守ると決めた朝に〜二日酔い薬と、真っ赤な顔の逃走劇〜
「ルルク、頭痛くない?あれだけ飲んで二日酔いとか大丈夫?」
自分の頭を軽く叩き 、
「うん、大丈夫みたいだよ。何ともないから」
と、笑う。
「良かったー。二日酔いで注意散漫では魔物退治できないもんね」
アンナの言う通りだ。僕が二日酔いで頭痛があったりしたら、魔物退治に支障が出る。僕はサラさんを守るためにも、予定通りに魔物退治をしなきゃいけない。
「そうだね、心配かけてごめん」
「そ・れ・は、私よりもサラさんに言ってあげて。ルルクの事、心配してると思うよ」
アンナはにんまりと笑った。
トントン、とドアを叩く音が響く。
「サラです、ルルクさん」
「ほら、行ってあげて、ルルク!」
僕はアンナに背中を押されるようにしてドアを開けた。そこには、薬らしき小瓶を持ったサラさんが立っていた。
「あ、私はお邪魔みたいだから退散しまーす!」
アンナはそう言うやいなや、素早く部屋を出て行った。
「サラさん……おはようございます」
僕はまず、彼女に挨拶を交わす。
「おはようございます、ルルクさん。その……お体の調子はいかがですか?父が持っていた二日酔いに効く薬を持ってきたのですが……」
やはり彼女も心配してくれていたのだな。僕は自分がすっかり元気だと伝えた。
「本当に大丈夫ですか?無理はなさらないでくださいね」
守ると誓ったのに、サラさんに心配をかけていては世話がない。僕は苦笑いを浮かべた。
「大丈夫ですよ!朝から元気いっぱいです。どうやら僕、二日酔いにはならずに済んだみたいです」
サラさんは微笑む。相変わらず純情青年には罪深き微笑みだ。
「心配をおかけしてすみません!それに……夕べのあれも、本当にすみませんでした!」
サラさんは不思議そうに首をかしげる。
「夕べのあれ、とは……?」
僕は少し頬を赤く染めながら、声を落とした。
「サラさんを……その、押し倒してしまって……」
僕の一言に、サラさんも耳まで真っ赤に染まる。
「あ、あ……あれはびっくりしましたけれど……っ」
僕はサラさんに向かって深く頭を下げた。
「すみませんでした!いくらお酒に酔っていたとはいえ、失礼なことを……!」
サラさんは顔を真っ赤にしたまま、消え入りそうな声で呟く。
「不思議と……いやでは……その、ルルクさんなら……」
途切れ途切れに、彼女は言葉を紡いでいく。
「サラさん?」
覗き込むように僕が見つめると、彼女は俯き、くるりと背を向けてしまった。
「な、何でもありません……っ!」
サラさんの背中を見つめる。華奢で、今にも折れてしまいそうな小さな身体。こんな細い肩で、彼女は街を復興させようと懸命に頑張っているのだ。
――僕が守らなきゃ。この人を、絶対に。
「サラさん!僕、頑張りますから……あなたのためにも!」
振り返ったサラさんは、照れくさそうに、けれど穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます、ルルクさん」
その笑顔に、僕の心臓は跳ね上がるように鳴り響いた。
――こんな風に鳴り響いてしまっても構わない。サラさんが笑っていてくれるなら、それでいい。
「では、また朝食の時にお会いしましょう」
サラさんが部屋を出ていくと、そのすぐ後ろから――廊下の影に隠れていたアンナが、ひょっこり姿を現した。
「いやー!サラさんとルルク、すっごく仲良くてお熱いですね〜!」
ニヤニヤと笑いながらごまかそうとするアンナに、僕の目は鋭くなる。
「アンナ……お前、立ち聞きしてたな!?」
「えー?何のことかな〜?」
とぼけた顔を浮かべるアンナ。だが、そこへ通りすがりのローラが容赦のない一撃を叩き込んだ。
「アンナよ、なぜルルクの部屋のドアに耳を押し付けていたのだ?」
「アンナっ!!」
完璧な証言を得た僕が怒号を飛ばすと、アンナは「きゃーっ!」と悲鳴を上げて一目散に逃げて行った。
「わ……私の声も、アンナさんに聞こえていたのでしょうか……っ」
その場に残されたサラさんが、顔を真っ赤にして戸惑っている。
「た、たぶん……」
嘘をつくこともできず僕が正直に答えると、サラさんはさらに顔を赤く染め、逃げるように走り去ってしまった。
——アンナのやつめ!!




