第23話 ギルドの賑わいと若き希望たち
冒険者ギルドの中は、酒と汗と肉の焼ける匂い、そして無数の冒険者たちの喧噪に満ちあふれていた。
壁一面に張り出された無数の「依頼書」。酒場で杯を交わす厳つい斧使いや、魔法書を熱心に読み込む魔導士たちの姿。
「うわぁ……! 本物の冒険者ギルドだ……! ゲームで見たまんまの世界だよ!」
のえるは目を輝かせ、心の中でオタク特有の歓喜の叫びを上げていた。
過去の社畜時代、満員電車の中でスマホのRPG画面を見つめながら憧れていた「冒険者としての生活」が、今まさに現実として目の前で展開されているのだ。
カウンターで受付の女性から説明を受け、無事に三枚の銅製の「冒険者プレート」が発行された。これで晴れて、のえる、ロザリス、ダリアの三人は正規の冒険者となった。
「さて、新人冒険者はまず『Fランク』からのスタートとなります。最初は街の近郊での採集や、簡単な小型モンスターの討伐依頼から受けていただきますね」
「分かりました! 初級レベルの簡単なやつですね」
のえるは掲示板へと歩み寄り、街のすぐ外にある「始まりの森」に出没する小型モンスター『ゴブリン』および『ワイルドボア』の討伐依頼を一枚引き抜いた。初めての依頼としては格好の試運転だ。
その時だった。
「よう、あんたたちも新人かい?」
横から爽やかな声がかけられた。
振り返ると、そこには三人組の若者たちが立っていた。
大剣を背負った元気そうな人間の少年剣士。
大きな杖を抱えた気弱そうな少女魔導士。
そして、皮の胸当てを着けた軽快そうな少年弓手。
見た目の年齢は16、7歳といったところだろうか。のえるたちの美少女三人組(中身は56歳と元騎士団長だが)と同じく、若々しい新人の空気感を纏っていた。
「あ、うん! 今登録が終わって、初めての依頼を選んでたところなんだ」
のえるが答えると、少年剣士は白い歯を見せて笑った。
「奇遇だな! 俺たちも今日冒険者になったばかりなんだよ。そっちも三人、こっちも三人だな! 俺はアルト。こっちは魔導士のミナと、弓手のルークだ」
「私はのえる。こっちはロザリスとダリアだよ」
アルトと名乗った少年は、のえるたちが手にある依頼書を見て、「おおっ」と声を上げた。
「『始まりの森』の討伐依頼か! 俺たちも同じ森の薬草採集依頼を受けたところなんだ。あそこは初心者向けの安全なエリアだからな。お互い、怪我のないように頑張ろうぜ!」
「うん! お互い頑張ろうね!」
「じゃあな、のえる! 無事に帰ったら、ギルドの酒場で祝杯をあげようぜ!」
アルトたちは爽やかに手を振りながら、一足先にギルドの扉をくぐって出て行った。その背中には、未来への希望と冒険への躍動感が満ちあふれていた。
「いい子たちだね。若さがあふれてるよ」
のえるがしみじみと言うと、隣のダリアがくすりと笑った。
「のえる、見た目は同年代なのだから、老成したような言い方はおかしなものだぞ」
「あはは……まあ、色々あったからね。よし、私たちも行こう!」
街の外へと出た三人は、陽光が差し込む「始まりの森」の街道を歩いていた。
街道では特に問題もなく、あっさりと「始まりの森」に到着することができた。
「よし、それじゃあ私の新装備のテスト兼、初依頼の遂行といきますか!」
のえるは背中から折り畳み式の長槍を取り出し、ワンタッチで柄を伸長させた。カチリと心地よい金属音が響き、長槍が完成する。
草むらからガサガサと音を立てて躍り出てきたのは、二匹の小型モンスター『ゴブリン』だった。粗末なクラブを振り上げ、奇声を上げて襲いかかってくる。
「シミュレーション通り……突く!」
のえるは踏み込み、鋭い突きを繰り出した。
過去の知識と圧倒的な筋力・動体視力が合わさり、長槍の尖角は見事な精度でゴブリンの胸元を貫いた。さらに、間髪入れずに足元を払うように槍の柄を旋回させ、二匹目の脚をすくう。
バランスを崩した二匹目のゴブリンに対し、のえるは左手で腰の折り畳みボウガンを展開し、錬金術で生成した鋼鉄矢を装填。
バシュッ!!
間近からの射撃はゴブリンの眉間を正確に撃ち抜き、戦闘はわずか数秒で終了した。
「すごいよのえる! 新しい武器、完璧に使いこなしてるね!」
ロザリスが嬉しそうに手を叩く。
「ふふん、距離感もバッチリだし、錬金術との相性も最高だよ」
「うむ、無駄のない見事な体捌きだ。これならば近接戦も安心して任せられる」
ダリアも感心したように頷いた。その後も、のえるたちは順調に指定された討伐数を稼ぎ、依頼は難なく達成された。
「さて、討伐数も満たしたし、そろそろ街へ戻ろうか。アルトたちもそろそろ採集が終わってる頃かな」
のえるが槍を折りたたんで背中に収納し、穏やかな笑みを浮かべたその時だった。
——ズゥゥゥゥン……!!
遠くの森の奥から、大地を揺らす不穏な重低音が響き渡った。
「な……なに……!?」
ロザリスが怯えたように耳を塞ぐ。
ダリアの顔色が瞬時に変わった。
「……危険な気配だ! この圧迫感……初心者エリアに出るような魔物の気配ではないぞ!」
直後、森の樹木が激しく倒れ伏す音とともに、悲痛な叫び声が響き渡った。
「助けてくれぇぇぇぇっ!!」「誰か……誰か助けてっ!!」
森の奥から無我夢中で走ってきたのは——先ほどギルドで声をかけ合ってきた、あのアルトたち三人組だった。




