↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファミリアフレンズ  作者: ネコ雲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/15

トラウマ、ゼロック警部



「さて、あなたたちこそ何者なのかしら?」


 屋根の上。


 ゼロック警部は、まるで世間話でもするような口調で問いかけてきた。


 その表情には、敵意らしい敵意がない。


 それなのに――。


 ルクアの背中には、嫌な汗が流れていた。


「……まあ、義賊を名乗ってる連中が素直に答えるわけないか」


 ゼロックが小さく笑う。


 その瞬間だった。


 ルクアの本能が、警告を発した。


(この女?――強い)


 強い。


 そんな簡単な言葉では足りない。


 目の前に立っているだけなのに、隙がまるで見えなかった。


 ルクアはゆっくりと息を吐く。


「……逃げるぞ」


「分かった」


「ええ」


 ルビーとユキも頷く。


 三人が同時に動こうとした――その瞬間。


 ヒュッ!


 空気を裂く音が三つ。


「なっ!?」


 ルクアの首に、何かが巻きついた。


 ユキの首にも同じものが装着される。


 ハート型の金具がついた、首輪のような拘束具。


 そして――。


 ルビーの首元にも飛んできたそれを、ルビーは片手で弾き飛ばした。


 カランッ。


 屋根に金具が転がる。


「私には効かなかったみたいだな」


 ルビーが首を鳴らす。


 だが、ユキは違った。


「ちょ、ちょっと! これ外して!」


「待ってろ、今――」


 ルクアが首輪に手をかける。


 その瞬間。


 ゾワッ。


 身体の奥を何かが撫でたような感覚。


 ルクアは眉を寄せる。


「……なんだ、これ」


 ゼウスを首輪へ流し込む。


 青白い光が指先から溢れ、拘束具を包み込んだ。


 普通の金属なら、これで壊せる。


 少なくとも今までのルクアなら、そうだった。


 だが――。


「……くっ」


 首輪には傷一つつかない。


「クソッ……どうなってんだ、これ!」


 力を込める。


 それでも外れない。


 ゼロックは、その様子をじっと見つめていた。


「あなた、ゼウスを使えるのね」


「……だったらなんだよ」


「なるほど」


 ゼロックが微笑む。


「私のゼウスの方が上みたいね」


「……!」


 ルクアの表情が固まった。


 自分のゼウスが通じない。


 それだけじゃない。


 相手は、こちらの力を見た上で余裕を崩していない。


 ルクアが警戒を強めた、その瞬間――。


「ぐっ!」


 首輪が突然、強く引っ張られた。


「きゃっ!」


 ユキの身体も同時に引かれる。


 二人の身体が、屋根の上を滑っていく。


「ルクア!」


「ユキ!」


 ルビーが身構える。


 だがゼロックは、ただ片手を軽く動かしているだけだった。


「どうしたの? お友達が困ってるわよ」


「……」


 ルビーは動かない。


 その様子を見て、ゼロックが首を傾げた。


「あなたは助けないの?」


「ルクアが助けてほしいって言ったら助ける」


「……お前なぁ」


 ルクアが呆れたように言う。


「俺、今めちゃくちゃ困ってるんだけど」


「自分で何とかすると思ってる」


「信用されてるのか、放置されてるのか分かんねぇよ!」


 そんなやり取りをしている間にも、ルクアは首輪を外す方法を考えていた。


 煙玉。


 距離を取る。


 逃げる。


 そして――。


(……これだ)


 ルクアは懐へ手を伸ばした。


 煙玉に指が触れる。


 その瞬間。


 ゼロックの姿が消えた。


「……え?」


 次の瞬間。


 ルクアの目の前に、ゼロックが立っていた。


「な――」


 ガシッ!


 手首を掴まれる。


「……っ!」


 ルクアは反射的に身体を引いた。


 だが、動かない。


 まるで手首だけ地面に固定されたようだった。


(いつ来た!?)


 足音すら聞こえなかった。


 視線を外した一瞬に移動した――そんなレベルじゃない。


 気づいた時には、もう目の前にいた。


 ゼロックが、にこっと笑う。


「おいたはダメよ」


「…………」


 ルクアの額から汗が落ちる。


「逃げ道を探してたのかしら?」


「……」


 怖ぇ。


 ルクアは心の中で呟いた。


 力が強い。


 速い。


 ゼウスも上。


 それだけならまだいい。


 何より怖いのは――。


 この女?が、何を考えているのか分からないことだった。


「私はあまり時間がないの」


 ゼロックはルクアの手を離す。


 そして、ユキが抱えている袋を見る。


「それを渡してくれたら、見逃してあげる」


「……嫌よ」


 ユキは袋を抱きしめた。


 即答だった。


「これは渡さない」


「そう」


 ゼロックは怒るでもなく、困るでもなく、静かに答えた。


「なら、少し説明しましょうか」


「説明?」


「私は――ガンバレ男爵を逮捕するために来たの」


「……え?」


 ユキの表情が変わる。


「ガンバレ男爵には、住民から不当に金を集めていたという証拠があるわ」


 ゼロックは淡々と続けた。


「あなたたちが盗み出したそのお金も、その中に含まれているのでしょう?」


「……」


「本来なら、私が回収するところだった」


 ゼロックが屋根の端へ視線を向ける。


 遠くから、男爵邸の方角で騒ぎ声が聞こえていた。


「でも、あなたたちが先に動いたみたいね」


 ユキは黙ってゼロックを見る。


「私は、そのお金を町の人たちへ返すつもりだったの」


「……本当に?」


「ええ」


 ゼロックは迷いなく答えた。


「だから、その袋を私に預けてちょうだい」


 手を差し出す。


 ユキはその手を見る。


 警察官。


 義賊である自分にとって、本来なら最も信用してはいけない相手だ。


 けれど――。


 目を見ても、嘘をついているようには見えなかった。


 むしろ、この人は最初からお金そのものには興味がなかった。


「……信用していいのね?」


「信用していいわ」


 迷いのない返事。


 ユキはしばらく黙っていたが――。


「……分かった」


 袋を差し出した。


 ゼロックはそれを受け取る。


「ありがとう」


 そして、ルクアとユキの首元へ手を伸ばした。


 カチッ。


 拘束具が外れる。


「はい、自由よ」


「助かった……」


 ルクアは首をさすりながら大きく息を吐いた。


 ユキは少しだけ不安そうに袋を見る。


「ちゃんと町の人たちに返すわ」


「……お願い」


 ゼロックは微笑んだ。


「任せて」


 そして――。


 トンッ。


 軽い音。


 ゼロックは屋根から飛び降りた。


「……行っちゃったな」


 ルクアが呟く。


「……二度と会いたくない」


「同感ね」


 ユキも疲れたように息を吐いた。


 ルビーだけが楽しそうに笑っている。


「私はまた会ってみたいけどな」


「お前、怖くなかったのかよ」


「強い奴を見ると燃えるんだよ」


「……やっぱり脳筋だ」


「なんか言ったか?」


「何でもない」


 三人は屋根の上で少し休んだ。


 そして――。


 町の出口へ向かう。


 男爵邸の方からは、まだ大きな騒ぎ声が聞こえていた。


「男爵、捕まったみたいだな」


 ルクアが振り返る。


「これで、この町も少しは変わるといいわね」


 ユキが小さく呟いた。


 ルクアとルビーは顔を見合わせる。


 そして、自然と笑った。


「そうだな」


「そうだな」


 町の外へ出る。


 ここから先は、また旅だ。


 ルクアは足を止めた。


「じゃあな、ユキ」


「……え?」


「俺たちはもう行くから。お前も義賊を続けるんだろ?」


「ええ。そうね」


 ユキは一瞬だけ黙った。


 そして――。


「私もついて行くわよ」


「…………は?」


 ルクアが固まる。


「いや、なんで?」


「一緒にいた方が都合がいいもの」


「都合?」


「……」


 ユキは一瞬だけ言葉を止めた。


「あなたたちを利用――」


「今、利用って言ったよな?」


「言ったな」


 ルビーも即座に反応する。


「ち、違うわよ!」


「いや、聞こえたぞ」


「聞き間違いよ!」


「どう聞いたら聞き間違えるんだよ!」


 ユキは顔を逸らす。


「……一緒にいた方が心強いからよ!」


「絶対、今考え直しただろ!」


「細かいことは気にしないの」


「気になるわ!」


 ユキは二人を置いて、さっさと歩き始めた。


「ほら、早く行きましょう」


「おい!」


 ルクアが追いかける。


「いつ仲間になったんだよ!」


「もう仲間みたいなものでしょ?」


「いつ決まったんだよ!」


「今よ」


「勝手すぎるだろ!」


 そんな二人を見ながら、ルビーは小さく笑った。


「……賑やかになってきたな」


 夕暮れの道。


 先を歩くユキ。


 その後ろを追いかけるルクア。


 さらに、その後ろを歩くルビー。


 まだ、この三人は出会ったばかり。


 ユキ自身も、この旅に何を求めているのか分かっていない。


 ただ一つ確かなことがある。


 最初は――。


 ルクアたちを「利用できる相手」だと思っていた。


 けれど、今は少し違う。


 一緒にいると、妙に安心する。


 くだらないことで言い合える。


 危険な場面では、迷わず助けてくれる。


 そして何より――。


 この二人といると、少しだけ楽しい。


「……まあ、いいか」


 ユキは小さく笑った。


 こうして――。


 義賊ユキが、ルクアたちの旅に加わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。