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凡人編

「東大生って言っても格闘ゲームじゃ大した事ねーのな!」


「当たり前でしょ?


僕はこのゲームやるの初めてなんだから!


それにこのゲーム、たっちゃん結構やってるんでしょ?」


「わりー!わりー!


素人相手に勝ち誇っちまった。


英雄(ひでお)に何かで勝つなんてあんまり経験なかったからよー」


「・・・でも悔しいなぁ。


僕もちょっとこのゲームやってみるよ」


「ちょっとやったくらいで俺に勝てると思うなよ?


俺はこのゲーセンで一番強いんだからな?」


英雄と俺は幼馴染みだ。


小学一年生の時に同じクラスになって以来の仲だ。


英雄は家庭環境だけでなく身体能力、頭脳、容姿など非の打ち所がなかった。


それだけなら「イヤなヤツ」と憎む事も出来るのだが性格も本当に良かった。


俺の母親は俺が物心つく前にアル中の父親を身限って家を出て行ったらしい。


児童相談所に「あそこの家から赤ん坊の泣き声が聞こえる」と周辺住民から通報があり、俺は父親から親権がとりあげられ児童養護施設に預けられた。


助け出された俺は痩せこけて「あと1日助け出されたのが遅かったら生きていないだろう」という状態だったらしい。


施設の子供である俺は「あの子と遊んじゃダメ」と言われる鼻つまみ者だった。


特に何か悪い事をしていた訳ではないのだが『給食費がなくなった』『壁にいたずら書きがされた』という事があると真っ先に俺が疑われた。


いじめの対象でもあったし、よく喧嘩をふっかけられた。


理不尽な事で喧嘩を売られて悪くないのに謝るのが嫌だった。


別に喧嘩は強くなかったのでしょっちゅう負けていた。


だが、「自分は絶対悪くない」という状況ではどれだけ殴られても謝らなかった。


しかも喧嘩を売ってくるのは年上ばかりだ。


小学一年生が勝てる訳がない。


喧嘩とは名ばかりのリンチのようなものだった。


俺は「アイツは喧嘩ばかりしている」「アイツは絶対に謝らない」と言われていた。


そんな時に英雄に出会う。


校舎の曲がり角、出会い頭に俺は英雄にぶつかった。


「あ、ごめん」俺は言った。


ぶつかったのはお互い様だ。


むしろ学校のマナー『右側通行』を英雄が守っていたら俺と英雄はぶつからなかった。


英雄は驚いた顔をしてこちらを見ていた。


「聞こえなかったのかな?」と思い、もう一度「ごめん、大丈夫だった?怪我してない?」と言った。


「『他の人が言った事が正しくない事もある、必ず自分で判断して評価をするように』


お父様の言った通りだ!」英雄はしきりに頷いている。


その場は俺は英雄の事を「変なヤツだな」と思っただけだった。




次の日、英雄が俺に猛烈な勢いで話し掛けてきた。


俺は面食らった。


「俺に話し掛けると変なヤツだと思われるよ」


「ふーん。


変なヤツだと思われても良いんだ。


僕は君と話したいんだ」


それが俺と英雄の出会いだった。





「英雄君、何であんなヤツと話をするの?


アイツ、貧乏だし、口悪いし、頭悪いし、悪い事してるって噂だし・・・」


「話すのやめるよ。


君とね。


だって僕の大切な親友の悪口言う人と話したいと思わないからね」


英雄の両親も俺の事を可愛がってくれた。


英雄の家に行った時、置物のように固まっている俺を英雄の両親は大切なお客さんとしてもてなしてくれた。


「あの・・・俺、施設の子供なんです」


「あぁ英雄から聞いてるよ、なあ母さん」


「えぇ、そうですね」


「だったら・・・」


「もう一つ大切な事も聞いてる、『英雄の親友』らしいじゃないか。


『だったら家に連れて来い』と。


『一度、大歓迎しなきゃいけない』と。


迷惑だったかな?」


「迷惑なんて・・・。


そんな事はありませんけど・・・」


「だったら子供は子供らしく!


もっと楽しんで欲しいな。


その方が歓迎してる我々は嬉しいんだから」


両親は俺に『子供は子供らしく』なんて言っているクセに英雄は両親に敬語で話している。


小学校六年間は学校でも何かと英雄とつるんでいた。


英雄の周りは常に人だかりが出来ていたが俺が話すのは英雄だけだった。


俺がイジメの標的にされなかったのは英雄のおかげだろう。




中学生になると英雄は私立中学に入学する。


俺は小学校の隣にある名前の違いが『小学校』か『中学校』かというだけの中学校に進学した。


だが俺と英雄の友達関係は続いていて、日曜日には俺は英雄の家に行くのが習慣になっていた。






俺は中学を卒業すると社会に出て働き始めた。


理由は施設を出て独り暮らしを早く始めたかったからだ。


しかし世の中は中卒者に対して厳しかった。


俺は職を転々とした。


そんな折、俺は格闘ゲームと出会い、のめり込み、ゲーセンに通い始める。


俺は気付けば住み込みのゲーセン店員になっていた。


俺が格闘ゲームにのめり込み数年が過ぎた。


俺は成人したが、相変わらず格闘ゲームにのめり込んでいた。


英雄はというと東大生になっていた。




英雄が俺の働いているゲーセンに遊びに来た。




「これがたっちゃんが夢中になってる『格闘ゲーム』?」


「そうだよ。


『百聞は一見に如かず』って言うし、英雄を俺がもんであげようかな?」


「僕に出来るかなあ?」


「大丈夫だよ。


一から丁寧に教えてやるから・・・」


・・・という訳で冒頭のやり取りになる。






~一週間後~


「たっちゃんあのゲーム、僕も少しは出来るようになったからもう一度対戦しようよ!」


「何回やっても同じだと思うけど・・・。


それじゃ胸を貸してあけようかな?」






三年間一日も休まずにゲームをしてきた。


夢にもゲームが出てきた。


ゲームは俺の全てだ。


俺にはゲーム以外何もない。


なのに・・・。






「やったー!


たっちゃんに勝った!


どう?


僕も少しはやるようになったでしょ?」


「・・・あぁ。


因みにどうやって練習したの?」


「どうって・・・普通だよ。


ネットで技のフレーム表見て、コンボ練習したり対戦したり」


このゲームで言う『フレーム』とは一秒を60分割してその1つを『1フレーム』と言う。


これを理解するのに俺は3ヶ月かかった。


しかし今でも完全には理解出来ていないだろう。


それを英雄は一週間で理解したという。


いや、『フレーム表』を見た瞬間にフレームという物を完璧に理解したのだろう。


才能が俺とは違いすぎる。


理解力だけでなく、手先の器用さ、判断力、動体視力など全てに於いて俺は勝ち目はない。





「まあ僕は強キャラ使ってるしね。


たっちゃんの使っているキャラは職人キャラだし」英雄は俺は実力で負けたんじゃないと思っている。


俺が職人キャラを使っている理由は「強キャラを使っても他の強キャラを使っているヤツに勝てないから」だ。


職人キャラであれば「どう闘えば良いか」バレていないのだ。


「バレたら終わり」だが、バレるまではそれで勝てる。


「いつかは勝てなくなる」とは思っていたがそれがこんなに早く、しかも始めて一週間の相手に負けるとは思っていなかった。


俺は圧倒的な人間性能の違いを思い知らされた。





嫌味なヤツなら憎めるのに・・・困った。


全く嫌いになれない。


この「嫌いになれない」という特性も『カリスマ性』なのだろうか?


これだけ高スペックなのに、最近更に男前になりだした。


向かうところ敵なしだな。






自分の才能の無さに気付いても俺は相変わらずゲーセン店員だ。


生活していかなきゃいけないし・・・それより何より俺、ゲーム好きだし。







英雄の主戦場にしているゲーセンは俺が働いているゲーセンではない。


英雄は全国レベルの猛者が集まるゲーセンで、しかもトップを競っているらしい。


俺は自分が働いているゲーセンでトップ、つまり『村勇者』レベルなのだ。


つまり「既に住んでいる世界が違う」と言う事だ。


元々「住んでいる世界が違う」というのはわかっていた。


だがゲームだけはそうじゃないと思っていたのに。





英雄が俺の働いているゲーセンに遊びに来た。


「久しぶりだね」


「珍しいな。


何か用か?」


「用がなくたって友達に会いに来ても良いだろ?」


「・・・まあゆっくりしていってくれよ。


小さくて暗いゲーセンだけどな」俺は来てくれて嬉しい気持ちを隠しながら言った。


「おい、アイツ『ヒーロー』じゃねえか?


話題の『東大生ゲーマー』の!」ゲーセンの常連が興奮気味に言った。


『ヒーロー』というのは英雄の『プレイヤーネーム』だ。


因みにそのプレイヤーネームは俺がつけた。


カードシステムというものをあまり理解していなかった英雄にはカードに登録するプレイヤーネームがなかった。


英雄は自分の本名をプレイヤーネームにしようとしていた。


別にそれでも良いんだが折角カッコ良いプレイヤーネームを名乗れるのに本名を名乗る事はないじゃないか。


・・・という中二病精神で俺が『英雄』を英語にして『ヒーロー』と無理矢理登録して今に至る。


英雄は有名ゲーマーらしい。


そのうち朝の情報番組で取材を受ける事になるかも知れない。


なんせ『東大生』であり『有名ゲーマー』だ。


話題性には事欠かない。


俺は親友が遠くへ行ってしまった感じがして、少し寂しかった。




しかし当の英雄はそんな自覚はない。


今でも俺の事を『大事な親友』だと思っているようだ。


しかしゲーセンで英雄は有名人だ。


何を話しているのか周りのヤツらが聞き耳を立てている。


その上ゲーセンは話をするにはうるさすぎる。




「ここじゃ落ち着かないし、俺もそろそろ休憩時間だしファミレスでも行こうぜ」俺は英雄に提案した。


英雄もその提案に乗った。


俺は英雄と連れ立って地下のゲーセンを出た。






卑屈と言ってしまえばそれまでかも知れないが、俺は負の感情を持って近付いて来る人間に敏感だ。


それはアル中で意味なく殴ってくる父親や、俺をリンチしようという人々から身を守るために身につけた処世術である。


しかしその負の感情は俺に向けられたものではない。


その感情は英雄に向けられていた。




「英雄、やばい。


逃げろ!」


俺は英雄に向かって叫んだが、もう間に合わない。


暴漢は英雄にバタフライナイフを突き立てようとしている。


もうダメだ。


いや、一つだけ英雄が助かる方法はある。


相手の凶器がバタフライナイフ一本なら、バタフライナイフが英雄ではなく別の物に刺されば英雄に刺さる凶器はなくなる。


俺は英雄と暴漢の間に立ち塞がった。


暴漢が英雄に突き立てるつもりだったバタフライナイフが俺の下腹部に突き立てられている。


通行人が悲鳴をあげる。


英雄が暴漢を取り押さえる。


「お前は・・・!」


何だよ知り合いかよ。


「誰か!救急車を呼んでくれ!」


英雄が叫んでいる。


痛い。


痛いなんてモンじゃない。


刺された部分が焼けるように疼く。


俺は徐々に視界が暗く、寒くなっていき・・・やがて世界は暗闇につつまれた。






暗闇につつまれたはずだった。


なんだここは。


「ここに来るのは善人だけなんですよ。


あなたのような嫌われ者が来るのは初めてです」


「嫌われ者で悪かったな。


別に好きで嫌われてる訳じゃない」


「しかしバカですねー。


何も自分から刺されに行く事もないじゃないですか」


「咄嗟だったんだよ。


急な事で他に何も思い浮かばなかった」


「じゃあ『殺されるつもりはなかった』と?」


「・・・いや。


あの瞬間『英雄の代わりに死ぬならしょうがない』と明確に考えながら身代りになったんだ」


「どうして?」


「どうして・・・も何も。


俺が死んでも悲しむ人はいないからな。


俺は英雄の両親にも世話になってるからな。


あの人達の悲しむ顔は見たくなかった」


「『悲しむ人はいない』ってあなたが死んで一番悲しんでいるのは英雄さんですよ?」


「そうなんだ。


英雄には悪い事しちまったな。


『気にするな、俺の事は忘れてくれ』って英雄に伝えられない?」


「わかりました。


夢の中で英雄さんに伝えておきます。


でも『忘れろ』と伝えて『はい、わかりました』と納得するとは思えないんですが」


「わかってるよ。


でも俺なんかが英雄の足枷になっちゃダメなんだ。


アイツはもっと大きな事を為す人間だ。


いつまでも悲しんでいちゃいけない。


こんなところで立ち止まっていちゃいけないんだ。


ところで一つ気になってたんだけど、英雄はあの暴漢の事を知っていたみたいだけどアイツは一体誰なんだ?」


「あの暴漢は英雄さんの高校の同級生です。


英雄さんに出会うまでは常に学問ではクラスでトップでしたが、英雄さんと同級生になって常に英雄さんの後塵を拝してきました。


元々クラスでは二位でしたが学年では10位以内になった事はありませんでした。


他のクラスだったとしてもトップにはなれませんでした。


なので彼の『俺がその後落ちぶれていくのは英雄(アイツ)のせいだ』という考えは完全なヤツ当たりです。


彼は成人した今も浪人して東大に入ろうと受験勉強していました。


『こんなはずじゃない』『自分は悪くない』という自己弁護はいつしか『俺がこんなに惨めな想いをするのは英雄(アイツ)のせいだ』という怒りに変わっていきました。


それが今回の凶行におよんだ原因です」


「なるほどねー。


しかし英雄も災難だな。


優秀なばっかりにいらん恨みを買ったりしてるんだな」


「本当に災難なのはあなたでしょう?


全く関係ないのに巻き込まれて命を落としてるんだから」


「いや、巻き込まれにいったんだよ。


暴漢と英雄の間にわざわざ往かなければ刺されずに済んだ。


でも代わりに英雄が刺されてた。


俺は今回の結果に満足しているよ。


天才の代わりに犠牲になれたんだから」


「・・・わかりました。


最後に聞かせて下さい。


あなたに心残りはないですか?」


「あるに決まってるだろ!


あぁ!何でもいいから『一番』になりたかったなぁ!


格闘ゲームならなれると思ったんだけどなぁ!


やっぱり英雄は天才だよ!」


「あなたの希望はわかりました。


では一緒に行きましょう」


光がどんどん眩しくなっていく。


あぁ、ついに俺はあの世に行くんだ。






・・・と思っていたら俺は病院のベッドの上で目を醒ました。


「先生!


つ、ついに『眠り姫』が目を醒ました!」


看護士が慌てながら病室?を出ていく。


訳がわからない。


すると先ほどまで現世とあの世の境目で話していた女性の声が頭の中に聞こえてきた。


「あなたはまだ死ぬべきさだめではありません。


しかもあなたは後に『救世主』と呼ばれる男性の命を救いました。


あなたを転生させるにあたりお礼に一つあなたの心残りを解決しました。


あなたの『何でも良いから一番になりたかった』という心残りは解決されました。


あなたは『世界一の美貌の持ち主』です。


彼女は物心がついてから目を醒ました事がありません。


彼女はあなたと同じ天涯孤独です」








これは「世界を救った」と言われる男と結婚した「世界一の美貌を持つ女性」の前日談である。

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