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パフィットの誓い

 王都の東側にあるイヴィエの森でドラゴンが出たらしい。そんな噂が耳に入って来たのは、あたしがマーカイルの婚約者におさまってから一ヶ月ほど経過した頃だった。


「魔術騎士団と共にですか……」


 神殿にて司教さまからイヴィエの森への派遣要請を受けたと告げられた。この国ではザックリ言うと武術に長けた脳筋の王国騎士団、魔術に長けた魔術師団、魔術と武術を組み合わせた闘いが得意な魔術騎士団の三種類に分かれて編成されている。ヒューが王国騎士団タイプ、エバーンスが魔術師団タイプ、ブルーニクスが魔術騎士団タイプといった感じだ。


「勿論、前線ではなく待機所での兵士たちの治療役としてだから危険はほぼ無い。陛下から実践にて貴方の力を見てみたいとの話だ」


 司教さまからの話を聞きながら、ゲームのイベントを思い出していた。この乙女ゲームは物語の後半パートは魔物とのバトルが中心となっている。仲良くなった攻略対象者と一緒に魔物退治をしながら、より一層絆を深めていく展開だ。このイヴィエの森のドラゴン退治は、その後半パート突入の合図としてゲームの中でも描かれていた。


 という事は後半パートが始まったという事になる。聖女認定されたからなのか、マーカイルと婚約したからなのかは分からないけどゲームとしてはシナリオが進行していっているという事だよね。


「いきなりドラゴンか……まぁ、討伐自体は魔術騎士団たちがしてくれるから直接対峙する事はないだろうけど」


 自宅へ戻ってから私室のソファーに腰掛け、改めてイベントの内容を思い出す。このイヴィエの森のドラゴン退治は、ゲーム途中で流れるムービーでしか知らないけど待機所の治療テントに続々と運び込まれて来る負傷した魔術騎士団の団員たちの治療に当たるヒロインの様子がアニメーションで描かれている。


 終わりの方で瀕死の重傷を負った一人の団員が運ばれて来て、そのあまりにもボロボロに傷を負っている姿にヒロインは顔を青ざめながら震える手を団員の身体にかざして治癒魔法を発動させる。ヒロインの奮闘によって奇跡的に命を取り留めた団員の閉じていた瞳がゆっくりと開き、ヒロインの瞳からもぽろぽろと涙が流れ落ちるシーンでそのムービーは終わる。


 あれはゲームの画面越しに見ていただけだったから「あぁ、助かって良かったね」くらいにしか思わなかったけど、こうしてリアルな世界として体感すると考えるだけで気が重くなった。前世を平和な日本という国で生活していたあたしにとったら、テレビで観ていた他の国で行われている爆発の映像や惨劇などはある意味他人事(ひとごと)で……正直実感がない。


 まだ魔物とはスライムでさえ出会った事が無いのだ。ゲームの世界で、魔法があって、魔物が居て……一見するとRPGの世界に転生出来て、ひゃっほー! となるかもしれないけど、現実問題として受け止めるとかなりハードル高い世界だと思う。


「ましてやヒロインで聖女だもんな、笑うしかない」


 そう零して少し冷えてしまった紅茶に口を付ける。最近は茶器を私室へ持ち込み、自分で好きなようにお茶は淹れていた。前世でも紅茶は茶葉で淹れていたので手慣れたものだ。自分で飲むだけならこれで充分美味しいと思う。


「なんか、思ってたよりヒロインて大変だなぁ……」


 大好きだったゲームの世界で、大好きなイケメンたちに囲まれて、楽しく幸せな人生を送る……なんてそう簡単なものじゃないと実感している。出来たらループせずにこのまま第二のこの人生を最後まで全うしたいよ。一年で次の(プレイヤー)にバトンタッチだなんて嫌だ。


 マーカイルが言うようにもしもあたしが今までのパフィットたちと何かが違ってて、このループする世界を止められるのなら……何としてでも頑張りたい。そうしたらマーカイルとの婚約を解消して、彼を自由にしてあげなくちゃいけないと思う。あたし達は偽りの婚約者なんだもの。助けてくれたマーカイルを望まない結婚なんかで苦しめたくはない。


「とにかく今は出来る事を一つずつ頑張っていくしかないものね」


 誰に見せるでもないけど「頑張るぞ、おーっ!」と拳を握りしめて頭上へと突き上げる。胸の奥に湧き上がるツンとした痛みを誤魔化すように……。

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