第3話 狙撃の閃光と限界突破
残る無人戦車は、すでに十機を切っていた。
『NOEL-X-02』の放つアサルトライフルが赤土の平原を貫くたびに、鉄の塊が黒煙を上げて転がっていく。MANTIS-03の5機も、のえるの指示のもとで隙のない連携を見せ、着実に残敵を追い詰めていた。
「よし……このまま押し切る! 全機、弾薬残量を意識しつつ一気に畳みかけろ!」
のえるが操縦桿を握り直し、次なる標的へ機体を踏み込ませようとした、その瞬間だった。
キィィィィィィィィン——ッ!!
空気を切り裂く音ではない。
音波そのものを遙かに置き去りにした、大気の破砕音。極超音速の物体が通過したことによって生じる、空間そのものが軋むような異常な衝撃波が戦場全体を揺さぶった。
——『緊急警告! 超極高初速の超遠距離砲撃を検知!』——
頼む間もなく、脳内の演算補助回路が視界全体に真っ赤な警告信号を撃ち散らした。
(なっ……!?)
ドォォォォォンッ!!
一瞬遅れて大地が物理的に跳ね上がった。
マッハ七を超える速度で飛来した重金属貫通弾頭が、のえるの機体のほんの十メートル横を通過し地表へ着弾。
その至近弾が生み出した凄まじい衝撃波と熱風だけで、側方に位置していたMANTIS-03の三号機が、まるで紙くずのように派手に吹き飛ばされた。
「ルーカスッ!?」
凄まじい落雷のような爆音とともに、三号機の右腕と肩部装甲が削り取られ、機体は激しく横転しながら赤土の平原を数百メートルにわたって転がっていく。
「ルーカス! 応答しろ! ルーカス!!」
応答はない。
のえるの脳裏に過去の出来事がよぎる。
人が戦場で死ぬ時は、前触れもなくほんの一瞬だ。
アニメやゲームのように、最後のセリフを残すものではない。
亡くなってから脳が少しずつ実感するものなのだ。
のえるは全身に、冷たい汗が吹き出すのを感じだ。
チラリと大破した機体に視線を送る。
即死・・・とも言い難い状況。
(たのむ・・・!)
その時、通信が入った
「う、ぐぅ……た、隊長、私はなんとか無事です。でも、メインカメラ大破……作動系が、動かない……!」
「生きているな!?機体を捨てて、脱出しろ!」
安堵するのも束の間
その視線の先——はるか彼方、二十五キロ先の地平線の霞の向こうに、大地を揺らしながらゆっくりと姿を現す巨大な影があった。
それは、通常の無人戦車の十倍以上の巨躯を持つ、超大型自律重戦車『ギガント・アイアン』だった。
超長砲身のレールガンを頭部に戴き、機体は超圧装甲に覆われている。
「くそっ……! あんな超大型の化け物まで隠してやがったのか……!」
敵の装甲は強固だ。こちらの8メートル級VESPAが持つアサルトライフルでは、装甲を貫通して本体にダメージを与えることは不可能。接近しようにも、あの超音速レールガンの二射目が来れば、今度こそ味方の誰かが蒸発しかねない。
(自前の火力じゃ、あの重装甲は抜けない……。——やるしかないか!)
のえるは操縦桿の暗号化通信ボタンを長押しし、超広帯域・長距離通信回線を接続した。
「回線開け! ——ヴェノム! 聞こえるか!?」
ノイズの向こうから、どこか冷徹で、静けさを湛えた女性の合成音声に近い声が響く。前線拠点のバックアップを行い、後方から支援を担当する謎多き協力者——ヴェノムだ。
『……聞こえているわ、のえる。超大型重戦車の出現を確認した。こちらの超長距離支援砲撃機の超高出力砲、すでに照準を敵の座標へ合わせている』
「助かる! すぐにぶち込んでくれ!」
『……待ちなさい。私の位置から射撃しても、着弾まで超大型重戦車が動けば回避される。直撃させるには、現場で砲撃の軌道を変え、弱点へ直撃させる必要があるわ』
「そんなこと、できるわけ……」
のえるは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに自分の機体の背中に格納されている『それ』の存在を思い出した。
「あるじゃないか……! 私の機体に積んだ、アレが!」
『……本気なの? あれはまだ実験段階よ。過負荷と、あなたの脳内回路へのバックフィードは許容量を超えるわ。「頭が割れる」どころの激痛じゃ済まないかもしれない』
のえるはニッと口角を上げた。見た目は可憐な美少女だが、その眼光には死線を何度も潜り抜けてきた指揮官の覚悟が宿っていた。
「部下を一人死なせるくらいなら、頭の一本や二本破裂したってお釣りが出るぜ! 撃てぇっ!」
『……了解したわ。カウントダウン開始。3、2、1——発射!』




