僕は音楽家になる!
「ルルク様――っ!」
「はっ」
僕は跳ね起きるように身を起こした。
「お疲れのところ申し訳ありません。夕食の準備が整いましたので……」
頭を二、三回振って意識をはっきりさせる。目を開けると、エミリーさんが心配そうにベッドのそばに立っていた。
夢だったのか。だが、二年前に実際に起きた出来事だ。今でも克明に覚えている。あの時の父の顔、侍女たちの心配そうな表情――すべてが頭の中に残っていた。
「すみません、寝ていました。夕食ですね、ありがとうございます」
僕は一応リュートだけを持ち、エミリーさんと共に食堂へ向かう。
広い廊下には一枚の絵が飾られていた。名のある画家の作品だろうか。
「ルルクさんをお連れしました」
「ルルクさん、お待ちしてましたよ」
ダグ町長はにこやかに僕を迎えてくれた。食堂には他のメイドや奉公人たちも集まっている。だが、サラさんの姿だけが見当たらない。
「サラは教会に行き、妻に報告をしているのでしょう。ルルクさんがこの街を変えてくれると信じていますからな」
「え。ダグ町長の奥様……サラさんのお母様は……」
「サラが十歳の時に亡くなりました。流行り病にかかりましてね……」
「すみません、そんなこととは知らず……!」
「いえいえ、良いんですよ。ルルクさん、お気になさらず」
十歳でお母さんを亡くしているのか、サラさん。さぞ寂しかっただろう。僕は家を追い出されてもう帰れないが、あちらには両親が揃っている。サラさんのことを思うと、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
「それでは夕食にしましょうか、ルルクさん」
ダグ町長にそう促され、僕は思わず尋ねていた。
「サラさんは、いつお戻りになりますか?」
「もうじき戻るとは思いますが……サラを待ちますか?少しスープが冷めてしまいますが」
「構いません。サラさんを待ちたいです」
「わかりました」
突然のわがままを聞いてくれた町長は本当に優しい。その優しさの半分……いや、十分の一でもいいから、僕の父に分けてほしかった。頑固一徹な僕の父に。そうすれば、僕は勘当されずに済んだのかもしれない。まあ、勘当されたおかげで今があると思えば、感謝しているけれど。
「エミリーから聞きましたが、ルルクさんは騎士の国、セリン国のご出身だとか」
僕の話をどこまでエミリーさんから聞いているのだろう。僕は頷きながら答える。
「はい。セリン国の出身です」
「では、ルルクさんも剣技がお強いのでしょうな」
僕は首を振った。剣技が得意なら、僕はここにいない。
「いえ、剣はさっぱりで……どちらかというと、魔法の方が得意でした」
ダグ町長は立派な髭を触りながら、「ほぉ」と感嘆の声を漏らした。
「魔法師もお見事なものです。リオウ国にはあまりおりませんのでな……」
リオウ国は商売と文化の国だ。魔法はあまり馴染みがないのかもしれない。




