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マーカイル・ロナルドのイベント再び

「…………また、お前か」


 窓から差し込む夕陽を背に、マーカイルは大きな溜息をついた。


「えへへ……ご、ごめんなさい」


 あたしは苦笑いを浮かべながら、そう笑って誤魔化すしか出来ない。


「二度と近寄るな、とおれは言ったよな」

「まさか貴方が居るとは思ってなかったの! ただ本を借りに来ただけで……」

「借りにくるな、真っ直ぐ帰って寝ろ」

「ひどっ! 不可抗力なのに……あたしだって本くらい読みたい」


 そもそも何でこんなに酷い扱いを受けなければならないのよ。誰も貴方を攻略したいだなんて思ってもいないのに。


「……はぁっ。お前がここに来ようとするから、おれは自由を奪われたんだ。さっさと済ませて帰るぞ」

「はぁ? あたし、貴方とのイベントなんて起こしたくないんですけど」

「お前が図書室に入った時点でもうイベントは起こっている。終わらせないとここからは出られないぞ」

「……マジで?」


 試しに回れ右をしてその場から離れてみる。あら、帰れるじゃん。そう思ってどんどん歩いて行くけど、気が付いたら再びマーカイルの居る場所へと戻って来ていた。


「え……なにこれ」


 慌ててUターンして、図書室の入口へと向かう……が、辿り着いたのはマーカイルの前。


「もうっ、なんなのよこの矯正力! ここは魔境か! 迷いの森か!」


 どこがどうなって、こんな現象が起きるのかサッパリ分からないけど……分かるのは、この力からは逃れられないらしいという事だけだ。


「どうだ、分かっただろう」

「分かったけど……本当にあたし、貴方と関わるつもりなんてこれっぽっちも無いのよー」


 嘆くあたしを冷たい目で黙って見つめてくるマーカイル。


「…………初めてだな」

「はい?」

「いや、なんでもない」

「なんなのよ、気持ち悪いなぁ……」


 言いかけて途中でやめるって、気になるじゃない。何が初めてなんだろう。


「ほら、寝た振りするから声掛けろ」

「えー……なんかヤダなぁ」

「…………」

「……」


 嫌がるあたしを無視してマーカイルは椅子に座ったまま腕を組んで瞼を閉じた。サラサラの空色の髪が夕陽の光を浴びてキラキラと輝いている。閉じた瞼には長い睫毛がふさふさと並び、整ったその顔に胸がどきん……と脈打った。息を呑むほどに美しい姿に目が釘付けになる。


「……早くしろ」

「はっ、はいっ!」


 び、びっくりした。見惚れてたなんて知られたら何を言われるか分からない。あたしは慌ててイベントの台詞を記憶から引っ張り出す。


「……ま、マーカイル様?」

「……」


 そっと彼へと近づいて行く。そして床に落ちている詩集を拾い上げて机の上に置いた。そのままそっと、その場を離れようとし……その腕を目覚めた(振り)のマーカイルに掴まれる。


「ひっ!」

「……そこは“きゃっ”だろうが。全く……」

「す、すみません……」


 掴まれるの分かってたけど、それでも驚いたんだもの。相変わらず演技指導が厳しいな。


「まぁ、いい。……もう、行くのか?」


 腕をそのまま引っ張られて、マーカイルの方へと身体を引き寄せられる。もう片方の手を腰へと置かれ、あたしはマーカイルとメチャクチャくっ付く様な形となる。


「……っ」


 演技だと分かっていても、この距離はヤバイ。ただでさえマーカイルは色気駄々漏れキャラなのだ。


「あ……えっと、ね、寝てたんじゃないんですか」

「お前の気配を感じたせいだ」


 決められた台詞をただなぞっているだけなのに、台詞まで色気溢れてるのは何で!? てか、イベント通りだとしても早くその手を離して欲しい。


「おれの眠りを妨げたのがお前なら、悪くはないな。また会いにくるがいい」


 そう言って少し口の端を持ち上げたマーカイルはあたしの身体から手を離した。あたしは慌てて飛びのいて背を向けた。


 ――やっば! なにあの微笑み! 不覚にもドキドキするからやーめーてぇー!


「……次のイベントは起こすなよ」

「わ、分かってるわよっ」


 黙ってたら芸術品の様に美形で素敵なのに、素で口を開くとこうだ。やっぱりマーカイルと関わるとムカついて仕方ない。さっさと図書室から出て行くマーカイルの姿を見送った後、あたしは慌てて恋愛小説を捜しに本来向かう筈だった棚へと向かった。

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