【453.5話】 リリアとドラゴンシューターと
「げっ!キャシィ…」
ギルド拠点に戻ってきたリリアはデスクで待っていたキャシィを見て明らかにテンションが下がっている。
「なんなの?ペコが早く帰るようにっていうから戻って見たら…キャシィじゃない」
リリアは付き添って一緒に戻って来たペコに文句を言う。
「だってキャシィが用事あってリリアを探しているっていうから私はリリアを呼びに行っただけだわよ。どうせ、いつかは顔を合わせないといけない間柄だし」ペコはニヤニヤとしている。
中古の馬車を買ったらすぐに荷物を手配できるようにトールさん達と店を回っていたリリア。
ペコがリリアを街中に探しに出ていて、マーケットをウロウロしていたリリアを連れ戻して来たのだ。
「お客さんが来てる?誰よ?」
リリアが聞くとペコは意味ありげに笑いながら「来たらわかるわよ」と答えるだけで手を引くように戻って来た。
で、リリアが戻って来てみたらキャシィが待っていた。
「リリア殿!聞きましたよ、リアルゴールドの店長から。リリア殿は最近お金に困っているらしいですね」
リリアが拠点の事務所に入って来るなりキャシィはいそいそと口火を切るように切り出す。
「はぁ?別にお金になんか困って無いわよ。あたしこう見えても…」
「聞き及んでいます。最近はお店に現れて店長に頼んで買い物を値切り倒しているそうですね」キャシィは言う。
「いや、だからそれはね…トールさんって商人の人が荷物を全ロスしちゃって、保険や見舞金が…」
「失礼ながらリリア殿は仮にも王国の公認勇者、大陸を股にかける大商人ギルド・リアルゴールドとの契約者なのです。そのような困窮状態ではイメージに悪い、勇者たる者は風格、威厳、尊厳が大事。威風堂々、マントを靡かせ肩で風を切って眼光するどく…」
「いや、だからね、あたしは別にお金に困って…そもそも仮にもってなによ、ちゃんと本当に本物の公認勇者…」
「そのような!ことでは困るのです。いくら懐が厳しく貧しくとも勇者たるものは心豊かに、武士は食わねど高楊枝と申しまして…」
「ブシ?あのねぇ、それは異大陸の戦士の職業でしょ。リリアちゃんは弓だし…」
「嘆かわしい!公認勇者でありながら、リアルゴールドの契約モデルながらそこまでの生活を強いられているとは、実に嘆かわしい!」キャシィが頭を振る。
リリアは何かを言いかけたがコトロが制す。
「リリア、ここまできたら全部一回話を聞きましょう」コトロ。
「聞くって言うか…聞き流すわよ」
リリアはかなり不満そうだがコトロに言われて黙り込んだ。
ペコはその様子をニヤニヤしながら見ている。
「良いですか?リリア殿。実力が見合わないお飾りの公認勇者とは言え、仮にも勇者です。お給料が出ているはずでしょう?リアルゴールドからもモデル契約料をもらっているはずです。まぁ、お飾り勇者なので国からのお給料は大したことはないとは思います。が、大したことない勇者であっても、リアルゴールドからはそこそこ大した契約料が入ってきているはずです。人気アイドル冒険者や、人気バードグループ程では無いにせよ、未だに少しも知名度が上ってこない、弓を担いでウロウロしているちょっと胸と態度が大きい、その辺の田舎から出てきて街で冒険者しています風で、特に実力のないリリア殿にちょっとしたモデル料が支払われているのが現状です」キャシィが言う。
「何なのあいつ、この現状を暴力と実力を持って打開していいかな」リリアがコトロに呟く。
「リリア、がまんですよ。キャシィの言っている内容自体は的を得ているのです」コトロが言う。
ペコとダカットが見ているとリリアのテンションが一段上がったみたいだ。
キャシィは続ける。
「ギャンブルだか男に狂ったのだか知りませんが、自堕落な生活をしたあげく生活に窮し、勇者たる者がお店のアイテムを買い叩いて、物乞いして体を売って歩いて、道端の物を拾い食いして万引きして…」
「おおおおいぃ!!てめぇいい加減にしろぉ!どんだけバカにしてんだぁ!いつリリアが拾い食いしたぁ!たまに顔合わせたから穏便にしてやろうと思って黙って聞いてやってりゃぁいい気になりやがってぃ!!渾身の力で鉄山靠決めてやらぁ!微塵も手ぇ抜かねぇからなぁ!覚悟しやがれぇ!」
リリアがぶちぎれだしたのでコトロが止めに入る。
「リリア、ダメですよ!暴力振るった方が負けですよ。ここは落ち着いて。落ち着きの呪文を教えます。お土産三つタコみ…」
「うるっせぇんだぁ!何だそのどこかで聞いたような呪文は!!だいだいおめぇだって、なんだかリリアの事バカにしてんだろぉ!リリアにはわかってんだぁ!ちょこっと便乗しながらリリアの事をディスりやがったことを知ってんだぁ!勇者のスキル、便乗ディスりファインドを侮るなぁ!!」
その場にいたコトロ、ペコ、オフェリア達が懸命にリリアを制する。
で、キャシィは何用かと言うと、お金に困っている勇者リリアにタイミングよくあるバイトを盛って来たと言うのだ。
まぁ、正確には専属料を払っているので臨時収入のあるバイトではなく、これは契約としての仕事らしいが。
キャシィはリリアモデルVer2の勇者リリア装備セットに新たなアイテムを加えると言う。
「どうせ、全裸チックな破廉恥装備でしょ!いやだから!」リリアが反発する。
「いえ、今回は新たな武器です。弓です」
キャシィは言いながら手をパンパンと叩くとバーのドアが開いて助手風の男が大きな包みを置いて行った。
「え?この包大きいくない?弓?」リリア。
「今回は武器なので恥ずかしい恰好はしなくて良さそうですね」コトロ。
担ぎこまれた包を見ながら言う。
「そこ?手を叩いたら持ってくる連中とか…どこで聞いていたのか、どこで待機していたのか… そっちの方が問題じゃない?」ペコが呟いている。
で、包みから取り出すと、立派で恰好良い弓がでてきた。
が、かなりデカい。
超一流の業物なのが外見からすぐに分かるほど装飾されたデカい弓。
「これ、あれじゃないですか?確か…」コトロ。
「ドラゴンシューター」ペコが後を引き継ぐ。
「本物?… なわけないわよね…」オフェリア。
「名前からして… 格好良いじゃない」リリア。
「コホン… よくご存じですね。いや、伝説級の武器ですから、知名度は高いはずです」キャシィが誇らしげ。
「レプリカでしょ。私は一回ルーダ・コートの街の王立博物館で期間限定展示されていた伝説の武器展で本物のドラゴンシューターを見たわよ。あれがこんな場所に出てくるはずがないじゃん」ペコ。
「五年前くらいですよね?私も伝説武器展に行った時に見た記憶があります。ドラゴンシューターのレプリカのようですね」コトロ。
「こちらは本物のドラゴンシューター… っと、言いたい所ですがご明察通りレプリカです。本物はフリート帝国の帝国博物館に展示されております」キャシィが言う。
「ドラゴンシューター?聞いた事あるけど…前回ルーダ・コートの街の博物館で、勇者エジン展をやった時にはこんな弓は見なかったよ」リリア。
「マジ?あなた弓使いなのにドランゴンシューター知らないの?モグリじゃない?」ペコ。
「伝説の武器=勇者の武器ではないですよ、リリア」コトロ。
「リリア殿…今回はまぁ、良いですが、基本的に先ずは許可を得てから触れるようにしてください」
リリアが弓を手に取るとキャシィに注意された。
「重い… そうなん?だってこれ私が使用するのに持って来たんでしょ?触っちゃだめなの?これで射てみてくれとかって話でしょ?結局触るじゃない」
リリアは弓を手に取って弄りまわしている。
「リリア、マナーというものですよ。この場合はキャシィに一言声をかけて許可を得るのがベストです。もし勝手に触ってはいけない部分があったら困りますよ。リリアだって勝手に自分の弓を弄繰り回されたら嫌ですよね?」コトロが注意する。
「そね、言われてみるとね。じゃ、これでさっきの失礼な態度と天引きね」リリアが屈託なく言う。
「コホン… これはかつてのハーフエルフの偉大な冒険者、モルガレンがリブトーチカの街を襲ったグレーケールドラゴンを射貫いた時に使用していたとされる伝説の弓、ドラコンシューターのレプリカです。モルガレンはグレードラゴン討伐のために、当時の高名な武器職人、ドワーフのグフブに特に頼んで作ってもらった業物とされています。モルガレンが街に飛来したドラゴンをこの弓と特注の矢で鱗を射抜いたとされ、ドラゴンシューター、またはディフェンダー・オブ・リブトーチカと名づけられています」キャシィが説明する。
キャシィの説明を聞きながら皆リリアの周りに集まってきて弓を手にしたり眺めたりしている。
「今回はこのドラゴンシューターを勇者リリアモデルの装備品のラインアップに加えます。そこでリリア殿にはこの弓でデモンストレーションを行ってもらいます。リリアモデルVer.2の売れ行きもいまいちです。リリア殿の得意な分野で高名な武器とコラボさせることで売り上げのテコ入れを計ります」キャシィが言う。
「えらくまともなコンセプトね… 面白くないわよね… って、リリア?あなた泣いてるの?」
ペコがつっこみを入れながらリリアを見ると、リリアは涙ぐんでいる。
「なんか…今までで一番まともじゃない。感動もするわよ。今までは慣れない大剣でしかも、何だかよくわからない、宣伝文句を一しきりしゃべらないと鞘から抜けない剣とか、乳首と股間くらいしか隠れてないビキニアーマーとか着せられて、しかも闘技場で無理にマッチングされてボッコボコにされて、全裸でローパーに犯されかけて… それが、契約四年目にしてようやくちょっとまともな扱いになって来たよね」リリアは涙を拭っている。
「今回は弓ですが、基本的にはモデルVer.2のテコ入れなので裸同然のアーマーを着るのは変わりません」キャシィがきっぱり言う。
「あぁそうですか、やんない、私やんない。冒険者同士から散々バカにされるかし、主婦からは変態扱いされるし、男からは娼婦と間違われて、子供達からは教育に悪いからと遠ざけられて… もうあれは着ない、決心したの」リリア。
「契約がある以上はそのようなわがままは許されません。契約のスクロールにサインされた通り、規約違反があればヤギのヒゲになってしまいます」キャシィ。
「… まったく… でもねぇ、どっちにしても無理だよ。弓が重すぎるし、そもそも私の背丈以上に大きな弓だから、まともに握って射ろうとしたら足の長さ以上に弓があるよ。これって本当にこのサイズ?私よりまだまだ高身長の人が扱うか、水平に構えないとまともに射れないわよ。これだと魔族の男性とかオークやオーガ男性、トロールあたりが使う弓のサイズでしょ。しなりも重いし、弓と弦と両腕の距離が遠すぎて力が入んないというか、まともに狙えないと思う」リリアが言う。
「やっぱりリリアでもそう思うのね。持った時は、こいつこんな弓を扱えるのか、化け物かと思ったけど同じ人間の女性として安心したわ」ペコ。
「まぁ、実際モルガレンが倒したと言うより、城壁に備えてあったバリスタが活躍したと言う話も伝わっていますし、あくまで伝説ですよ。ハーフエルフのモルガレンの身長がそれ程高いとは思えないですし、水平に握ってそこまで力が入るのか… ま、他の伝説に漏れず後世の後付け的な逸話なのでしょう」コトロ。
「ドラゴンと戦ったことないけど、そもそも矢が大きくなったと言っても、この重量の矢がドラゴンの鱗を突き抜けたとは思えないからね。これにさらに弓に重量補正、矢には切り裂きか爆発か、何かをエンチャントしていないと実際問題としてドラゴンを倒せたとは思えないわよ」ペコ。
「射てみるとして、水平構えかカントに構えるしかなさそうね。これだと相当肩に負担になるし、引き絞り切れない場合は精度も威力もガタ落ちになるわよ」
リリアは色んな構えをして、ドラゴンシューターを引き絞ってみている。
「リリア殿、さすがです。弓を構える姿はかなり様になっています。剣を持っているより絵になっています」キャシィが言う。
「え?…えへ…そ、そうかなぁ、まぁリリアちゃんは弓の勇者だからね」
リリアは褒められてまんざらでも無い様子で弓を構えている。
「確かですね。はやり弓はしっくりきていますよ。大きな弓を手に構えるリリアは凛々しいですよ」
「私も同じことを思ってたわよ。勇者っぽいかもね」
コトロとペコがリリアを褒めるとオフェリアも頷いている。
「重さはエンチャント士に伝えて重量補正をいたします。今回はその弓で少し練習していただいて、街中でデモをおこなってもらいます。よろしいですね?」キャシィが言う。
「うっふっふ、まぁ得意分野の弓となれば断れないわよねぇ。格好良く決めちゃおうかな。ちょっとがんばって練習しとくわよ。リーヤ村に出発準備で忙しいけど、契約のこともあるし断れないわよね。これ、良い弓じゃない」
リリアは急にニコニコしだしている。
「では、矢を束で置いて行きますので練習しておいてください。日程を調整して明日にでもスケジュールを知らせます」
キャシィは淡々と告げると素早く拠点を出て行った。
「キャシィ、任せて!スーパーショットを決めてやるわよ!」
リリアは弓を手にニコニコ手を振っている。
「単純ね。たぶんビキニアーマーの件を忘れてるよね」
コトロが呟くとペコとオフェリアが頷いた。




