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手作りアイテム

「はいコレ、忘れ物よ」


 ここは教室の入口。珍しく上級生のフローラお姉さまが、あたしを訪ねて来られた。手渡されたのは手のひらに乗る大きさの、可愛らしい布で包まれた包み。上部はリボンを結んで閉じてある。


「これは何ですか?」

「貴方が昨夜厨房で作っていた手作りクッキーよ」

「は?」


 なにそれ。あたし、そんなの作った覚えないんだけど。


「お姉さま、わたくしはそんな物作った記憶御座いませんけど」

「まさか寝ぼけてたとでも言うの!? 夜中にいきなり起こされて、ガッツリ手伝わされたのよ」


 全くもってそんな記憶はない。でも手のひらの上にはクッキーの重み……。まさか寝てる間に例の矯正力が働いてクッキーを作らせたのだろうか。マジか、それじゃ夢遊病じゃないか。


「それは……なんだか申し訳ありませんでした」

「べ、別に構わないけどねっ! ロドルフォン様も喜んで受け取って下さったし。こ、これからも、手伝ってあげても宜しくてよ」

「機会があれば、是非……」


 フローラお姉さまは上機嫌でご自分の教室へと帰って行かれた。どうやらフローラお姉さまがお慕いしているマダディスカ伯爵家のロドルフォン様へプレゼントする分も一緒に作ったらしい。そういえば今朝起きた時、何故か指に小麦粉の様な塊が付いていたわね……あれはクッキーの生地だったのか。てか最近思うのだけど、フローラお姉さまってツンデレ?


「お嬢、それ何?」


 出入り口に近い席に座るブルーニクスが声を掛けてきた。


「……なんかあたしが夜中に作ったクッキーだって」

「へぇ」


 ブルーニクスが開けて欲しそうにしているので、彼の机の上に包みを置いてリボンをほどいてみる。……ほどいて…………。


「え、ほどけない……」


 見た目からして普通に左右に引っ張ればリボンはするっとほどける筈なのだが、どんなに引っ張ってもビクともしない。あたしが四苦八苦しているのを見て、ブルーニクスが代わりにほどこうとするけどリボン自体が鋼鉄かのように全く動かない。


「……包みを切り開いてもいい?」

「うん」


 ブルーニクスが懐から小さなナイフを取り出して、リボンの下辺りを狙って切り目を入れようとしたけど……ガキン! とナイフの刃が跳ね返された。


「ぬ、布……よね? これ」

「触った感触は布だな」


 予想外の出来事に顔を見合わせる。


「……うん、気味悪いから捨てよう」


 あたしがクッキーの入った包みに手を伸ばした瞬間、包みが宙に浮いて教室から飛び出して行った。


「はぁ!? ちょ、待ちなさいよ!」


 慌ててその包みを追いかける。この学園に入学してから不思議現象には散々出遭ってきたけど、クッキーが逃げていくとか訳が分からな過ぎてもう家に帰りたいんですけど! クッキーの入った包みは上手に生徒たちの頭上を通り抜けて、ようやく追いついた先は噴水のある庭園だった。


「ぜえっ、ぜえっ……な、なんで、こんなとこ……」


 そして噴水の近くにあるベンチに腰掛けていた一人の男子学生の膝の上にぽすん! とクッキーの包みは着地する。


「うわっ!? え、なんだ?」


 いきなり自分の膝の上にクッキーの包みが落ちて来て驚いているキラキラ金髪の生徒。あたしはその姿を見て気が遠くなりそうになった。


「カイラード殿下……」


 あたしの呟きに気付いたのかカイラード殿下はこちらを見て……優しい微笑を漏らした。

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