生け贄編
「しょうがないだろう?」
「・・・・・・・」
「妹が本当は生け贄になる予定だったんだ」
「・・・・・・・」
「妹はもうすでに清い身体じゃないと言うんだから」
「・・・・・・・」
「最近の中学生は進んでるんだな・・・いや、お前は大学生になっても清い身体のままだって言うんだから人によるのか」
「・・・・・・・」
「まあ男と女で違いがあるのかも知らんな。
最近の女の子は進んでいるという事かもな。
何にしても『清い身体』でない者は生け贄にはなれん」
「・・・・・・・」
「予想外だったんだよ。
妹が清い身体じゃなかったという事も、お前が清い身体だという事も。
お前も妹もどちらも可愛い我が子にはかわりない。
どちらも出来る事なら生け贄にはしたくない。
それに本当なら女の方が生け贄には望ましいんだぞ?」
「・・・そうなの?」
「あぁ、女は竜脈から『気』を集める事が出来るんだ。
男は自分の身体の中で気を練る以外に『気』を集める方法はない。
もちろん体力も一度なくなっても回復するように男も一度なくなった気は回復する。
しかし女と違い、男が練る気は有限なんだ。
神獣『九尾狐里』は気を食らうんだ。
男と女では神獣が食らう気の量が段違いだ。
より長く眠っていてもらうには女を生け贄にした方が良いに決まっている。
別に女を生け贄に差し出したい訳じゃない。
でも女を生け贄に差し出す事で結果として生け贄が少なくて済むんだ。
それに『九尾狐里』は活き餌でないと食べない。
つまり『九尾狐里』と闘い、倒してしまっても問題ないという事なんだ。
過去にも生け贄に差し出された巫女が神獣を倒したという事例はいくらでもある。
さっきも話したように、『女は竜脈から無限に気を吸いとれる』んだ。
『九尾狐里』を倒せる可能性があるとしたら陰陽師の才能があり努力もしているお前の妹くらいだと期待してたんだが・・・。
しょうがない、お前の妹には生け贄になる権利がない・・・清い身体ではないのだから。
それに『生け贄は男でも構わない』なんて神獣は珍しいんだ。
私だって人の親だ。
本来なら子供が両方無事な可能性に賭けたい。
あぁ、どうしてお前は清い身体なんだ!」
「やかましい!
『清い身体』を繰り返すな!
童貞で悪かったな!
しかしまあ、俺が『九尾狐里』に勝てる可能性は限りなく低いな・・・。
でもまあ俺が生け贄になるしかないし『九尾狐里』を倒すしか俺が生き残る方法はないみたいだし・・・。
俺が生け贄にならないと村で『九尾狐里』が暴れて何百人もの人が犠牲になりそうだし。
やるしかないだろ!
恨むなら清い身体である自分自身を恨むしかないな」
白装束に身を包み俺は祭壇で印を切っている。
しかし男を生け贄に認めるってどういう事だろ?
「生け贄に生娘を差し出す」ってよくある話だけど、「生け贄に童貞を差し出す」なんて話聞いた事もない。
俺が色々考えていると祭壇に黒い霧が立ち込め狐の形になり、目の部分だけが赤く不気味に光っていた。
元々『九尾狐里』はある小学校の廃倉庫の奥の扉の中に札が貼られ封じられていたらしい。
小学生の悪戯で『九尾狐里』の封印が解かれた時、一度目はなんとか再封印に成功したという。
でも二度目の小学生の悪戯で『九尾狐里』は封印から解き放たれてしまったという。
で、今回初めて生け贄の儀式を行う・・・という事になったらしい。
『九尾狐里』はいたずら好きだと言うが、何をするかはまだわかっていない。
ただ最悪村を滅ぼすかも知れない。
『生け贄の儀』を行おうとして、父親が『九尾狐里』に祭壇で祈りを捧げていた時に『別に生け贄は男でも良い』と頭の中に『九尾狐里』が語りかけてきたらしい。
「ほほう・・・。
うぬが生け贄か。
我はお主らに封印されても構わないと思っておる。
ただしお主が我の暇潰しに付き合って、多少の気を吸わせてくれれば・・・の話じゃが。
おお!
付き合ってくれるか!
では目を瞑り、我の体内・・・黒い霧の中に入ってくれ」




