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鋼鉄の美少女  作者: のえみん
第1章目覚めと脱出(2036年)
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第15話 異世界(裏世界)到着

 異世界ゲートが放つ青白い光が、暗い地下通路と二人の姿を怪しく照らし出していた。

 空間が円状に渦を巻き、まるで大気がレンズのように歪んでいる。その中心からは、地球上のどの物質とも異なる異次元の風が吹き出していた。


 のえるはアサルトライフルを強く握り締め、覚悟を決めた瞳でゲートを見つめていた。その表情からは、先ほどまでの幼さは完全に消え去り、凄惨な体験を経た者だけが持つ静かな覚悟が宿っていた。


「……行こう、ヴェノム」


 のえるが振り返ると、ヴェノムはゲートの数メートル手前で足を止め、首を横に振った。


「いいえ。私はここまでよ、のえる」


「……え?」


 のえるは驚いて足を止めた。


 ヴェノムは静かに微笑み、サブマシンガンを肩にかけ直すと、ポケットからデータ端末を取り出した。


「私は元々、この基地のメインフレームに残された情報と、表世界の通信ネットワークを調査するために残る必要があったの。ハッカーとしての私の役割は、この壊れた世界(表世界)の残骸からデータを拾い集めること……異世界の未知の領域へ行くことじゃないわ」


「でも……一人でここに残るなんて危険だ! 基地は崩壊しかけてるし、外部にはまだ暴走兵器が——」

「心配いらないわ」


 ヴェノムは通路の隅、浸水を免れた大型格納庫の暗がりを指さした。

 そこには、米軍が残していった重装甲の全地形対応四輪駆動車(アームド・バギー)が、奇跡的に無傷のまま停車していた。


「あそこに使える装甲車があるわ。予備燃料もある。私はこれを使って基地を脱出し、表世界の地上拠点へ向かうわ。……ここからは、あなただけで行きなさい」


 ヴェノムはのえるの目を見つめ、言った。


「生きてたらまた会うかもね」


「ヴェノム……」


 のえるの胸に、再び寂しさと感謝が込み上げる。目覚めた時から今まで、自分を導き、共に死線を潜り抜けてくれた大切な仲間。


 ヴェノムはそれ以上余計な言葉を交わさず、手際よく装甲車のドアを開け、運転席へと乗り込んだ。強力なディゼルエンジンが重低音を立てて爆発し、ヘッドライトの鋭い光が通路を照らす。


 装甲車はゆっくりとバックし、のえるへ向けて一度だけクラクションを鳴らすと、基地の外へと脱出口へ向かって走っていった。


 残されたのは、のえるただ一人。


 ぐるぐると回転する歪んだ空間の前に、迷彩服姿の少女が立つ。


「……ふぅ」


 のえるは深く息を吐き出し、胸に手を当てた。

 そこには、命を落としたヴァイスの温もりと、最期の教訓が確かに残っていた。


「……俺は……異世界に行くしかないっしょ!」


 のえるは迷いを振り払い、両脚に力を込めると、回転する光の渦——異世界ゲートの中心へと、躊躇なくその身体を躍り込ませた!


 シュワァァァァァァン……!!


 光と空間の歪みがのえるの全身を包み込み、世界が反転した。


【裏世界(フラットアースの南極)への足踏みと出会い】


 浮遊感。そして重力の再構築。


 光の眩しさに閉じていた目を開けた瞬間、のえるの肌を刺したのは、予想していた南極の凍てつく極寒ではなかった。


「……え?」


 ここは遺跡の内部だろうか?

 石の壁に覆われた部屋だった。


 空気はひんやりしている程度だろうか。


 正面にはおそらく岩の扉のようなものがある。

 押しのけて外に出てみると・・・


 目の前に広がっていたのは、見渡す限りの氷原——ではなかった。


 そこは、見上げるほど巨大な「古代の巨木」が鬱蒼と茂り、紫やエメラルドグリーンに光る未知の植物群が咲き乱れる、見たこともない大広野だった。

 空を見上げると、そこには太陽ではなく、空の真中央に輝く巨大な「発光結晶のリング」が描かれており、地平線は丸みを帯びず、どこまでも真平らにどこまでもどこまでも続いていた。


 ——裏世界(フラットアースの南極)。


 地球の球体説の裏側に存在すると言われていた、未知の平坦なる広大な異次元世界。


「ここが……異世界……なのか……?」


 のえるは自分の足元を見つめた。

 履き慣れた軍用ブーツは、先ほどの戦闘による泥と、ロボットから吹き出たガンオイル、そして激しい硝煙の臭いに塗れていた。華奢な美少女の容姿に、泥とオイルだらけの無骨な迷彩服という異様な姿。


 だが、感傷に浸る時間は与えられなかった。


 サワ……


 頭上の巨木の枝が揺れ、光の粒子が舞い散る。


 のえるは即座に警戒姿勢を取り、アサルトライフルのグリップに手をかけた。脳内AI回路が再び戦闘モードへと移行しようとした、その時——


 木々の隙間から、ふわリと見える「存在」があった。


「……ッ!?」


 のえるの息が止まる。


 そこに居たのは、あまりにも神秘的で、幻想的な少女だった。

 絹のように滑らかな水色の髪に、透き通るような薄紫の瞳。書籍の挿絵から飛び出してきたかのような彼女の背中には、神聖な光を放つ純白の『天使の羽根』。そして、その腰元からはしなやかで力強い鱗に覆われた『竜の尻尾』が生えていた。


 相反するはずの「神聖」と「幻獣」の象徴を併せ持つ存在。


(天使の羽根に竜の尻尾……?)


 のえるのオタクとしての知識と感情が、激しく揺さぶられる。


 そこに居た少女は、泥とオイルに塗れ、異様な鉄の兵器を持ったのえるを、珍しそうに薄紫の瞳で見つめていた。敵意はないようだったが、警戒と好奇心が混ざり合った視線だった。


(どうする? 話しかけるか? 日本語は通じないよな……)

(ワンチャン英語か? 演算回路の翻訳使えばいけるけど……)


 のえるが思考を巡らせた。


 自分には、この高スペックなバイオの肉体がある。

 自分を支えてくれる冷徹で頼もしい脳内AI回路がある。

 そして何より——前世から培ってきた「膨大なオタク知識と科学の知識」がある。


 死んだヴァイスの教訓を胸に刻み、二度と油断せず、この残酷で神秘的な異世界を生き抜いてみせる。

 自らの知識とAIの演算力を駆使し、この世界にない圧倒的な「鋼鉄のロボット」を作り上げ、己の道を切り拓くために!


「……私の名前は、のえる。異世界の美少女さん」


 これが、『のえる』と『ロザリス』の出会いであった。


 硝煙と泥に汚れた少女のえるの、オタク知識×AI演算でロボットを作る新たな冒険が、今ここに幕を開ける。


『鋼鉄の美少女』第1話・完


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