7-20
高田は、カフェに入るとすぐに、テラス席にいる平安装束の若者ふたりに目がいった。
――やっぱり、連れがいたんだ! あの子も、タイムワープしてきたのだろうか?
夕霧の顔を横目で見ながら、高田はカウンター席に腰かけた。だが、耳をすませば、悠斗たち四人の話し声が背中越しに届く距離だ。
「四日後の月曜日の、正午はどうだ? 来られそうか?」
悠斗がそうたずねると、速仁はうなずいた。
「四日後だね、だいじょうぶだと思う。また乳母ちゃんに頼んで、勉強で曹司にこもっている、ってことにしてもらう、エヘヘッ」
そう返事する速仁に、桜子が、
「ほんとうに勉強もしないと、こっちに来られないよ」
と、念押しをした。
「うん、わかっているよ。乳母ちゃんとちがって、桜ちゃんは口うるさいよな。おれ、今夜は悠にいちゃんと、えっちな勉強もするのだから、だいじょうぶだよ」
速仁の言葉に、悠斗が一瞬にして固まった。
「わたしも、その難しい、えっちな勉強を宮ちゃんの横で聞いていてかまいませんか?」
桜子にそう頼まれて、悠斗はますます固まった。
そのうえ、おおきく開かれた悠斗の目のはしに、カウンターにひとり座ってコーヒーカップを手にしている男が、「エッチ」という言葉にビクッと反応したように映った。
悠斗は、
「あ、あ……」
と、口をパクパクさせるだけで、言葉が出なかった。
「ぜったいにダメだ!」
大声で口をはさんだのは速仁だった。
「桜ちゃんが横にいたら、おれ、勉強に集中できない。えっちな勉強は、難しいんだからな!」
――いくら桜ちゃんでも、まんがを読むじゃまだけは許さない!
悠斗は、カウンター席の男が背中越しに耳をかたむけているように思え、「エッチ」を連発する速仁と桜子の言いあいに、気が気でなかった。
いたたまれなくなった悠斗は、桜子に、聞こえるか聞こえないかの小声で、
「桜ちゃんには、エッチな勉強を、来週にでもみてあげるから、今夜のところはね……」
と、ささやいた。だが、桜子が歓声をあげた。
「わーい、ありがとう。わたし、悠斗さんと、えっちな勉強をしたかったの」
「ウプッ、――ワァァァ」
カウンター席の高田が、おもわずコーヒーを吹きこぼし、あわてた拍子に、カップに残っていたものもズボンにぶちまけた。
桜子がサッと立ちあがり、自分のおしぼりを持って、高田に歩みよった。
「だいじょぶですか?」
「あっ、驚かせてすみません」
「やけどはなかったですか?」
「あっ、はい。だいじょうぶです」
桜子は、おしぼりを高田に手渡すと、悠斗たちとのテーブルにもどった。
椅子の上に置かれたバッグのなかで、スズメが目を覚ましていた。
「あ、ゴメンねシロ。バッグを動かしたから、起こしちゃったね。――目が赤いよ、まだ寝たりないの? うふふ」
桜子は、バッグをまた膝の上に置いて座りなおした。
大陰は、目覚めてすぐに、高田に気づいた。いまいる場所が、高田を最初に見かけたカフェであることもわかった。
――あいかわらず尾行か……。手出しは許さんぞ!
スズメは、高田の顔と、速仁の童直衣の前衿から先端をのぞかせている榊とに、その赤い両目を交互にむけた。
「場所、変えようよ……」
悠斗は、あたふたと席を立ち、首筋を手でかきながら、高田のうしろを通ってレジへむかった。
――完全に誤解されてるよなぁぁ。
高田は、通りすぎる悠斗の背中を、チラッと見た。
――エッチな勉強なんて、うらやましすぎ。おれも、おみくじ、当たって欲しいよ。
高田の頭には、〈身近なところに恋が芽ばえる。だいじに育てれば大輪の花が咲く〉という、占いの言葉がうかんでいた。




