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ほとんどの生徒が初めて訪れる京都で、見慣れぬ威厳のある寺社の数々、初めての能体験なんぞにも圧倒されながら一日目、二日目を終え、そうしていよいよ生徒たちが心待ちにしていた自由時間となった。
女子たちは前夜からほとんど眠れぬ程興奮していて、下妻から持って来たパンフレットもバス内でも部屋でも回しに回され、擦り切れんばかりの有様だった。
当日朝、集合時間よりも三十分も前に自由行動出発地点となる、ホテルロビーに集まったのは女子班である。
もう全員揃ったから出発してもよいか、五度も六度も先生に聞いたので、先生も呆れ果てて了承する。女子一行は駈け出さんばかりに着物レンタルショップへ向かった。
店に入るなり、ずらりと色鮮やかな着物が並び、女子たちは歓声を上げる。
朱里も夢中になって着物を選んだ。日舞をやっているので着物を着る機会は他の女子よりも圧倒的に多いものの、こんなにたくさんの中から選んだ経験はない。
ーー紅藤色も素敵だし、鳥の子色も素晴らしい。撫子色も若菜色もなんとも綺麗ではないか。
朱里は悩みに悩んだ末に、手毬柄の撫子柄の着物を選び、着付けをお願いした。
「ああ、鈴木さん、鈴木さんはこちらですよ」
白髪頭の妙齢の女性がそう申し出る。
朱里はすぐさま
ーー男なんです、話ができないんです
そう言おうとしたが、メモ帳もペンもカバンにしまったままだ。どうしよう、どうしようと思っている内に着付師は朱里を裏の和室に招き入れ、心得顔に襦袢を着せて、手早く裾の調整などをし始める。
「すらっとしてはるから、着物似合いますよ。身長、170cmぐらい?」
朱里はこく、こく頷いて見せた。
「羨ましいですなあ」
朱里が手慣れた手つきで襦袢の紐を結んでいくのを見て、
「あれ、着慣れてはりますな」
と女性は口にした。
朱里は腰をかがめて、二、三歩足を摺り、日舞をやっています、と伝えた。
「ああ、やっぱり。姿勢も良いし、背もすらっとしてはるから舞台映えするでしょうなあ」
朱里は頬を赤らめた。
そして、ふと思った。喋れないこともおそらくは男であることもわかっているはずだのに、何も言い出さないのはもしかすると予約段階で自分のことを伝えてくれていたのではないか、と。
鈴木さん、と名前を呼ばれて着付けは始まった。恥をかかずにスムーズに着付けをしてもらえるよう、予約をしてくれたあやのが手立てを尽くしてくれていたのではないか、そう思うと胸の奥が温かくなるのを感じた。
あっという間に着付けは終わり、朱里は姿見の前で着物姿の自分を見つめた。きれいな着物。こんな素敵な着物を着られて本当に良かった。みんなに、感謝だ。
周りでも次々に着付けが仕上がり、ヘアセットに入っていく。
朱里も促され、髪をまとめ、金色の簪と牡丹の花飾りを選んで完成した。
「朱里、かわいい!」
「愛莉も、すっごい似合ってる!」
「あやのもめっちゃキレイ!」
「写真撮ろう、写真、写真!」
着物姿の集団は、互いに喚声を上げながら隣に併設された写真館へと向かっていく。
まずはみんなで、何パターンものポーズを撮らされシャッターが切られる。その後は単独で、朱里も和傘を差したり、毬を盛ったりと様々なポーズを撮って(そのたびに着物の観客から嘆声が上がった)撮影は終了した。
そして街へと繰り出していく。道端で何度も外国人観光客から声を掛けられ、写真に応じることとなるのも今まで経験したことのない新鮮な経験だった。
愛莉が先頭に立ち、プリクラのある店まで先導する。
行き交う人々が着物姿の女子中学生たちに笑顔を向けてくれる。
ーーそう、誰も朱里を男なぞ思う人はなかった。春の陽光に輝く撫子色の着物を着た朱里は、一等可憐で儚げな美しさを纏っていた。
すらりと伸びた背に細い腰、そっと唇に塗った紅は色白の肌によく映えた。
朱里はふと、この瞬間をずっとずっと覚えていたいな、と思った。大人になっても、年をとっても。
そう思った時、
「ねえ、五年後に二十歳の集いってあるじゃん」愛莉が悪戯っぽい笑みを浮かべて言い出した。「その時このメンバーでまた着物で写真撮ろうよ」
「え、いい!」すぐに賛同の声が上がる。
「絶対だよ!」
「そして今日の写真と比べんの」
「え、やばい、みんな変わってるかな」
「どうだろうねー」
「五年後何してんだろ。大学生かな、働いてるかな……」
「どこにいても五年後は集まること!」愛莉が凛とした声を張り上げる。妙にその声が朱里の胸に響いた。
その後何回も何回もプリクラを取って、はしゃいで、そしてカフェで休憩。地元にはない和風の内装にそこでも写真を撮りに撮って、抹茶パフェ、抹茶アイス入りのあんみつ、抹茶ケーキをそれぞれ堪能し、誰かが「そろそろ時間」と気づき少々急いだ帰り道、また愛莉が、
「ねえ、五年後絶対忘れちゃだめだよ」再度念押しして言った。




