ローラと僕、負けられない戦い
僕らが酒場に行くのを、サラさん、エミリーさん、メアリーさんが見送ってくれる。
「どうかお気をつけて」
と、サラさんが言う。
「夜はシュナイゼルの街も危険ですから……」
と、エミリーさんが続ける。
「女性を二人も連れて行くんですから、ルルクさん、しっかりしてくださいよ!」
と、メアリーさんの激励?が飛ぶ。
「では、行ってまいります!」
僕は二人を連れて、酒場に向かった。
「ルルクってば、サラさんといい感じで羨ましい~!」
アンナがいきなり言い出した。
「いい感じとは……?」
ローラが難しい顔をして悩んでいる。
僕はアンナに向かって、
「べ、別にサラさんとそういうのじゃないし!」
アンナは、
「へー、ルルクは、サラさんじゃ不満なの?」
僕は首をプルプルと左右に振る。
「そんなことない!サラさんみたいな綺麗な人が、僕なんて……」
と、呟く。アンナは、
「初心ね~。ルルク、私から見たらサラさん、ルルクのこと意識してると思うなー」
僕はアンナの指摘にドキリとした。
(あんな綺麗なサラさんが、僕を意識してる?)
「そ、それは買い被りすぎだよ」
(アンナのせいで僕、そうだと意識しちゃうじゃないか!)
「何を被るのだ?」
ローラが明後日の方向から突っ込んでくる。僕らは笑いながら、酒場へ急いだ。
「いらっしゃ~い」
茶色のウェーブヘアが印象的な、化粧映えする美人店員さんが今日も迎えてくれた。
今日は迷わず大衆酒場へと足を向ける。相変わらず店内は客でごった返していた。
僕はその中から、昨日出会った農場主の姿を探す。
「ルルク、どのテーブルに行くの?」
アンナが尋ねてきた。
「昨日会った、農場で困ってる人を探してるんだ」
「こんなに人がいっぱいなのに?大丈夫?」
アンナの言う通り、この人混みから一人を見つけ出すのは一苦労だ。
「おー、いい飲みっぷりだねえ、お姉ちゃん!」
その時、カウンターの方から威勢のいい歓声が上がった。思わず振り返ると――そこにはジョッキを片手に酒を煽り、周囲の客を沸かせているローラの姿があった。
(いつの間に!?)
ジョッキに並々と注がれたビールを豪快に飲み干すローラに、周囲からさらに大きな声援が飛ぶ。
「いいねえ、かっこいいよ!」
当のローラはこちらに気付く素振りも見せず、店員に追加の注文を叩き込んでいた。
(ローラ……お前、一体何しに来たんだよ!)
騒ぎ立てる客の中に、僕は昨日の農場主の姿を見つけた。
「いたよ」
僕がアンナに教え、彼へ近づいていく。しかし彼は、ローラの飲みっぷりにすっかり魅了されているようだった。
「あの!昨日酒場で会った、農場のワームの話なんですけど……」
話しかけても、ローラの姿に夢中でこちらに気づかない。それを見かねたアンナが彼の前に立ちふさがった。
「ちょっとおじさん!昨日ルルクに『農場のワームを退治してほしい』って言ってた人だよね!?」
「お、お嬢ちゃんも可愛らしいねえ~」
鼻の下を伸ばす、痩せ気味の壮年男。……ダメだ、話を聞いていない。
周囲の男たちもローラの豪快な飲みに夢中で大騒ぎだ。これじゃ一向に話が進まない。僕は覚悟を決め、カウンターに腰を下ろすとビールをオーダーした。
「ちょ、ちょっとルルク!?」
アンナが焦った声を上げるが、背に腹は代えられない。
僕は決してお酒が強いわけじゃない。けれど、ここは引けないんだ。差し出されたビールを、一気に喉へ流し込む。
「おおおおっ!こっちの兄ちゃんも飲みっぷりがいいねえ!」
ドッと歓声が上がった。
負けず嫌いなローラが対抗心を剥き出しにし、追加で頼んだビールを一息で飲み干す。僕も負けじとグラスを追加し、一気に煽る。
周りのギャラリーから大歓声が巻き起こった。
「もうっ、二人とも知らないんだから!」
あきれたアンナは離れたテーブル席へ移動し、適当な料理を注文し始めた。
僕は決してお酒が強いわけじゃない。
それでも、ここで引くわけにはいかなかった。
ローラに負けたくない――そんな意地だけで、僕は六杯目を飲み干した。
――ついにローラが手を挙げ、降参のジェスチャーをした。
奇妙な飲み比べ対決が幕を閉じる。僕は千鳥足になりながら、件の農場主に声をかけた。
「あ、ああ!昨日の兄ちゃんか!いやあ、いい飲みっぷりで男前だねえ!」
泥酔した僕を心配して、アンナがテーブル席から隣へ戻ってきた。そして僕の代わりに話を切り出してくれる。
「……でおじさん、ワームの話なんだけど」
「ああ、明日やってくれるんだったな。午後からなら大丈夫だ。この酒場の前で待ち合わせよう」
「オッケー、明日の午後に酒場の前ね!……だってさ、ルルク!」
アンナが僕を気遣うように顔を覗き込んできた。昨日のサムさんほどではないにしろ、僕の頭の中はかなり泥酔状態だ。
「ルルク、大丈夫か?」
ローラがようやく席を立って、僕らのもとへやってきた。元はと言えば、ローラが勝手に呑み始めたのが原因なのに!
僕は生まれたての小鹿みたいに脚をガクガクさせながら、なんとか立ち上がる。倒れそうになる体を、すかさずアンナとローラが支えてくれた。
(情けない……こんな姿、絶対サラさんには見せられない……)
僕らはそれぞれの会計を済ませた。店を出る際、一気に酒場の『ヒーロー』へと成り上がった僕とローラに向け、客たちから惜しみない拍手と歓声が送られた。
「大丈夫?ルルク」
アンナが僕の顔を覗き込み、心配そうに声をかける。
「はやー、う、ん、大丈夫だーよー」
「ルルク、私と勝負などするから」
ローラが言う。
「もとはー!ローラが!勝手にー」
僕はなかなか元に戻らない。昨日のサムさんを悪く言えない……。メアリーさんに雷を落とされるな、コレ。
「ほんっとに、しょうがないんだから!」
アンナがあきれ顔で溜め息をつく。隣のローラは悪びれもせず言った。
「仕方がなかろう。つい酒と聞いてな、飲みたくなってしまったのだ」
僕はふたりに両肩を預け、千鳥足で歩く。昨日、僕がサムさんにやってあげたことだ。まさか自分が同じ立場になるなんて思いもしなかった。
「ルルク、ゆっくり歩いてね。転んじゃうから」
アンナは優しく声をかけてくれる。
「ルルク、倒れんようにな」
……原因の半分を作ったローラの言い草、いくらなんでもひどすぎないか。




