7-19
高田はその日、朝から銀杏コーポレイションの京都営業所にいた。営業所としての仕事のかたわら、悠斗に持たせたスマートフォンから送られるデータで、悠斗の足取りを自分のデスクから監視していたのだ。そして、悠斗が賀茂大橋西詰めのカフェに入ったのを確認すると、桜子の他にも連れがいるかを目で直接確かめるために、このカフェにやってきたのだった。
高田は今日、悠斗への監視を、三時間おきの位置確認にとどめていた。盗視および盗聴装置を悠斗の部屋に昨日から設置したので、日中の監視はそれで十分だろうという三田の判断だった。
だが午後三時、高田が悠斗の現在位置を確認しようとすると、悠斗のスマートフォンが反応しなかった。ポータブルバッテリーを悠斗は持っているはずなのに、と不審に思いながら、高田は、朝からの悠斗の足取りデータを調べた。午後一時一〇分でデータが途切れ、最後の位置は雲林院まえだとわかった。
高田はそれを三田に報告し、指示を求めた。だが、
「まずは自分で考えろ」と、
冷たく返された。
「雲林院に行ってきます!」
高田は、パートの女性事務員たちを驚かせるほどの大声をあげて、営業所を飛びだした。
社用車をとばして雲林院へむかった高田は、途中で信号待ちをしているあいだ、念のためにと、悠斗の位置確認をおこなった。今回は、悠斗のスマートフォンが反応した。まだ紫野にいるらしい。高田は、堀川通りで車を停めた。そして、自分のスマートフォン画面に表示されている〈武藤悠斗〉の赤い絵文字が、地図上を雲林院方向へゆっくりと動きだすのを、しばらくのあいだ見ていた。
ホッとはしたものの、つぎはどうするべきかと、車のなかで高田は迷った。三田に指示をあおげば、自分で考えろ、と返されるにきまっている。銀杏のロゴが目立つ営業車で来てしまったことを、高田は悔やんだ。
――この車を悠斗くんに見られたら、なにか言いわけをしなきゃいけなくなるよな……。
高田は、雲林院に行かず、営業所にひき返した。
営業所で高田が経緯を報告すると、三田は、なにも言わなかった。だが、かなり不満に思っているらしいことは、高田にも感じられた。高田は身を小さくして、自分のスマートフォンをパソコンにつなぎ、朝から現在までの悠斗の足取りを、もういちど精査した。
そして、事務員たちが帰り、三田とふたりだけになったとき、高田は三田のデスクのまえに立ち、両手を脇にそろえ、ふかぶかと辞儀をした。
「もうしわけありません。悠斗くんのようすを、この目で確認しなかったのはミスでした。悠斗くんと藤原さんの他にも、だれかがいっしょだったかもしれません。その可能性があることに、気づきませんでした」
三田は顎の下で両手を組み、辞儀をつづける高田に声をかけた。
「ミスはしかたない。だれでもすることだ。自分の頭で考えるようになれば、なおさらだ。悠斗くんの位置確認をゆるめたのは、わたしのミスかもしれない。だいじなことは、ミスをすぐにカバーすることだ」
三田はそう言うと、自分のパソコン画面に目をやった。〈武藤悠斗〉の絵文字が、地図画面の鴨川西岸で点滅している。高田も、自身のパソコンでそれを確認済みだ。
「はい、行ってきます!」
高田はそう言って顔をあげた。口をキリッと結んでいる。
「あそこのカフェはコーヒーがうまい。マグボトルを持っていき、二、三人分、帰りに買ってこい。今夜は寒そうだから、あとでいっしょに飲もう」
「はい!」
一文字に結ばれていた高田の口が、おおきくほころんだ。




