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しゅわらじ! 戦わないJKたちの観光地ダンジョン配信、わたしたちの恋と青春のほうがよっぽど大迷宮です  作者: たーたん


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2/10

#2 ダンジョン攻略は必修科目です

 翌日。

 金曜日の放課後のことである。


「留年したいのか、お前たち」


 部室に入る手前、しいを除いてだらだらとしているつむりたちに向かって、顧問の深山みやまは口を開いた。


 室内にエアコンはあるが調子が悪く、そこまで涼しくならない。ただでさえ狭い部室に、無意味に発熱する配信用PCやモニターが何台も稼働しているため、相変わらず唸る排熱ファンが、生ぬるい風を撒き散らしている。

 

 つむりは扇風機を占領し、胸元をぱたぱたしており今にも脱ぎだしそうだった。しいだけが配信準備で額に汗を流しているのはいつもの光景だ。


 つむり、しい、彩華、ほるすの4人の集まり、配信部には顧問の先生がいる。お目付け役というか、そういった活動には誰かしら責任者がつく。


 普段はめったに顔を出さない深山。背の高い女教師で、今日は分厚いバインダーと大量の紙束を抱えて現れた。

 表紙には『重鳴ダンジョン活動助成金・前期監査報告書』や『学生特例立ち入りに関する安全環境基準チェックシート』などと、いかにもお堅い文字が並んでいる。


 市から部費(活動助成金)をもらっている手前、定期的にこうした面倒な書類の対応に追われているらしい。


 深山は非常勤講師らしいが、普段なにをしているのか誰もよく知らない。

 つむりたちの間では、「清掃員説」「地下格闘選手説」「市役所のスパイ説」といった勝手な説でよく遊ばれている。

 少なくとも、分厚い書類束を片手で軽々と抱える腕は普通の先生には見えなかった。


「……ダンジョンの件ですね」


 キリっとした表情で深山の方を向き姿勢を正すしい。今日は眼鏡ではなくコンタクトで、黒髪をポニーテールにまとめている。いつもより顔立ちの鋭さが目立って、つむりはそんなしいの真面目な横顔がお気に入りだった。


「そうだ鷹ノ瀬」


 真剣なしいの視線に顔を逸らし、深山は室内に入る。

 床のコードを踏みつけないようつま先立ちのまま窓際へ移動して、そのまま背中を向けた。小さな窓に映る反射で4人を見ているようだ。


「先生! しいちゃんに言われて今日、その話題でラジオ配信やろうと思ってたんです!」


 手を上げて嬉しそうに笑顔で先生に伝えるつむり。振り向いてもらおうと手を振り続けているが、深山は背中を向け「そうか」と返事したままだった。


 つむりは配信やSNSといった類いが大好きだ。暇あればスマホを確認し、いいねがつくかつかないかだけで一喜一憂する。チャンネル登録者数、フォロワー数、インプレッション、教科書よりも確認すべき項目が多い。


 普段からリスナーとのコミュニケーションも欠かさず行っていて、しかも会話するテンションも友達のような距離感があるためか、しゅわらじの中では一番親しみやすく、人気がある。


「そういえば、そろそろ時間だよな」


「ええ、さすが先生。ちゃんと把握してるなんて、さすがです。そうだ、せっかくですから先生もお聞きになりますか? みずみずさんていう方が、ダンジョンに詳しいみたいでえ、先ほど配信内でお聞きしてもいいですかって、DM送ったんですよ~」


 ハンディ扇風機でピンクの髪を揺らしながら彩華が深山の背中に声を掛ける。


「なん……、だと!?」


 深山の驚いた声と何か波のような圧を感じたのか、部屋の隅っこで絵本を読んでいたほるすの前髪がピクっと揺れた。


「おいお前たち。鷹ノ瀬の話をちゃんと聞いて、校内ルールも読み直しとけよ。そしてとにかくダンジョンには行け。あと配信は絶対やれよ? 配信は部活動の一環なんだからな。……よし、ということで私は用事を思い出したから帰る!」


 入ってきた時の2倍以上の速度で深山は部室から出ていった。


「……お腹痛いのかな?」


 手を上げたままのつむりが笑顔のまま首を傾げた。


「あっ、みずみずさんから返事きたよお」


 彩華の言葉に皆スマホやタブレットに目を落とした。


「すぅぅ……。


 返信が遅れて誠に申し訳ございません。もちろん、私でよければお力になります。ただいかんせん、私はソロの期間が長すぎたため、パーティの知識は浅く、その点ではお力になれないかと思います。


 ただただ自分の未熟さに悔しさを隠し切れませんが、基本的な知識、それ以外に関しては遠慮なくお尋ね下さい。今日の配信、心より楽しみにしております」


 ほぼ一呼吸で読み終えたほるすは、はあはあと呼吸を整えている。


「ふふ、いいのよほるすちゃん。配信外まで読み上げさんやらなくても。もう可愛いんだから」


 彩華が近づいて、ほるすを包み込むように抱きしめる。

 ほるすの寝癖がぱたりと収まった。


「はあ~~、すっぽり入るほるすちゃん、落ち着くのお……ふふ」


「よし! それじゃラジオ配信やるよっ! しいちゃん! カメラ! みんなも定位置について!」


「……先生の話聞いてた? ダンジョン行きなさいって言ってたでしょ」


 しいの呆れ顔につむりは「?」で返して続けた。


「しいちゃんのお話聞いてねって言ってたよ! そのお話しよっ、ラジオ配信で! そろそろ時間だよっ。リスナーさんたちもみずみずさんだって待ってるよ! 昨日のと今日、返信とか頑張ったから、いつもより再生数伸びると思うんだ!」


 ほっこりした彩華と一緒に、ほるすが言われるがまま定位置に座る。


「ああ、あたしが喋るわけ!? あたしは出ないよ! ……ったく、またこれだ」


 声が裏返るしい。

 彼女もたまに配信に映るが、自主的に映ったり声を出すことを好まない。

 恥ずかしいの一点張りなのだ。

 でも、なんだかんだやってくれる。それがしいなのは、周知の事実だった。


「第33回 しゅわしゅわ微炭酸ゆるゆるラジオ! 題して、おしえて! しい先生!」


 ほるすが忘れないようメモを取る。


「何を!?」


 とつっこみを入れつつ、5分前タイマーが鳴ったので、しいは慌ててカメラの準備を始める。

 その姿を見て、つむりと彩華はニヤニヤと笑っていると、ほるすは不思議そうに2人を見上げた。


「なんだか楽しそう……みんなが楽しいとほるすも、楽しい……」


 ぼそっと呟いて、4人にしか分からないくらい小さな笑みを浮かべるほるすにみんなの視線が集まる。


「ほるーっ!」


 思わず、つむりと彩華がほるすに抱きついた。

 つむりとほるすは小学生の頃からの幼馴染だ。つむり自身も小柄な方だが、昔から背格好の変わらないほるすは、同い年なのに妹みたいに見えてしまう。


「――始めましょう。時間よ」


 お仕事モードのように切り替えた声で合図するしいも微笑んでいる。

 なんだかんだ言いつつ彼女もまた配信を楽しんでいる。


 動画確認画面に、彩華が作成したお待ちくださいのアニメーション映像が流れる。

 4人の視線がそれぞれ交わり頷き合うと、しいが指をつむりに差してスタートの合図を送った。


 お決まりのフリー素材BGMが小気味よく流れる。


「はいっ、はじまりました! しゅわしゅわ微炭酸ゆるゆるラジオ~略して~しゅわらじっ!」


「……第32回は、つむつむのお悩み相談コーナー……。コメントしてね」


「違うよ、ほるすちゃん。それは昨日のだよ」


「……あ。……第33回は、教えてしい先生コーナー……。コメントしてね」


 【聞き専マン】しい回きた……!


 【ほる推し二年生】ほるちゃんほるちゃん!


 【KYO】※しいは映らない予定です。


 【ごめん王】三人抱きつきスタートとか、ごめん、百合の香りしかしない。


 撮影ランプが点灯する。ぽつぽつと入室してくる常連リスナーたち。

 いつもの部室が、一瞬で“しゅわらじ”になる魔法みたいだった。

 画面の向こうで、今日も誰かがこのゆるさに救われている。


「実は! 今日の朝礼で、学校行事の一環として2年生を対象に近くの重鳴ダンジョン、通称『かさダン』の5F踏破が課せられました! それがですね、かさダンの観光スポット化を強化するために、市と学校がコラボした企画でして、悲しいことに2年生にとって成績に影響しちゃうんですよ! 期限は冬休み前までっ、今が9月なので、ええと……まだあるようで、きっとすぐです!」


「知ってるんかい!」


 まるで関西人のようにしいが突っ込むとリスナーが沸いた。


 【みずみず】この空気、今日も息していいですか?



 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 ☆評価や感想をいただけると、しい先生の胃が少しだけ救われます。

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