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『吟遊詩人』

 ココちゃんの案内(という名のマシンガントーク)を聞きながら、僕たちは中央広場に到着した。おかげで広場に着く頃には、彼女の好物と苦手な食べ物を完璧に把握してしまったほどだ。


「お兄ちゃん、今日も歌ってくれるの?」

「そうだね。演奏で活気づけるのが僕の仕事だからね」

「ココ、お兄ちゃんの歌すき!リュートだけじゃなくて絶対に歌も歌ってね!」


 絶大なリクエストをいただいてしまい、僕は「はいはい」と適当にあしらいつつも笑ってしまう。


リュートを構え、まずは目の前で目を輝かせている特等席の少女に向けて、僕は優しく歌声を響かせた。


『ライラライラ ライラライ 風が渡るよ

 市場の路地を 溢れる色彩 交わる言葉

 ここはリオウ商いと文化の国

 東の海から 宝を運び 西の砂漠へ

 物語を紡ぐ 金の鈴鳴らし 交わす微笑み

 富と知恵が集う 世界の交差点

 ライラライラ ライラライ 踊れよ歌え

 夜が明けるまで 歌声こそが 我が国の誇り

ここはリオウ 商いと文化の国』


 ココちゃんは目を輝かせ、終始嬉しそうに僕の歌を聞いてくれていた。

 最後の音節を奏で終えて視線を上げると、思いのほか大勢の人々が足を止め、僕を取り囲むように集まっていたことに気づく。


 聴衆の温かい視線にすっかり気分を良くした僕は、そのままの勢いで、甘く切ないラブソングへとコードを繋いでいった。


『窓を叩く潮風と 青い波のさざめき

ふと目を閉じれば今も 思い出すのはあなたの声


遠く離れてしまっても

この胸の真ん中には いつもあなたがいたの


あなたを想い いつの日か

旅に出て 私は一人 海の街へ

届けたい言葉は 風に乗せて

「ずっと変わらず 愛しています」


知らない街の夕暮れに ポツリと灯る灯台の光

寂しくないと言ったら嘘になるけれど

この恋が私を 強くしてくれたから


あなたを想い いつの日か

旅に出て 私は一人 海の街へ

いつかまた逢える その日まで

私はここで 歌い続けるの』


 最後の音節が空に溶けていくと同時に、わっと大きな拍手が押し寄せてきた。ココちゃんは「やったー!」と手をたたいて大はしゃぎだ。


「すごいねあんた、いい声だ!耳が幸せだよ」

 威勢のいいおばさんが手を叩きながら褒めてくれる。

「ほう、楽器の鳴りも実に心地いい。大したものだねぇ」

 年配のおじいさんも感心したように頷いていた。


 するとココちゃんが、待ってましたとばかりに人だかりの真ん中で胸を張った。

「サラ様が連れてきたんだよー!すごいお兄ちゃんでしょー!」


 なぜかドヤ顔で自慢するココちゃんに、周囲からどっと温かい笑いがこぼれた。


「ちなみに、サラ様に絶賛カタオモイ中なんだよー!」


 余計な暴露のおかげで、広場には今日一番の大爆笑が巻き起こった。頼むからやめてくれ、こっちは笑い事じゃないんだ!


「へえ……お前、歌とか弾き語りができるんだな」

 あきれ交じりに感心していたのは、昨日出会った赤髪の少年、リューヤくんだった。


「こう見えても吟遊詩人だからね」

「ふーん。吟遊詩人ねぇ……。いや、元気づけてくれるのは嬉しいけど、俺たちが本当に待ってるのはギルドから来る本格的な冒険者なんだよな」


 正直な彼の吐露に、思わず苦笑いが漏れる。

『よし任せろ、冒険者が来るまで僕がこの街を守ってやる!』とヒーローらしく宣言したい気持ちはある。だが、あまり目立ちすぎて「伝説の勇者降臨!?」なんて大騒ぎになるのは一番避けたい展開だ。


「はは、そうだね。早く強い冒険者さんが来るといいね」


 僕はあえて無難な相槌を打ち、誤魔化すように次の曲のコードを押さえた。


『暗闇を切り裂く SOSの叫び

立ち止まるヒマはない 鼓動を打ち鳴らせ

この手に握った 誓いを握りしめて


怯むな 前だけを見つめろ

牙をむく影を 恐れる必要なんてない

運命は今 お前の手の中にある!


行け! 行け! 声のする方へ!

迷いを捨てて 風を追い越せ!

立ちはだかる魔物を 一撃で蹴散らせ!

立ち上がれ 世界を救う 君こそが勇者だ!


傷つくことを恐れるな 誰かの涙を拭うため

解き放て 胸に秘めたその覚醒の炎を!


行け! 行け! 命燃やす方へ!

希望の光を その手で掴め!

群がる魔物を 圧倒的な力で蹴散らせ!

見せてやれ 世界を照らす 真の勇者の姿を!』


 怒涛のフィナーレとともに、僕はリュートのかき鳴らしを終えた。

 瞬間、さっき以上の大歓声と拍手が広場に弾けた。リューヤくんは開いた口が塞がらない様子で固まり、ココちゃんは興奮のあまりその場でくるくると踊り回っている。


「まあ……なんて力強い演奏!歌声も本当に素晴らしいのですね」


 人だかりをかき分けて現れたのは、サラさんだった。

 ほんのりと瞳を潤ませた彼女の美しさに、僕の心臓はドクンと嫌な音を立てる。


「さすがサラ様、あの吟遊詩人さんは大したもんですなぁ」

 リューヤくんの隣に立つ老婆——昨日サラさんの居場所を教えてくれたあのおばあちゃんだ——が感心したように呟いた。

「彼と出会えたのは偶然でしたの。でも、本当にお引き留めして正解でしたわ。こんなにも心揺さぶる演奏を……」

「これで少しは街のみんなも元気が出ますねぇ」

「ええ、本当に」


 おばあちゃんに優しく微笑むサラさん。……いや、その笑顔はさすがに反則じゃないですか!?

 直撃を食らった僕の胸は、もうバクバクと暴れ狂っていた。


「お兄ちゃん、良かったね。サラ様も感激してるよ!」

 ココちゃんがニッコニコの笑顔で言ってきた。……うん、言われなくても分かってるから、わざわざ報告しなくていいよ。

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