↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/40

街に潜む視線

「どうしたんですか?」

「何か……視線を感じましたの」

 僕らは一斉に周囲を見渡したが、怪しい人影も気配もなく、特別変わった様子はない。

「実は僕も今日、広場で奇妙な視線を感じたんです。……結局、何もなかったんですけどね」

「ルルクさんもですの?何もなければいいのですけれど……」

 街中で勝手にケルベロスを召喚して索敵させるわけにもいかず、僕には確かめる術がなかった。


「街の中に魔物?ルルクの召喚獣じゃなくて?」

 アンナが首をかしげる。

「シュナイゼルの街には強力な結界が張り巡らされていますから、魔物の侵入は不可能ですわ」

 サラさんの言葉に納得する。だからこそ、この街の中だけは安全とされているのだ。

「なら、ルルクの召喚獣も出せんということか」

 腕を組むローラに、僕は首を横に振った。


「いや、召喚士が呼び出す幻獣は結界の影響を受けないんだ。召喚魔術も魔法の一種だからね」

「……ちょっと待って。じゃあ、もしルルク以外の召喚術師がこの街にいたら?」

 アンナの言葉にハッとする。

「結界の干渉を受けずに、召喚獣を出せる……!」

「なら、その視線の正体って——!」

 察した僕は、すぐにサラさんに向き直った。

「サラさん、宿の宿泊客を調べてください!」

「わかりましたわ!宿の主人に掛け合ってみます!」

 サラさんは髪をなびかせ、すぐさま走り出した。


 その背中を見送りながら、ローラが僕の隣で眉をひそめる。

「ギルドからこの街の依頼を受けているのは、私とアンナだけのはずだが……」

「わからないわ。ルルクみたいな野良の召喚術師かもしれないし」

 アンナがあっけらかんと言う。

(……野良の召喚士って。いくらなんでもその言い方は酷くないか?)



「ひとまず、僕たちはサラさんの家に……」

 言いかけて気づいた。案内役のサラさんがいなければ、二人は家に入れない。

 僕の思考を察したのか、アンナが即座に提案してくれた。

「私とローラはさっきのカフェに行ってるね。ルルクはサラさんの家に行ってあげて」

「うむ。サラ殿が戻らねば、私たちは家に入れぬからな」

と、ローラも頷く。

 いつの間にか、この二人はすっかり息の合ったいいコンビになっているようだ。


「じゃ、また後で!」

 僕が手を振ると、ローラとアンナも笑顔で手を振り返してくれた。


 ……召喚士同士の戦い、か。

 まさかそんな事態が、この平和な街で起こるとは思ってもみなかった。

 思い返せば、これまで盗賊や海賊と対峙したことはあっても、自分と同じ『召喚士』と出会ったことすら一度もない。

 火や水、大地や風を扱う一般的な魔法師なら何度も目にしてきたし、実際に刃を交えたことだってある。けれど——。


 今の僕の力で勝てるのだろうか。

 Bランクに昇格するまでは何度か敗北を経験したが、Bランクになってからは負けなしだ。もうかれこれ一年以上、敗北の味を知らない。


 だが、絶対に驕ってはいけない。この世界には僕より強い人間なんていくらでもいる。

今までは『同時召喚マルチサモン』のゴリ押しで勝てていたが、今回はもう一つのスキル——『限界突破オーバーブースト』も使わなければ厳しいかもしれない。


 限界突破は、短時間だけ召喚獣のステータスを2倍に引き上げる大技だ。しかし、その分魔力消費が凄まじい。

 Cランクの時に一度だけ試したが、召喚できたのはケルベロスのシロ、クロ、フクの三体が限界だった。

 その時の勝負にはどうにか勝てたものの、反動で魔力が底をつき、丸一日眠り続けなければ回復しなかったほどだ。


 一応、魔力回復のポーションも幾つか持ち合わせてはいる。だが、怪我を治す薬草などと違って非常に高価で、扱っている店も限られている。……果たして、これで足りるのだろうか。


 アンナやローラが一緒にいてくれたとしても、今の僕の力で勝てるのだろうか。

 サラさんを守るんだ。

 このシュナイゼルの街を守るんだ。

 僕がこの手で。

 サラさんにずっと笑顔でいてもらうために。


 ……ダメだ、もっと強くなければ。もう一度魔法書を読み直して、かつて契約を取り付けられなかった幻獣たちと、再交渉してみるべきかもしれない。未契約の幻獣を呼び出すには、通常の何倍もの魔力を消費する。それでも、試してみる価値は十分にあるはずだ。

 僕はサラさんの家へと足を進めながら、心の中で固くそう決意した。



「ただいま戻りました」

 僕がサラさんの家――町長の家に戻ると、いの一番でメアリーさんが駆けつけてくれた。

「おかえりなさい、ルルクさん。サラ様と一緒じゃないんですか?」

「ああ、サラさんは用事があって宿屋に行ってると思うよ」

 メアリーさんが首を傾げる。

「何故、宿屋に……?」

「あ……ちょっと野暮用で」

 核心に触れるような話は出来なかった。下手に伝えれば余計な不安を与えてしまうし、何よりメアリーさんのことだ、きっとお説教される。


「そうですか……」

 納得のいかない様子の彼女の後ろから、奥にいたエミリーさんも顔を見せた。

「ルルクさん、ご無事でよかったです。サラ様、凄く心配されていたんですよ」

「うん、それは重々承知してるよ」

 何しろ、僕はそのサラさん本人に直接会って言われたのだから。


「私とエミリーだって心配してたんですよ!ルルクさんおひとりで大丈夫なのかしらって……」

 怒気を含んだメアリーさんの言葉に、僕は焦って手を振った。

「そ、それは大丈夫なんです!実は冒険者ギルドから二人ほど助っ人が来てくれていて、一緒に戦ったので」

「まあ!」

 エミリーさんが驚きに声を上げる。

「そのお二方は……?」

 メアリーさんが周囲をキョロキョロと見回した。


「あ、今はカフェにいますよ」

「ちょっとルルクさん!どうしてお連れしなかったんですか!」

 食ってかかるようにメアリーさんに問い詰められる。

「いや、いきなり連れてきたら驚くかなと思って……」

「この街を救ってくださった方々なんですよね。ちゃんとお礼がしたいです」

 エミリーさんが申し訳なさそうに言った。


「じゃあ僕、カフェに行って二人を連れてきますね」

「お願いしますね、ルルクさん!」

 押し殺した怒りを含んだメアリーさんの圧に、僕は「はい、すぐ行ってきます」としか言えなかった。


「メアリーさん、怖かったな……」

 僕は小さくため息をつきながら、ローラとアンナを迎えに、午前中にも訪れたカフェへと向かった。



「……ん?」

 ふと、強い視線を感じて足が止まる。

 まさか、例の召喚士の旅人だろうか。

 即座にキョロキョロと周囲を見渡したが、怪しい人影は見当たらない。気味が悪いほどの視線に耐えかねた僕は、背負っていたリュートを手に取り、そっと弦をつま弾いた。

 応えて現れたのは、掌に乗るほどのミニチュアサイズのハーピーだ。この大きさで、人通りの少ない路地裏なら見咎められることもないだろう。


 召喚されたハーピーは、出で立つなり真っ直ぐに一本の木の影を指さした。

 促されるままハーピーと共にその木へと近づく。僕が足元の影を踏みつけた瞬間、影の輪郭がゆらりと揺れた。

 ――ただ事じゃない。

 慌てて木の幹や上空を見上げたが、そこには何も存在しない。

 首をかしげる僕の頬を、ハーピーがちょんちょんとつつく。そして、今度は三軒先に並ぶ民家の影を指さした。指示に従い、急いでその家へと向かう。


 またしても影だけがゆらりと揺れた。周囲をぐるりと見回しても、やはり人の気配すらない。

 ……僕は狐か何かに化かされているのだろうか?

 困惑する僕の返答を待たず、ハーピーは再び僕をつつき、今度は二軒先にある倉庫らしき建物を指し示す。急いで倉庫へ駆けつけたものの、結果は同じだった。影だけが歪に揺れているのに、姿は影も形もない。


 これは一体どういうことだ?

 影だけがうごめいて「何か」の存在を訴えているのに、本体が一切見当たらないなんて奇怪すぎる。

 僕が深く考え込んでいると、ハーピーは痺れを切らしたように頬をつつき、最後は街の奥に聳える教会を指さした。あの教会に、何か原因があるのだろうか?

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ルルクたちの旅を楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

これからも幻獣たちや仲間たちとの冒険をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。