第29話 ギルドマスターの仲介と、ダリアの秘密
古代遺跡での奇妙かつ重大な発見——ミスリルゴーレムのコアと、表世界のAI暴走に起因する次元の歪み。それらの確かな証拠を持ち帰ったのえるたちは、まずは拠点である街の冒険者ギルドへと足を運んだ。
薄暗いギルド内に入ると、受付のドワーフや他の冒険者たちが、生還したのえるたちに一斉に熱い視線を送った。誰もが、あの高名な遺跡から無事に戻ってきたこと自体を驚いている。
のえるは周囲の喧騒をさらりと受け流し、まっすぐにギルドマスターの執務室へと向かった。
重厚な木製ドアをノックし、室内に足を踏み入れると、相変わらず葉巻の煙を燻らせていたヴァルガスがどっしりとした椅子から顔を上げた。
「お、のえるか。無事に戻ったか。……その顔、どうやら無駄足ではなかったようだな」
ヴァルガスはテーブルの上に置かれた青く輝くミスリルゴーレムのコアを一瞥し、眉間にしわを寄せた。
「ああ。遺跡の奥で、ゴーレムの暴走の原因と、この奇妙な魔力の塊を見つけてきたよ。領主様との約束通り、まずはここに来て報告しようと思ってね」
「よくやった。……だが、のえる。お前たちが遺跡に行っている間にも、状況は悪化している。各地の街道や村から、似たようなゴーレムの目撃情報や、魔獣の異常行動の報告が次々と舞い込んできているんだ。一刻の猶予もならない状態らしい」
「やっぱり……表側の歪みが、こっちの世界のあちこちに飛び火してるんだね」
のえるが腕を組んで思案していると、ヴァルガスはふっとため息をつき、真剣な眼差しでのえるを見据えた。
「おい、のえる。お前たち、これから直接領主の館へ行ってくれ。……いや、単なる報告ではない。領主様から、お前たちを『王都』へ、そして国王陛下のもとへと取り次ぎたいという正式な要請が来ている」
のえるは思わず「えっ」と声を漏らし、呆気に取られた。
「王都へ? 国王陛下のところへ? 私たちみたいな新米の冒険者が?」
「あぁ。遺跡の調査結果、そしてこの『世界のバランスの崩れ』に関する具体的な証拠を持ち帰ったのはお前たちが初めてだ。領主様だけでは手に負えず、王国の中枢、ひいては国王陛下ご自身がこの事態を非常に深く憂慮されている。直接、お前たちから事情を聞き、協力を仰ぎたいと仰せなのだ」
(きた……! これまた定番中の定番、王様からの直々のお願いパターンだ!)
のえるの脳内で、AI回路が高速で状況を分析・シミュレーションする。
『マスター、現在の政治的圧力および周辺の治安悪化リスクを考慮した場合、国王からの直接の要請を拒否することは事実上不可能と判定されます。拒絶時のペナルティとして、国家反逆罪もしくは討伐対象指定の確率:89.2%』
(でしょうね……! 断れる雰囲気なんて最初からないってわけだ。ほんと、異世界転生モノの主人公って、どうしてこう次から次へと面倒事に巻き込まれちゃうのかしらね)
のえるは小さく頭を抱えたい衝動に駆られながらも、腹をくくった。
「……はぁ。断れる空気じゃないし、仕方ないか。分かったよ、王都へ行って国王様に直接報告してあげる」
「すまないな、のえる。重荷を背負わせるようだが、この世界の命運がかかっているのかもしれん。頼んだぞ」
ヴァルガスの力強い送り出しを受け、のえるたちは再び身支度を整え、領主の館を経由して王都へと向かう旅路の準備を整えた。
しかし、館の門前で出発の準備をしていると、パーティーメンバーの一人であるダリアが、何やら言いづらそうにのえるのそばに近づいてきた。彼女の表情はいつになく硬く、どこか暗い影を落としている。
「のえる……ちょっといいか?」
「ん、どうしたのダリア?」
ダリアは周囲をちらりと窺い、声を潜めて言った。
「……実は、領主様やギルドマスターから聞いた、今回の『王国からの要請』、そして国王が住まうその王国についてなんだが……」
「うん、それがどうかしたの?」
「……その王国こそ、かつて私が所属していた、あの『騎士団』があった国なんだ」
のえるは目を丸くした。
「えっ……!? マジで……?」
「ああ。私はかつて、その王国の王立騎士団に仕えていた。だが、色々な事情があってそこを飛び出し、今こうして冒険者をやっている……。だから、王都に戻るとなると、かつての古い仲間や、私を追う者たちと顔を合わせるかもしれない。……かなり、気まずいんだ」
ダリアは気まずそうに目を逸らし、複雑な表情を浮かべた。
のえるは少し驚いたが、すぐにふっと笑ってダリアの肩をポンと叩いた。
「なんだ、そんなこと。気にしなくていいよ。過去は過去でしょ? しゃーないな、少し気まずいかもしれないけど、そこは我慢してよ。私だって、こんな強化人間の身体で異世界を駆け回るなんて思ってもみなかったんだから、お互い様だよ!」
「のえる……すまない、ありがとう。お前と一緒にいれば、なんだか嫌なことも吹き飛ぶよ」
ダリアは少し救われたような顔をして微笑み、武器の柄を強く握りしめた。
こうして、のえる、ロザリス、そして複雑な過去を胸に秘めたダリアの三人は、数々の謎と困難が待ち受ける王国への旅路へと出発したのだった。




