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オーク軍団、包囲網の中で

「ルルク……お前は呆れるほど優しくて、不器用な男だな」

 ローラがどこか呆れたように、けれど温かな眼差しでポツリと呟く。

「ルルクってお人好しすぎるよ。……でも、私そういうの嫌いじゃないな」

アンナもそう言って、悪戯っぽく、でもどこか眩しそうな目で僕を見つめてきた。


 僕は急に恥ずかしくなって、照れ隠しに冷めかけた紅茶を一口口に含んだ。


「――ルルク。お前がそこまで言うのなら、私も力を貸そう。この街の魔物全滅、そして復興にな」

 腕を組み、力強く宣言するローラ。

「わ、私も手伝う!ルルク、一緒に頑張ろうね!三人いれば百人力だよ!魔物の退治も街の盛り上げも任せて!私のダンスで街中をパッと明るくしてみせるから!」

 アンナも勢いよく身を乗り出し、拳を握りしめる。


 まさかこんな風に二人が背中を押してくれるとは思わず、僕は思わず椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。


(サラさん、心強い協力者が二人もできましたよ。この二人と一緒なら、きっと……!僕もあなたのため、そしてこの街のために全力を尽くします)



 お会計を済ませるため、僕らは席を立ってオーナー?の女性のもとへ向かう。

 料金を手渡すと、彼女は深く、切実な思いを込めて頭を下げた。

「どうか……このシュナイゼルの街を、よろしくお願いいたします」


 その言葉に、僕は自分の胸をドンと力強く叩いてみせた。

「任せてください!」

 僕の威勢の良い返事に、ローラとアンナが顔を見合わせて楽しそうに笑う。重苦しかった空気が和らぎ、僕らは引き締まった気持ちで店を後にした。



*****


 中央広場に戻ると、昨日酒場で出会った筋肉隆々の大男——酒工場の主人がそこに立っていた。


「おおー兄ちゃん。美女二人も連れて、いいご身分だな!」

「いや……そういうわけじゃないんですけど」


 慌てて弁明する僕をよそに、ローラが凛とした声で言葉を継ぐ。


「私は冒険者ギルドから派遣された冒険者だ。今回の依頼を引き受けに来た」

「私も一緒だよ!よろしくね、おじさん!

 アンナが茶目っ気たっぷりに微笑むと、主人は途端に鼻の下をデレデレと伸ばした。……頼みの依頼主がこれでは、先が思いやられる。

 僕はコホンとひとつ咳払いを挟み、本題であるオーク討伐の作戦を切り出した。


「僕が召喚術で幻獣を呼び出して前衛を張ります。踊り子のアンナは弓での後方支援、そして女騎士のローラは……」


 チラリと視線を向けると、察したローラが胸を張る。


「私は私のやり方で戦う。この大剣さえあれば問題ない。個別に撃破させてもらう」


 酒工場の主人は相変わらず鼻の下を伸ばしたままだが、一応はこちらの説明に頷いている。


(……本当に理解してるのかな)


「まあ、ギルドお墨付きの冒険者様方なら安心だ。頼りにしてるよ。あ、兄ちゃんもね!」

(僕はおまけ扱いかよ!)



 僕たちは筋肉男——もとい依頼主の案内で、現場である酒工場へと向かった。

 あたりは木々や名もなき野草が生い茂り、のどかな田舎の風景が広がっている。見たところオークの影はない。


「……奴らの匂いがするな」

 ローラが静かに剣を抜く。

 アンナも弓を構え、表情を引き締めた。

「ええ、ぷんぷん匂うわ!こりゃ本腰を入れないとヤバそうね」


 僕がキョロキョロと周囲を見渡しても、やはり気配すら掴めない。念のためリュートを奏で、召喚獣であるケルベロスの『シロ』を呼び出した。


「ワオーン!ワオーン!」


 現れるなり雄叫びをあげるシロ。この反応からして、間違いなく目と鼻の先にオークが潜んでいるはずだ。


「な、なんだそのデカさは!?」

 シロの姿を見たローラが声を震わせる。戦闘時にミニチュアサイズのままでは戦えないため本来のサイズで召喚したのだが、凛々しいはずの女騎士様は、自分よりずっと小柄なアンナの陰へ逃げ込んでしまった。


「プギィッ!」


 不気味な咆哮とともに、筋肉モリモリのオークが躍り出てきた。あろうことか、その一頭が丸腰の酒工場主に向かって襲いかかる。よりにもよって、護衛対象を真っ先に狙うなんて一番厄介な展開だ!


 僕は咄嗟にリュートを掻き鳴らし、『戦闘の唄』を奏でる。

 バフを受けたシロが怒涛の勢いでオークに飛びかかった。だがそれに応じるように、木々の陰から次々とオークが姿を現した。

 十頭……いや、それ以上。

 気づけば僕たちは完全に囲まれている。


 それでも僕は慌てない。リュートの音色とともに、残る二頭のケルベロス『クロ』と『フク』を続けて召喚する。

 生粋の武闘派であるクロは、召喚されるやいなや目の前のオークに噛みついた。対して賢いフクは、僕の次の命を待っている。


「フク!遠くのオークだけに狙いを定めて業火を放て!」


 指示を受けたフクが口を開き、後方のオーク群へ向けて熾烈な炎を撒き散らした。


「ローラごめんね!おじさん、こっち来て!」


 アンナはステップを踏むようにオークの攻撃をひらりと交わしつつ、依頼主を引き連れて間合いを取る。素晴らしい立ち回りだ。

 ……で、肝心の女騎士様はというと。

 巨大なケルベロス三頭に挟まれて完全にキャパオーバーを起こしたのか、今度は僕の背中にガクガクと震えながらしがみついていた。


「ローラ……『私は私で戦う』んじゃなかったの?」

「黙れ!仕方がないだろう、不可抗力だ!!」


 僕は背中にしがみつく女騎士に呆れつつ、次の召喚へと移る。

 これだけ囲まれた状況なら、敵同士で相打ちさせるのが一番手っ取り早い。僕はリュートで妖艶なメロディを奏で、サキュバスを召喚した。


「久しぶり〜、ご主人様ぁ〜♡」


 現れたサキュバスは、開口一番僕に向かって濃厚な投げキッスを贈ってくる。僕は冷や汗を流しながら指示を出した。


「挨拶はあと!周囲のオークたち全員に『魅了』の魔法をかけてくれ!」

「は〜い♡おやすいご用だよ、ご主人様ぁ〜♡」


 サキュバスは挑発的なポーズを決め、広範囲に向けてチャームの魔法を放つ。


「な、なんだあの淫らな魔物は……っ!?」


「サキュバスなんだからあれで正常だよ! ああいう魔法なの!」

「納得できるか……! 聖なる戦場であのような破廉恥な真似を……っ!」


 ローラが背後でギャーギャーと騒いでいる間にも、サキュバスの魔法はしっかりと効果を発揮していた。魅了されたオークたちが次々と仲間割れを始め、同士討ちの乱戦に発展していく。


 その時、依頼主をガードしていたアンナが鋭い声を上げた。


「待って!木陰にすごい大きな影が見える!桁違いにデカいオークだよ!」

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