第5話 群青の残光と静寂の帰投
ハァ……ハァ……ハァ……。
コクピットの中に、のえるの荒い息遣いだけが響いていた。
周囲を埋め尽くしていた四十機の無人戦車、そして超大型重戦車は、すべて沈黙し、黒煙を上げる鉄のゴミ屑と化していた。
『……敵部隊の全滅を確認しました』
機体AIの声が、静かにコクピット内に響く。
のえるは震える手でバイザーを押し上げ、シートの背もたれに深く体重を預けた。
脳内の激痛は未だに引いておらず、ズキズキと後頭部が脈打っている。
「あー……クソ。頭が割れそう……」
『のえる隊長、脳内回路のオーバーヒートを確認。神経系の冷却シークエンスを実行中です。全回復までおよそ四十分を要します』
「……ホント、あんまり使いたいものじゃないな、これ……」
のえるはポツリと溢した。回路の全開駆動は、あまりにも精神と脳への負担が大きすぎる。
『た、隊長……! 大丈夫ですか!?』
『敵の全滅を確認しました! ルーカスの救出完了! 機体は壊れましたが、ルーカス本人は擦り傷程度で無事です!』
通信越しに、部下たちの歓声と安堵の声が飛び込んできた。
のえるはフッと口元をゆるめ、マイクへ向かって声を張った。
「……そうか。ルーカスが無事なら、それでいい。——戦車部隊の殲滅を確認。帰投する」
『了解!!』
「後は回収班に任せた。……私は帰って寝る」
『あはは! お疲れ様です、隊長!』
破壊された四十機の戦車と巨大重戦車の残骸。それらはこの荒廃した世界において、極めて貴重な金属やパーツの資源宝庫だ。
無駄にはできない。できるだけ回収・分解し、次の戦い——自分たちの明日を生きるための資材にするのだ。
NOEL-X-02が脚部の歩行モーターを静かに鳴らし、ゆっくりと反転する。
空中に漂っていたビームポッドが吸い込まれるように背部バインダーへ収納され、機体は夕映えの赤土を踏みしめて、前線拠点のハッチへと向かって歩み始めた。
ふと、全周囲モニターに映る夕空を見上げる。
黄昏の空は、荒涼としていながらも、どこか恐ろしいほどに美しかった。
(人類の居住区を守るために戦う……か。まさか自分がこんな機体に乗って、こんな風に生きることになるなんてな……)
のえるは自分の小さく華奢な手のひらを見つめた。
17歳の美少女の身体。脳内に宿る演算回路。巨大な人型兵器。
ツッコミどころ満載の自分の現状だが、それでも——目の前の仲間や人々を守るこの生き方は、決して悪くはないと思えている自分がいた。
「……さて。元を正せば、十年前のあの日から始まったんだよな」
のえるの瞳が、遥か過去——西暦二〇三六年、南極の凍てつく暗闇のバイオプラントで目覚めた「あの日」の記憶へと向けられていく。
鮮やかなシアンとピンクの機体が、拠点の重厚なゲートの向こうへとしずしずと消えていく。
世界を揺るがす大冒険と、絆の物語の幕が開ける前の、それは一瞬の静寂であった。
【プロローグ・完/本編第1話(2036年・目覚めと脱出)へ続く】
プロローグ(全5章)をお読みいただきありがとうございました!
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