#3 おさんぽしながらダンジョン行きます
【みずみず】外から持ち込んだ武器や装備はそのまま使えますが、ダンジョン内で拾った武器やアイテムは、外に出ると数時間で塵になります。
配信ではみずみずによる、ダンジョン基礎講座が始まっていた。
【みずみず】ダンジョンに潜る前に冒険者登録を行う必要があります。登録証のIDカード、アプリでもいいですが、これが疑似的なダンジョン環境の役割を果たし、初期状態でも3つだけ、アイテムを外部へ消滅させずに保管・持ち出しできるようになります。
まるで本物の先生のような説明口調に、眠気を真っ先に覚えたのはつむりだった。
すでにこっくりと船を漕いでいる。
【みずみず】レベルが上がると上限は増えていきますが、まあ、そこはまだ気にしなくてもよいでしょう。次にスキルについてですが、こちらも冒険者登録することで個人に合わせた潜在能力が顕現し、特殊能力としてダンジョン内でのみ使用できるようになります。
「えっと、冒険者登録とは、どのようにすればよいのですか?」
カメラを固定し、しいはしぶしぶ配信に顔を出した。
画面越しのボイスオンリーのみずみずとダンジョンについての会話を続けている。
ほるすは「読み上げなくてもいいよ」と彩華に言われていたので、忠実にいいつけを守り、ひたすらみずみずとしいの会話をメモしていた。
しかし、会話の速度に追いつけず、メモ帳には「まず、れべる、すきる、とうろく」しか書けていない。恐らく数分後には諦めてお絵描き帳になっている。
「はふー、つむりちゃんの膝枕落ち着くのお。つむりちゃんの膝、やさしいんだもん……」
すぴーと本格的な寝息を立て、無防備になっているつむり。すかさず身をすり寄せるのは、彩華だ。彼氏に甘える彼女のような慣れた動きで膝上に体を潜り込ませた。 もぞりとした感触につむりは「わっ」っと覚醒する。
「わわっ、彩華ちゃん! 急に頭乗っけてこないで! 汗かいてて汚いよ!」
「ぺたぺたしてるのがいいの。少しだけだから、お願い。私タブレット見すぎて目が疲れちゃったの」
「……うー、じゃあ少しだけだよっ」
「ふふ、やさし~。うりうりうり。ああん、癒されるのお~」
「って、あはは! そこはくすぐったいよ! だめだめ!」
【ごめん王】見えないけど音声だけで分かる。ごめん、百合の香りしかしない。
【さえこ】あー! 私もつむちゃんに膝枕してもらいたい!
【聞き専マン】貴重なしい回だ! もっとしいをアップして!
コメント欄も聞いていないようだ。説明はどうでもいいということなのだろう。とりあえずダンジョンがある。冒険者登録する。仕組み? そういうもんなんだろなノリで世の中が回っているのと同じだ。
【みずみず】登録は現地ですぐできますので、受付で聞いてみてください。それよりしいさん。大変申し訳ないのですが、カメラの位置を下げて頂けませんか。
どうしても確認しなくてはならないのです。どのようにして、つむりさんがくすぐったがっているのか、彩華さんの頭の位置はどこなのか。
場合によっては切り抜く必要性がありますので。
「みずみずさん、いきなり説明略さないでください。それと、……何を切り抜くつもりですか?」
配信動画にはほるすと席を替わり、カメラの死角に消えた彩華。
くすぐったそうにわなわなと耐えているつむり。
テスト中な顔つきでコメントを一生懸命メモっているほるす。
つむりとは違う意味でわなわなしているしいが映る。
「あははは! もぞもぞしないでよお! あははっ」
「ただの寝返りだよお」
「起きろ、あ・や・か!」
体を抱きかかえられるように無理やりしいに起こされる彩華。
幸せそうで満足げな笑顔でつやつやしていた。
「はーっ、くすぐったかった! ありがとしいちゃん! ええと、なんだっけ?」
「……今からかさダンに行きます。一度配信を止めます。かさダン到着後にまた配信しますので、通知ONにして待っていてください! いいね、つむり、あや、ほるす! せっかくみずみずさんがリアタイで見てくれてるんだから! もう行っちゃおう!」
「かさダン行くの? ……もちろんいいよ! って、みずみずさんはいつも来てくれてるけどね!」
つむりは一瞬だけほるすを見た。
ほるすが小さく頷いた気がして、つむりはぱっと笑顔を作る。
【みずみず】お恥ずかしい限りです。
【さえこ】え、今からかさダンいくの!? しゅわらじのダンジョン初配信、今日!? ちょっと待って、洗濯物片付けとかなくちゃ!
「そういえば、昨日教えてもらったんだけど、かさダンって昔は5Fまでだったんだよね! 今はもっと下に伸びてるとか、工事したのかな?」
つむりは小首を傾げながら横から画面に顔を出す。
【みずみず】ダンジョンの地盤は人工的には削れません。拡張は不可能なんです。もともと10Fまでだったのでしょう。
「そうなんだ! と、いうことで急遽! しゅわらじメンバーは、かさダンに行くことになりました! しいちゃん、どうせならこのままライブ配信で行こうよ。わたしカメラ持つから!」
「ええっ……! そうだね。一度配信止めるのもまた大変だし、まあいいか」
「わーい! ありがとしいちゃん!」
「べ、別にいいよって言っただけだし」
つむりの屈託のない笑顔にしいの語尾が小さくなっていく。
【ほる推し一年生】神回きた! お散歩配信だ!!
【ほる推し二年生】一年生、ほるちゃんの歩き姿を焼き付けとけ。
【ほる推し一年生】はい先輩!
「それじゃ、日焼け止め塗らないとだね。かさダンの1Fって、観光客向けに人工太陽光ライトがガンガンに照らされてるから、普通の屋外よりUVケア必須なんだよねえ。ふふふ、みんなに塗ってあげる。これ、凄くいい匂いするんだあ」
「……コンビニで、アイス、買ってこ?」
「それは帰りにしようね、ほるすちゃん。ダンジョンでお腹冷えたらきっと大変だと思うの。ほら、腕出して? ぬりぬりしてあげるね」
「……うん。分かった。ん……あーや、いい匂い……。ひんやりして、きもちいい」
彩華の柔らかい手が、ほるすの細い腕を優しく撫でる。
シトラス系の爽やかな香りが部室にふわりと広がった。
そんなこんなで、一同は急遽かさダンに向かうことになった。
それぞれが片耳に小型内蔵マイク付きイヤホンを取り付ける。
今までにも外でライブ配信経験があるからか、段取りは軽やかに進んだ。
自撮り棒を手に駆け出すつむりは、いろんな場所を無差別に映してしまうので、結局しいが撮影を引き受けることになったのだった。
校舎を出ると、9月の容赦ない西日が4人を照らしつけた。
ジリジリと肌を焼くアスファルトの熱気に、たまらず「あづぅい」とつむりが声を漏らす。本気で嫌がっているわけではない。
つむりは夏っ子で、動いて汗をかくのも大好きなのだ。4人の中で一番運動神経もいい。
しゅわらじメンバーが向かうのは重鳴市の駅前にそびえ立つ、巨大なドーム状の建造物。
それが都市開発の核であり、彼女たちの目的地である『かさダン』だ。
それと、やっぱり外は暑すぎた。
冷房の効いたダンジョンへ潜る前に、みんなでコンビニに寄り、アイスを買って食べながら向かうことになった。
冒険する気なんて、たぶんしい以外誰にもなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次回、しゅわらじ初のダンジョン配信です。たぶん冒険はしません。
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