると怪しげなものが墓地に出現しているらしいのだが、とりあえず明るいうちに一度現場を見て何か発見がないか確認をしておくことになった。
村を出て少し歩くと簡単な柵に囲まれた村の墓地と今回のゾンビ騒ぎで葬った無縁墓地がある。
可能な限り綺麗な状態で丁寧に埋葬し、アリスとルナがゾンビとして復活しないように術を施したが、鎮魂関係は二人とも専門外なので何か起きているのかも知れない。
「この辺だな、夜この辺りに来てみたらあの柵の中を何か黒い影のような物が動いていたんだ」
村長と村の男がある程度の距離に来たら墓地を指さした。
「これぐらいの距離からですか…」
コトロが応じながらリリア達は距離を確かめるように村を振り返ったり、墓地を眺めたりしている。
「距離で50以上あるかな?100は無いよね。70,80と言った程度かな?月の灯りとかはありましたか?」リリアが尋ねる。
「見た時は晴れだったか?雲はあったけど星空で月明かりも出ていたが、墓地の周りは林になっていて暗かった。分かりにくいが確実に何かがいたんだ」村長。
「あぁ、確かだよ。手前のあの辺から俺が気が付いたんだ。それで、確認のためにこの辺まで来た。俺も村長も何かが居るのは確実に見たんだ。怖くってこれ以上は近づけなかった」村の男。
「もう一人も確認している。皆ランプと武器を手に確認に出ていたが、恐ろしくてこれ以上は近寄れずに逃げ帰ってしまった」
村長も村の男も主張する。
「この一週間なら下弦の月の週ですね。暗くも明るくもない夜ですよね。背後の樹々の影が何かに見えた可能性もありますが、複数の人間が何回かにわたって何かを見たと言うんですから何かがいたんでしょう」コトロが言う。
「何だか…直感で普通の動物や墓荒らしなんかでは無いと感じて、怖くなって逃げてしまったよ」村長。
「いや、クマにしろ墓荒らしにしろ魔物にしろ、すくむ様な恐怖を感じたなら逃げて正解です。無理をするのが一番危険よ」ペコが応じる。
「とりあえず近くに行ってみようか」
リリアが言うと一同は墓地の方に歩き始めた。
「特に変わった様子はないよね」
リリア達は村の墓地を見てから無縁墓地の方にやってきた。
夕方近くになり、樹々の影がところどころ落ちているが見かけは特に何も無さそうだ。
柵が壊されているようなことも無ければ、整然と並ぶ小さな墓標も掘られたり、土がどかされたような跡もない。
「荒らされた形跡も、掘り起こした様な跡もないわね」オフェリアが言う。
「見たところ異常無しだよね。ダカット、あなたは何か感じないの?」リリアがダカットに聞く。
ダカットは若干だが生命の存在や残留思念的なものを感じ取っている場合が多い。
「うーん…思念が強く残っていなくもないけど、どこの墓地にも多少はある程度だと思うよ。夜何かが現れている時ならわかるけど、今は特にないかなぁ…」ダカット。
「村長さんたちが何かを見たのが見間違いじゃないとして、スピリチュアルなものではないってこと?」オフェリアが尋ねる。
「そうとは限りません。残留思念等は月の光、満ち欠け、妖精や精霊の干渉、善意、悪意の影意図的な関与などにより、小さな思念が集まって増幅されて意志や魂のようなものを形どったりすることもあるのです」アンが言う。
「やっぱり何かが夜になると現れているってこと?」リリア。
「人々の想いが集合体となり、何かの影響を受けている可能性は否定できませんが…」アンが言う。
「結局夜になったら皆で見張って対応するしかないのか…」ペコ。
「… 鎮魂は済ませてあり、悪意の物にしろ善意の物にしろそれほど恐れる現象ではないでしょう。墓地から出てこないのであれば何かに呪縛された物かも知れません。夜に見張るとして、何が現れても直ぐに対処できるように結界のようなものを作っておきましょう。これにより出現しなくなるかも知れません」
アンはそう言うと魔石を六つ取り出して、一つを無縁墓地の中央、残りの五つを墓地を囲むように等距離に五角形を作るように置いた。
アンは自らの首から下がるペンダントを握ると呪文を唱えて複雑に手を動かしながら魔石の周辺を歩いて行く。
「あの女性は?」村長が傍のリリアに尋ねる。
「彼女はアン。プロセルの街の正教会でシスター職をしているの。レクイエミストですよ」リリアがちょっと誇らしげに応える。
「これは何かの儀式?それとも魔法による何か?」村長。
「んー… 魔法による儀式のようななにか…かな?… 後で説明があると思う」リリアはちょっと誇らしげに応える。
アンが何かを唱えながら最後は中央の魔石に向かって魔法をかけると一瞬鮮やかな紫の光が複雑な図形と文字を墓地中に浮かんでは鮮やかだがちょっと不気味な雰囲気を残して消えていった。
「これで魔法陣は整いました。もしかしたらこれで何も現れなくなるかも知れません。今夜確認をしますが、出現するにしろ、手に負えない存在とならないでしょう」アンが言う。
「鎮魂してもらったのでしょうか?」村長がアンに尋ねる。
フードを真深く被ったアンは村長と村の男の方を振り返りながら言う。
「鎮魂するようなものだと考えていただいて構わないですわ」アンは目線を伏せたまま返答している。
「鎮魂するようなもの…」
村長はアンの表現に村の男と顔を見合わせて小首を傾げるようにし、ちょっとの間アンをシゲシゲと眺めていた。
「… 質問がございましたら何なりと…」アンが静かに言う。
「い、いやぁ。村人が安心して暮らせるのであれば、それで良い。説明を聞いても私らにはわからん。それで…今夜はもう一度ここまで来るのかい?」村長がリリアに尋ねる。
「えー…」
リリアがアンを見るとアンは静かに頷いている。
「はい、確認に来ます。何かあるようなら対処しますよ」リリア。
「よし…わかった。じゃぁ一旦村に戻って夕食の支度だ。でかける時間が分かったら知らせてくれ。私も見に来る」村長が言う。
「村長さんは無理に来なくても… あぁ、まぁ責任がありますからねぇ… リリアも幽霊関係ならあんまり… あぁ、まぁ責任者としてねぇ… うん!よし!わかった!皆で来れば怖くない!皆集合です!村長にも後で知らせます」
こんな感じで、一旦お開きとなった。




