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婚約者・マーカイル

 あれから怒涛の日々が過ぎた。まず王家からの呼び出しで神殿での聖女認定の儀式。今後は学園の授業の他にも神殿に通って聖女としての力を磨いていく事となる。とはいっても、現在この国にあたし以外の聖女は居ない。先代の聖女が居たのは約百年前らしく、当時の文献を頼りに神殿の司教さまからの教えを乞うている。


 そして。エバーンズとヒューには「ごめんなさい」と頭を下げ、二人との婚約の話は無くなった。体面上はあたしには想い人が居て、その人と婚約が決まっていた……という嘘っぱちな話だ。嘘は嘘でも、婚約自体は本当にするのだからなんとも言い難い気分だったりする。


 お父様やお義母様からは侯爵家からの縁談を断るだなんて有り得ない! と怒られたけど、マーカイルと婚約を結びたいと話すと掌を反して大喜びされた。えっ……マーカイルは三男だから爵位を継がれる訳じゃないのに? と思ったのだけど……


「爵位はおれが継ぐ。知らなかったのか?」


 マーカイルにその話をすると、何を今さら……みたいな顔して言われた。あたしはてっきり貴族籍を抜けるか、或いはロナルド伯爵から余っているであろう男爵家辺りの爵位を貰って伯爵家を出るものだと思っていたので驚きを隠せない。ちなみに我がカルベロス男爵家はフローラお姉さまが爵位を継ぐので、婿を取る予定になっている。


「えっ、だって三男でしょ。普通は婿入り出来なかったら、爵位を貰うか平民になるじゃない」

「元々は一番上のルーカス兄貴が継ぐ筈だったんだが、二番目のモルダー兄貴もそのつもりで侯爵家に婿入りしてしまってな。その後にルーカス兄貴が突然貴族籍を抜けたいと言い出して……勘当当然に家を飛び出して今じゃ絵を描きながら世界中を旅している」

「うわー……何それ」

「だから少し歳の離れていたおれに爵位が回ってきた」


 芸術家って本当に自由だな……なんて思ってしまう。ルーカス様と婚約されていたご令嬢も一緒に貴族籍を抜けて庶民の夫婦となり、二人仲良く旅をされているらしい。生活費はどうされているのか心配したが、ルーカス様の描く絵は貴族の間で人気が高く破格値で取引されていてむしろ裕福なのだそうな。


「お前との婚約も両親から承諾を得たから、後日カルベロス家へ正式に婚約の申し込みをする」

「は、はいっ」


 とんとん拍子に話が進んでいくのが何だか怖いくらいだ。今の所、あの矯正力とかの気配はないのだけど……恋愛イベントをすっ飛ばしてのこの婚約って、ゲームとしてはどういう状況にあるのだろう。攻略対象者と婚約するのだから一応ハッピーエンドを迎えた扱いになるのだろうか? まぁ、互いに愛はないのだけど……。


 ――変な矯正力がまた働かないといいんだけど……。

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