【452話】 小さな勇者さん
リーヤ村から戻った次の日。
リリア達はギルド拠点でディルとミーティングを行った。
改めて正式な教会を建て、プリーストやファーザーを常駐させること。
村の防衛対策の費用を国の予算から出してもらうことを説明した。
「申請は可能ですが、一度村から村長がくるか…役人を村に派遣させて現状を視察する必要はあります」ディルは言う。
「じゃぁ、早めにそれをやってよ、皆不安がってるんだよ」リリアが力説する。
また、街道の治安回復のために賊を一掃する必要性と魔物が蔓延るとされる廃墟の調査と脅威の根絶を訴える。
「引き続き魔物の退治と賊の一掃はリリア達に任せる事になります」ディルが言う。
「魔物の退治はわかるけど、賊なんてルーダリア軍が出てきたらいいじゃない。あの道を使って派兵してるでしょ?物のついでじゃないの。あの辺の賊を追っ払ってよ」リリア。
「軍隊はルーダリア軍部の指揮下で、作戦に基づいて行動しています。ついででは動きません。賊の数が大規模で国家や明らかに国に影響を与えるような脅威があるか、国家存亡の危機をもたらすような物であるなら動きますが、基本的に地方村周辺の賊ごときには出動しません。賊が何百人と潜んでいて、明らかに集団的武力を乱用しているのであれば動かない事もないですが、現状無理でしょう」ディル。
「なんなの?村だって納税してるでしょ。村人が生産して国がなりたってるんでしょ?だったら賊の行為は王国にとって不利益になってるじゃないの。隣の国といがみ合ってるなら国内のことの何とかしなさいよ」
リリアは言うが、結局ディルはお決まりごとに従って言うしかない。
「しかたないですよ、リリア。とにかく廃墟の事と賊を調査しましょう」コトロが助け舟を出す。
「まったく… ディル!廃墟と賊は何とかしてみるから、冒険者が必要になったらその分くらいはちゃんと国から援助を貰ってよね」
そんな感じで、リリア達は再び、リーヤ村に赴き、活動を継続することなった。
ディルとのミーティングが終わるとトールさんとロンドさんを呼びに行って、再び拠点でミーティング。
こちらは荷物を全ロスしたトールさんに保険を出してもらわないといけない。
リリア達はテーブルでミーティングを行い、コトロは約二週間ぶりにばー・ルーダの風をオープンしながら、たまに話し合いに参加している。
「コトロちゃん、前を通ったら久しぶりにオープンしてたから立ち寄ったよ」
「クエスト長引いたのかい?今回は結構長かったな」
「ギルドバーはこれがあるから、大変だなぁ。ま、仕方ないけど」
「三日間お店を閉めますとか張り紙だしておいて、時々メンバーが全滅して、延々とクローズするギルドバーとかあるからな、あれだけは勘弁だぜ、コトロ」
「俺も予定日過ぎてもお店が開かないとドキドキするぜ。全員全滅からのしばらくして、看板が粛々と取り外されてたりするのをみると切なくなるぞ」
二週間ぶりに”OPEN”している”ルーダの風”に常連さんが入ってきて、店は適当に賑わっている。
「トールさん、安心して、あたし達全力で書類を書くから!」
リリアはディルに持って来てもらった書類をテーブルに広げて記帳を始める。
「こっちはトールさんが書いて…こっちの書類は護衛だったロンドさんが… 後はあたし達が証言するからね。見てなさいよぉ、こう見えてもリリアは公認勇者だからね、信用絶大なはずよ。全力サポートよ!」
リリアは相当気合が入っているようで、物凄い筆圧でがりがりと書類にペンを走らせている。
「わかりやすく全力を尽くしてるわね」ペコが呟いている。
「リリア、ちょっと…到着した時にはトロール十匹が逃げ去るところって何よ。相手はゴブリンとオーガだって話しでしょ?」ペコがリリアの書類を見て言う。
「金銀財宝の宝箱を持ち去られた?… こんな荷物は詰んでなかったわよね?トールさん」
ペコの言葉に釣られてリリアの書類を覗き込んだアリスも言う。
「どうせわかんないでしょ?こんなの大げさに書いてちょうど良いくらいだよ。普段は保険金を払ってるんだから、こんな時くらいジャンジャン保証してもらおうよ」リリアが言う。
オフェリアの面倒をみながら書類を書いていたペコが呆れる。
「あのねぇ、リリア。皆の書類見てみなよ。あなた一人だけ全然違うことを書いたら嘘がバレるでしょ?これって詐欺になるよ」
「えぇ?だったら皆があたしの書類に合わせたら良いじゃない」リリアが言う。
「襲ってきた賊の内容はともかく、積んでいた資産なんて、申請時のトールさんの資産や資産申告書を見たら丸わかりじゃん。それに掛け金に合わせた上限額までしか保証はされないわよ。全然意味がないどころか、下手したら保険おりなくなるわよ」ペコは飽きれている。
「えぇ?そうなの?申請したら全額でるわけじゃないんだね」
リリアは残念そうにしているが、皆苦笑いしている。
リリア達とトールさん達は保険ギルド用の申請書と国への申請書、トールさんが所属する商人ギルドに保険や免責申請の書式を整える。
「よし、トールさん、リリアと一緒にリアルゴールド・プロセルの街中央支店に行くわよ」
完成した書類を持ってリリアは皆を促してバーを出る。
「お!勇者リリアちゃん、いらっしゃい」
リリアがお店に入って来たのを見つけてリアルゴールド・プロセルの街中央支店の店長が声をかける。
「アラネコさん、今日もあなたにご加護がありますように。今日はちょっとしたお願い事があって来たの」リリアが挨拶をする。
「オフェリアちゃんも、皆いらっしゃい。今日は武器かね?防具かね?魔法のアイテムかね?ゆっくり見ていってくれ。リリアちゃんの相談なら出来るだけ応じるよ。何か御用かい?」アラネコがご自慢の髭を伸ばしながらニコニコしている。
「今日はね、額は狭いけど顔は広く、お腹も器も大きなアラネコ店長を見込んでお願いがあるの」
リリアは言うと、トールの背中をポンポンと叩いた。
アラネコは目を細めてトールを眺めている。
「始めましてだね。こちらトールさんとロンドさん。こちらはリアルゴールドの支店長、アラネコさん。アラネコさんはとっても良い人…猫なのよ。あたしね、公認勇者で依頼されてこの街で活動しているから、国から色々援助が出てるの。まぁ、ちょっと活動資金が国から出てるってことだけど、スポンサーになってくれているリアルゴールドさんのお店で買い物をするようにしてるんだよね。まぁあたしのお金じゃないから、あんまり値切ったりすることなく、いい値で気前よくポンポンと買い物してる乗客中の上客。エッヘン… あ、でもその代わりキャシィって女にスポンサー料金分の宣伝活動を押し付けられていて、それが結構大変で…」
アラネコさんはニコニコとリリアの言葉に頷いている。
「ちょっと、リリア。話が全然進まないじゃん。自分語りは別の時にやりなよ」ペコがリリアの腕を引っ張る。
「あぁ、そうだったね。そうそう… えー… 実はね、トールさんはここに来る道中で賊に馬車を襲われて全財産を失ったの。それで保険ギルドに申請書をだしたり、王国から還付を受けたり、商人ギルドからお見舞金や前借をしないといけないけど、アラネコさんなら色々詳しくて知り合いが多いかなぁ…なんて思って… 助けて上がられないかなぁ?」リリアが言う。
「ふーん…それは実に大変な目にあわれましたね。命あって何よりでした。リリアちゃん書類を拝見… うむ…うむうむ… 事情はわかった、書式も整っているようだね。ウチも大きいギルドだし、契約している商人も多いから年間に何件もこういう不幸があるよ。 …国の窓口ならポー・ベルマンシュールと言う男を訪ねてアラネコが紹介してくれたと言ったら話が早く進むはずだよ。この保険ギルドには直接かかわりは無いが、ウチは大抵の保険ギルドと関りがある。この街にも支店があるからワシが口を聞いといてあげるよ。商人ギルドの方も知り合いに伝えておく。少しは話が早くなるだろう」
アラネコは目を細めながら書類をリリアに返す。
「ありがとう!助かるわよ!アラネコさんにも勇者の称号を上げたいくらい!国民一人の命を救ったに等しい働きだよねぇ!公認勇者リリアと非公認ながらも勇者なアラネコさん、勇者アラネコ!!」リリアは大喜びしている。
「その代わりリリアちゃん…」
「大丈夫!わかってるわよ。来月もここで仕入れるし、なんならオフェリア、もう一回上から下まで新調しちゃう? へぇ?要らないの?…そうなん?… と、とにかく、来月は値切ったり、おまけつけてくれとかケチくさいこと言わずに買い物するわよ」リリアが言う。
「それはありがたいが、リリアちゃん。それより、またワイルドカウを仕留めた時はテール煮込みを差し入れしてくれよ」アラネコが値を細める。
「OKよ!OK!あいつメッチャ体力あって危険極まる牛だけど、命がけで獲ってくるわよ」
そんな感じで、なんとか書類申請も進み始める。
その後はクラフトギルド・ハンズマンのお店に立ち寄る。
ドワーフのドンノバがリリアに言う。
「この馬車はもうダメじゃい。修理は不可能じゃぞ。っというか修理は可能だが、新車を買うような、下手したらそれ以上の修理になる。まぁ、現実的なのは中古の馬車を買うことじゃ」
焼け落ちた荷馬車のシャシーと車輪部分をお店に置いてきたが、修理不可能とあっさり引導を渡された。
店のバックヤードに置かれたトールの馬車は車輪を支える張りに車輪しか残っていない状態だ。
まぁ一目瞭然の答え。
「そうなのね…ドンノバさん達の技をもってしても蘇らないかぁ… はぁ…」リリアはため息をつく。
「さすがにこれは… 何も残っていない全損と変わんないレベルでしょ」ペコが言う。
「保険ギルドの人に確認に来てもらって、全損扱いにして保険金を出してもらうしかない」アリス。
「襲撃で焼かれたんじゃったか?これはもう全損の判断が出てもおかしくないぞい。馬車は買った途端に価値が下がっていくからな… 買ってどれくらい… なんと、三十年も使っていたのかい。まぁ、車体骨をみるとやたらとがっちりして年代物ではあるとは思ったが… 三十年ではいくらになるのかのう…気の毒じゃが廃車にするなら素材代くらいは出せるがのう…」ドンノバがため息をつく。
「いや、仕方がない。ここまで尽力してもらって助かったよ。馬車も保険をだしてもらうようにして、後は何とかしてみるしかないな」トールが言う。
「わかった、よし!申請書をもう一回取りにいこう。善は急げだよ」
リリアはドンノバにお礼を言うと再び政調舎に向かう。
「あいつ、何だかこういうのは得意だよね。すごいね」ペコがリリアの後ろ姿を見ながら呟く。
「国民を救う勇者ね」アリスが微笑んでいる。




