86.
「次は下水管だね」
個室トイレが完成したはいいが、流した水の行き先がまだ決まっていない。
今は仮で地面に垂れ流している状態だ。
これをなんとかしないと、街が清潔になるどころかむしろひどいことになる。
「トール、地下に管を埋めたいんだけど、腐らない素材って何がいいと思う?」
「腐らない管か……」
トールが顎に手を当てた。
「木は論外じゃな。鉄は錆びる。石を削って管にするのが一番じゃが、手間がかかりすぎる」
うーん、と二人で考え込んだ。
しばらくして、トールが顔を上げた。
「リオン、先日の鋼鉄蟻の外殻、まだ持っとるか?」
「持ってるよ。貯蔵庫にたくさん入れてあるけど」
「あれ、腐食性に優れとるんじゃ。酸にも水にも強くて、地中に埋めても何十年も原形を保つ。管の素材にぴったりじゃと思うんじゃが」
わたしは目を丸くした。
「そうなの? 知らなかったな」
「ドワーフの間では有名な素材じゃ。硬すぎて加工が難しくて、あまり使われとらんのじゃが……リオンのスキルがあれば話は別じゃ」
なるほど。
トールの知識と、わたしのスキルの組み合わせだ。
「じゃあやってみよう。【リサイクルショップ】、貯蔵庫から鋼鉄蟻の外殻を出して」
空中に光が走り、漆黒の外殻が次々と取り出されて地面に積み上がっていく。
先日の掃討で大量に回収していたものだ。
改めて見ると、かなりの量がある。
「これだけあれば十分じゃな」
トールが外殻を一枚拾い上げ、指先で叩いた。
硬質な音が響く。
「よし。【資源分別】!」
淡い光が外殻の山を包んだ。
土や汚れが取り除かれ、素材として整った外殻だけが残る。
黒光りする板材が、きれいに並んで積み上がった。
「続けて、【仕様変更】!」
素材が光の中でゆっくりと変形する。
円筒形に、均一な厚みで、継ぎ目のない滑らかな管へ。
鋼鉄蟻の外殻を素材にした、漆黒の下水管が次々と完成した。
「おお……」
トールが管を抱え上げた。
かなりの重さのはずだが、ドワーフの腕力でひょいと持ち上げる。
「内壁も滑らかじゃ。詰まりにくいし、申し分ない」
「継ぎ目の処理はどうしようか」
「同じ外殻素材を溶かして接合できるんじゃ。わたしに任せるんじゃ」
トールが工具袋から小型の熔接道具を取り出した。
職人の手つきで継ぎ目を溶かし、隙間なく接合していく。
二人で下水管を地面に並べ、地下へと埋めていく。
拠点の個室トイレから、廃棄都市の端まで。
漆黒の管のラインが、地下に伸びていった。
「管は引けたね。次は浄化槽だよ」
「微生物に汚れを食わせるやつじゃな」
「そう。でも微生物をどこから持ってくるかが問題で……」
わたしは【市場調査】を広範囲に展開した。
廃棄都市の地中深く。
汚水が長年染み込み続けた土壌の中に、何かが反応した。
「……いる」
「いるのか?」
「地中に、汚物を分解する微生物のコロニーがあるみたい。長年の廃棄物が育てたんだね」
皮肉な話だが、廃棄都市の長い歴史が、逆に役立つ形になった。
「【資源分別】、微生物特化モードで……」
地面に光が走る。
土壌から微生物のコロニーだけを選別し、濃縮して抽出する。
小さな容器の中に、濁った液体が溜まっていった。
「これが微生物の塊だよ」
「……見た目は汚いんじゃ」
「働き者だから許して」
次に浄化槽本体を作る。
貯蔵庫から取り出した石材を【リファイン】で整形し、【リメイク】で防水加工を施した槽を三つ作った。
「三槽式にするよ。一槽目で大きな汚れを沈殿させて、二槽目で微生物に分解させて、三槽目で澄んだ水だけを取り出す」
「三段階か。手が込んどるんじゃな」
「これくらいやらないと、きれいな水にならないんだよね」
一槽目と二槽目を下水管に接続し、三槽目の出口には細かい砂と砂利を層状に詰めたろ過層を取りつける。
二槽目の中に、抽出した微生物を投入した。
「よし、試作機完成、かな」
わたしは腰に手を当てて、完成した浄化槽を眺めた。
地面に半分埋まった三つの槽が、漆黒の下水管と繋がって並んでいる。
地味な見た目だが、これがこの街の衛生を支える基盤になる。
「動くかの?」
「実際に汚水が流れ込んでみないとわからないけど、理屈は合ってるはずだよ」
「……リオン」
トールがわたしを見た。
「なんで八歳がこんなことを知っとるんじゃ」
真顔だった。
「……いろいろあって」
「いろいろ、か」
トールはしばらく考えてから、工具袋をぱんと叩いた。
「まあ、わたしは作るだけじゃ。理由は聞かんのじゃ」
「ありがとう、トール」
そこへアナが駆けてきた。
例のメモ帳を抱えている。
「リオン様! 浄化槽、完成したんですか!?」
「試作機だけどね。うまくいけば本格的に展開するよ」
「すごいです! これで街の汚水が全部きれいになるんですね!」
「そういうこと」
「では、きれいになった水で——」
アナが何かを言いかけた。
わたしは先手を打った。
「飲み水や生活用水に使うんだよ」
「……そうですね。もちろんそうですね」
アナが少し残念そうな顔をした。
何を言おうとしたのか、聞かない方がいい気がした。
「よし、あとは実際に使って様子を見よう。トール、引き続きよろしく」
「任せるんじゃ」
廃棄都市の地下に、見えない血管が通りはじめた。
【おしらせ】
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