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13.近づいた真実

 衝撃のあまり、私はふらふらと岩肌に寄り掛かった。


 (ああ——そういうことだったのね、トラン男爵)


 すべてのことが、私の中で一本の線に繋がった。


 「タチアナ!」


 「アラン……二ヶ月前の嵐の日——橋が崩落したのは、トラン男爵の仕業ではなくて? ジェフリーをおびき出す罠に利用したのよ」


 「タチアナ……木造だったとはいえ、橋だぞ。騎士団すら持たない男爵にできるはずもないだろ?」


 私はアランに構わず話し続けた。


 「トラン男爵はダイヤモンド鉱山を独り占めするために、ボナパルト家を……当主であるジェフリーをどう欺くか、ずっと考えていたのだわ。そこへあの嵐が来て……『橋が崩落した』と救援を乞えば、責任感の強いジェフリーは自ら出向くでしょうね。それを分かって……仕組んだのよ!」


 「タチアナ、落ち着いてくれ。男爵は不正を働くような欲深い男だが、そんな大それたこと……」


 「違うわ、アラン。男爵は静かに爪を研いでいた……狡猾な男だったのよ。どうやら、男爵を()()()で判断して見くびり過ぎたようね。考えてもみて、この坑道はどうやって作られたのかしら?」


 アランはこれまでの思い込みを整理するように目を閉じ、組んだ腕の指先が忙しなくリズムを取っている。


 「はっ! ……爆薬か! それなら従者一人でも橋を崩すことはできる。なんてことだ……。脱税は、爆薬のための資金だとしたら……。このダイヤモンド鉱山のことを男爵に問い詰めるか?」


 「だめ、男爵はずる賢い男よ。きっと、坑夫たちが領地法を無視して勝手にしていたと、彼らに罪をなすりつけようとするだけよ」


 「そんな言い訳が通用するとでも……。男爵め、領主から任された封土の責任者だぞ」


 「きっと、さっさと監督を怠った罪を認めて、せいぜい罰金刑に処されるのを喜んで受けるでしょうね」


 「法律で罰しようとしても、貴族と貧しい平民では……。帝都の裁判官は貴族ばかりだ。貴族が有利になる判決を下すだろうな」


 アランは自嘲するような表情で、吐き捨てるように呟いた。


 「脱税の証拠も見つからないし……。脱税で得たお金の流れを辿れば、爆薬の購入先もわかるかもしれないけれど」


 「そうだな。爆薬は高価で貴重なものだ。不作の貧乏封土のどこにそんな金があるのか、と言われればおしまいだ。村人が、収穫した農作物の本当の行き先を証言するわけもないしな」


 「ジェフリーは男爵の脱税を疑っていたようだけれど、何に引っ掛かっていたのかは分からないの」


 「ジェフリーが? ……俺は知らされていなかった。そうか、ジェフリーはトラン男爵を疑っていたのか……」


 実は、私も少なからずその点に疑問を抱いていた。


 (どうして、ジェフリーはアランにその事を相談しなかったのかしら?)

 

 しばらく私は、うろうろと行ったり来たりしながら考えを整理していた。


 (もし、男爵がジェフリーの生存を知ってしまったら……。今のジェフリーを守るためには、本人だという確たる証拠が必要だわ)


 私は背筋がぞくりとした。


 (ゾラ村や坑夫たちの集落、そしてミロやソフィアさんの状況を察するに……トラン男爵の悪行は叩けばいくらでも出てくるでしょうね。だけど、正攻法ではこちらが不利になってしまう)


「アラン、ジェフリーの葬儀に遺体はなかったのよ。男爵が今でもジェフリーを探しているとしたら……」


 「……そうだな。男爵がタチアナの言う通りのヤツなら、遺品や骨を見つけるまで生存を疑うだろうな」


 「ジェフリーと一緒にいたソフィアという女性は、男爵の妾なのでしょう? お金や愛情欲しさに、ジェフリーを男爵に密告するかもしれないわ」


 「いや、それはないだろう」


 「そう言い切れるの? 心配だわ」


(タチアナは気づいていないのだな。ソフィアとかいう女の目は、ジェフリーに恋をしている目だった。まぁ、わざわざ伝える必要もないが)


 「どれも、私たちの傲慢さが招いた結果ね。もっと領地へ足を運んでいたら……領民の声を聞いていたら……人々が男爵の横暴に苦しむこともなかったのよ。それに……もっと早くジェフリーの生存を知ることができたかもしれないわ」


 「タチアナとジェフリーのせいじゃないだろ。お前たちは家臣を信頼していただけだ。こうして男爵の脱税に気づけたのも、ちゃんと報告書を検証していた証拠だろ。だいたい、多くの家臣は真面目に封土を管理しているさ」


 頭の中で理性と感情がぐちゃぐちゃになっていた私は——額に手をやり視線を地面に落としたまま心を落ち着けていたのだが……ふと、あることを思いついた。


 「……当主の指紋。そうよ、それがあるわ!」

感想やリアクションをいただけましたら、とても励みになります。

感想へのお返事は控えさせて頂きますが、大切に読ませていただきます。

よろしくお願いします。

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