84.
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
「トールを呼んでくれる?」
わたしがそう言うと、アナが元気よく飛び出していった。
しばらくして、どすどすと重い足音が廊下に響いてくる。
「呼んだかの、リオン」
扉を開けて入ってきたのは、小柄な少女だった。
だが見た目に騙されてはいけない。
腰には工具ベルト、手には金槌、背中には巨大な工具袋。
ドワーフの職人、トール。
この拠点で一番、モノを作ることに関しては信頼できる人物だ。
「トール、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんじゃ」
「この世界のトイレって、どういう仕組みなの?」
トールは金槌を腰のベルトに引っかけ、腕を組んだ。
「トイレか。そりゃあ、スライム式じゃな」
「アナから少し聞いたけど、詳しく教えてほしいな」
「ええじゃろ」
トールはどかっと椅子に座り、説明を始めた。
「まず、地面に大きな穴を掘るんじゃ。ボットン便所じゃな。そこにスライムを何匹か放り込む。用を足せば、スライムが食べてくれる。以上じゃ」
「……シンプルだね」
「シンプルが一番じゃ」
トールは得意げに鼻を鳴らした。
「でも、問題もあるんじゃよなあ」
「問題?」
「スライムってのはのう、気まぐれなんじゃ。腹が減ってなければ食べんし、機嫌が悪ければ穴から出てきよる」
「出てくるの!?」
「出てくるんじゃ」
トールは至って真剣な顔で頷いた。
「しかもスライムってのは、コントロールが難しい。手懐けたつもりでも、ふらっとどこかへ行ってしまうことがある。気づいたら便槽が空っぽ、なんてこともよくある話じゃ」
「それ、衛生的にどうなの……」
「どうにもならんのじゃ」
さらっと言った。
「それと、一番の問題がのう」
トールが声を低くした。
「落ちたら、死ぬ」
沈黙が落ちた。
「……死ぬの?」
「スライムが腹を空かせとる状態で落ちたら、最悪じゃな。まあ、そうじゃなくても穴が深ければ助からんが」
エリーが青い顔をしている。
アナは「こわいですね」と言いながらメモを取っている。
わたしは頭を抱えた。
落ちたら死ぬトイレ。
気まぐれなスライムが出てくるトイレ。
コントロールできないトイレ。
これはいかん。
絶対に改善しなければいけない。
「トール、うちのトイレは全部作り直すよ」
「ほう」
トールの目が光った。
この人、新しいモノを作る話になると目つきが変わる。
「どんなトイレにするんじゃ?」
わたしは少し考えてから、口を開いた。
「水で流す、個室のトイレ、かな」
「水で? どういう仕組みじゃ」
「便器の上に水を溜めるタンクをつけるの。用を足したらレバーを引くと、タンクの水が一気に流れ込んで、汚物を押し流してくれる仕組みだよ」
トールが眉をひそめた。
「……ふむ。水の勢いで流す、ということか」
「そう。スライムもいらないし、穴に落ちる心配もない。個室だからプライバシーも守られるし、臭いも外に漏れにくい」
「理屈はわかった」
トールは腕を組んで唸った。
「じゃが、流した後はどうするんじゃ。結局どこかに溜まるんじゃろ? 海に垂れ流すのか?」
「まさか」
わたしは首を横に振った。
「汚水はね、地下に埋めた下水管を通して、一か所に集めるの。そこで微生物に汚れを分解してもらって、きれいな水にしてから川や海に流す。そういう処理場を作るんだよ」
トールが黙った。
じっと、わたしを見ている。
「……微生物に、分解させる?」
「うん」
「水をきれいにしてから、流す?」
「そう」
また沈黙。
トールの目が、じわじわと輝きはじめていた。
「リオン」
「なに?」
「おぬし、どこでそんなことを知ったんじゃ」
「ちょっと遠いところで勉強してきたんだよね」
わたしがそう答えると、トールはしばらく考え込んでから、ゆっくりと立ち上がった。
工具ベルトをぱんと叩く。
「……やってみたい」
「でしょ?」
「やってみたいんじゃ!」
目が完全に職人の目になっていた。
こういうトールが一番頼りになる。
「じゃあ一緒に作ろう。わたしがスキルで材料を用意するから、トールは製図よろしく」
「任せるんじゃ!」
トールが工具袋を背負い直した。
その横でアナがメモ帳を抱えて、真剣な顔をしている。
「アナ、何書いてるの?」
「はい! 『微生物に分解させる』……『水をきれいにする』……『個室でプライバシー』……」
「うん」
「……『いかがわしいことは別の場所で』」
「それはもう書かなくていいよ」
廃棄都市の改革は、トイレから始まることになった。
【おしらせ】
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