第21話 折り畳みの機巧と新たな旅路
地竜の討伐から数日後。
のえるたちの拠点である森の広場には、剥ぎ取られた地竜の素材が山のように積まれていた。
岩石をも断ち切る硬度を持つ漆黒の爪、しなやかでありながら生耐性に優れた皮膚、そして高密度の魔力を帯びた角と骨。
「ふむふむ……この地竜の骨と角は、弾力性と引っ張り強度が異常に高いな。まさに『弓』や『ボウガン』の素材として最高峰だ」
のえるは手に入れた素材を手に取り、嬉しそうに目を輝かせていた。
過去にサバイバルゲームのエアガンカスタムや、プラモデルの改造、DIY作業に没頭していたオタクとしての血が騒ぐ。
「よし、予定通り『折り畳み式ボウガン』を作るとしよう!」
のえるは手持ちの工具と『錬金術』、そして『魔力付与』をフル活用した。
地竜の加工しにくい骨を錬金術で分子レベルから整え、高剛性のフレームを構築。弦には地竜の強靭な腱を用い、過去のミリタリー知識から踏襲した「折り畳み機構」を組み込んでいく。
カチッ、カチッ、と精巧な金属音が響き、数時間の作業の末に一つの芸術品が完成した。
普段はコンパクトに折りたたんで腰のホルスターに収納でき、使用時には一瞬で展開して高い威力を発揮する、地竜素材の黒銀のボウガン。
「すごい……! のえる、これ本当にのえるが作ったの!? 凄く格好いい!」
ロザリスが目を丸くして感嘆の声を上げる。
「ふふん、伊達にオタクやってないからね。これで矢さえ作れば、遠距離戦もバッチリだ」
のえるが満足そうに頷いていると、横でその作業をじっと見つめていたダリアが、深く静かな溜め息をついた。
「のえる……君の技術と戦術には、言葉も出んよ。あんな恐ろしい魔物を、見たこともないカラクリで仕留めてしまうとはな……」
ダリアは自らの長剣を見つめ、どこか晴れやかな表情で言った。
「なあ、二人とも。相談があるのだが……」
「ん? なに、ダリアさん?」
「私は……騎士を辞めようと思う」
唐突な言葉に、ロザリスが驚いて羽を揺らした。
「えっ!? 騎士団長さんなのに!?」
「元、だ。今回の遠征で、大切な部下たちを全員死なせてしまった……。それに、もともと貴族たちの政治的駆け引きや、ダークエルフに対する裏での偏見にはヘドが出ていたのだ。もう、組織の縛りなど真っ平御免だ」
ダリアは自らの胸当てから騎士団の紋章を外すと、それを地面へ静かに置いた。
「だから……こうしようと思う。私は『地竜との戦いで部下と共に全滅し、死んだ』ことにしてくれ。……私は騎士ダリアとしての過去を捨て、一人の冒険者として、君たちの旅に同行したい」
のえるとロザリスは顔を見合わせた。
ロザリスはすぐに花が咲くような笑顔を浮かべ、ダリアの手を握りしめた。
「私は大歓迎だよ! ダリアさんが一緒に来てくれたら、すごく心強いもん!」
「私も賛成だ。頼もしい仲間が増えるのは大歓迎さ。……ちなみにダリアさん、剣以外に使える武器はあるかい?」
ダリアは不敵に微笑むと、背中に担いだ長弓を示した。
「剣は流儀として修めたが……実は弓の扱いの方が得意でね。潜入や隠密行動も得意だ。ただ、弓は矢の消耗が激しいのが難点でな」
「矢なら心配いらないよ」
のえるは地面から拾った小石を掴み、錬金術で一瞬にして数本の鋭利な鋼鉄矢へと変化させてみせた。
「私の錬金術で、いくらでも供給できるからね。矢筒を持ち歩く必要すらないよ」
「な……!? 矢をその場で生成するだと……!? ククッ、本当に君という存在は退屈させないな!」
ダリアは腹を抱えて可笑しそうに笑った。
こうして、新たな仲間ダリアが加わり、一行の旅立ちの準備は整った。
だが、出発にあたってのえるには一つ、片付けておかなければならない懸念事項があった。
のえるは自分の背中にあるアサルトライフルを見つめた。
「このアサルトライフル……異世界の街に持ち込むには、あまりにも目立ちすぎるな」
「そうですね……見たこともない形状の鉄の塊ですし、何よりあの爆音は人目につきすぎます」
ダリアの指摘はもっともだった。ファンタジー世界の文明圏において、近代火器は異質であり、余計なトラブルや権力者からの注目を集める原因にしかならない。
「うん。だからこれは……ここに置いていこう」
のえる達は、かつて異世界へ渡ってきた際に通ってきた『異世界ゲート』が存在する、古代遺跡へと向かった。
静まり返る石造りの遺跡の最奥、崩れた瓦礫の隙間に、のえるは厳重に防湿処置を施したアサルトライフルと予備のマガジンを静かに隠した。
「ここなら、誰も見つけられないはずだ。……バイバイ、私の秘密兵器。本当に困った時まで、ここで眠っててくれ」
アサルトライフルに別れを告げ、遺跡を後にする。
のえるの手には、自らクラフトした最新の折り畳み式ボウガン。
隣には、魔法と歌でみんなを癒す天使と竜の少女、ロザリス。
そして背後には、過去を捨てて新たな自由を選んだダークエルフの弓士、ダリア。
「よし……! それじゃあみんな、大陸の大きな街を目指して、出発だ!」
「「おーっ!!」」
陽の光が降り注ぐ広大な未知の世界へ向かって、三人の少女たちの新たな冒険の第一歩が、いま力強く踏み出されたのだった。




