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第十七話 おっさん、固有ギフト”換金”を発動させる①

 商業の神からの神託という嵐が去り、俺の脳内に平穏が戻ってきた頃。


『マスター、先ほどから何を一人で話しているんですか?』


 一人疲弊している俺に、華が不思議そうに声をかけてくる。どうやら華にはルメース様の声は聞こえていないようだ。いくら神様といえど、加護を与えていない存在にまで言葉を届けるのは難しい、ということなのだろうか?


 俺は簡単にだが、ルメース様との会話の内容を華に説明した。


『商業の神様の加護まで授けてもらえるなんて、すごいですね! しかも、神託まで!』

「神託って言っても、神聖さの欠片もなかったけどな……加護は確かに有難いけど、正直どんな効果があるのか想像もできないんだよなぁ」


 デミウル様の加護は(仮)だから特に気にはしてなかったけど、正式に加護を授かったからにはスキルとの違いを認識しておく必要があるのかもしれない……根に持ってないけど、もう一度言っておこう。デミウル様の、加護は、(仮)、であったと!!


『でしたら、後でサイプル様に聞いてみましょう。加護であれば、きっと詳細をご存知のはずです』

「それもそうだな」


 理由はどうであれ、せっかく頂戴した加護だ。宝の持ち腐れだけにはならないようにしないと。それにしても、俺の加護が増えたことを自分の事のように喜んでくれるなんて……俺は本当にいい相棒を持ったな。


 声が弾んでいる華に、胸の奥がジーンと熱くなった。


「よし、使い方も分かったし……早速、“換金”を使ってみるか!」

『はい!』


 大切な相棒の懸念の種を取り除くため、俺は改めてステータス画面と向き合う。


「確か“換金”を押すんだったな」


 今は姿なき神様の指示を思い出し、俺は固有ギフトの欄に書かれている “換金”をそっと押してみる。その瞬間、ディスプレイに記載されていた内容がステータスから別のものへと変化した。


「換金、ショップ……?」


 眼前に表示されているディスプレイ画面の見出しらしき部分。そこをそのまま口にする。換金ショップなるものの隣には、俺のアイテムボックスの中身が書かれているリストも表示されていた。


「発動はできたみたいだけど……ここから、どうしたらいいんだ?」

『操作方法どころかマスターが収納したアイテム以外、何も書かれていませんね』

「あぁ。って、華にも見えているのか!?」

『はい、はっきりと見えています。今回は仲間外れではありませんよ!』


 ふんすっ! と鼻息荒い華の声には嬉しさが滲んでいた。多分、さっきのルメース様との会話に参加できなかったことが、寂しかったんだろうなぁ……相棒の素直で可愛らしい心は、俺の胸をキュンッと射貫く。しかし、ここでデレデレするわけにはいかない。華の前で、おっさんがにやけるという気持ち悪い顔を晒すわけにはいかないのだ!


 俺は口元と気持ちをキリリッと引き締めた。改めて目の前に出現した二つの画面と向き合っていると、換金ショップの方のディスプレイに文字が浮かび上がってきた。


≪いらっしゃいませ≫


「ぅお!?」

『マスター、大丈夫ですか!?』

「あ、あぁ、大丈夫。声に驚いただけだから」

『声?』

「華には声が聞こえないのか?」

『はい。画面に表示された文字は読めていますが、声は一切聞こえていません』


 映し出された文字を読み上げているのは、感情のない平坦な声。無機質なその声は、どうやら俺の耳にしか届いていないみたいだ。けれど、聞こえてくる内容は文字で表示されているので、華にもちゃんと情報は共有できているから安心した。


 華がまた疎外感を感じていたら、可哀そうだからな。俺がほっと胸を撫でおろしている間にも、換金ショップは淡々と文字を綴っていく。


≪換金をご希望の商品を選択して下さい≫


「商品?」


≪換金したいアイテム・魔獣・薬草・宝石・魔道具・武器などです≫


 俺が疑問を口にすると、端的にだが丁寧にな回答が返ってくる。ディスプレイ画面に浮かび上がる文字は全て換金ショップ側が読み上げてくれるので、最近視力が落ちてきたおっさんにとっては有難いことこの上ない。目と耳の両方で説明を受けられるという、優しい仕様に感動すら覚えてしまう。


「えっと、選択っていうのは俺のアイテムボックスリストからすればいいのか?」


≪はい。この換金ショップとお客様のアイテムボックスは繋がっております。なので、商品を選択していただければ、後はこちらで受け取らせていただきます≫


 ワイルドピッグの巨躯をアイテムボックスから取り出すのは骨が折れるからな。何より、俺の腰が耐えられるかどうかという危惧すべき点も回避できるのは嬉しいことだ。もしかしたら、この固有ギフトを考えた神様は俺のようなおっさんの強い味方なのかもしれない。


「じゃあ、試しに……ワイルドピックの換金をお願いしてみるか」


 俺の提案に、華がクラクションを軽く一回鳴らす。相棒から賛同に、俺の指は迷いなくワイルドピッグの項目に着地した。


≪換金ご希望の商品を全て選択し終えたら、換金ボタンを押してください≫


「ここだな」


 指示通り、ディスプレイ画面の下の方にある換金ボタンをクリックした。


≪ご希望を承りました。商品を受け取ります≫


 その声を合図にワイルドピッグという単語が、俺のアイテムボックスリストから換金ショップへと移動した。


≪魔獣を確認しました。解体しますので、少々お待ちください≫


 おぉ! 自動で解体までしてくれるとは、なんて素晴らしい能力なんだ!! 魔獣の解体なんておぞましいこと、絶っっ対にやりたくない俺にとって、この機能は重宝すべきものであり、今後もお世話になること間違いなしだ。


~♪~~~♪~~~♪


 解体を待っている間に流されているわこの電子音。電話の保留時を思わせる使い古された歪な音楽に、いつのなら少々不気味さ覚える。だが、魔獣のことを任せっきりにできている今の俺にとっては、優雅な気分を味わわせてくれる高級クラシックとほぼ相違なかった。


≪解体が完了しました。取得アイテムを表示します≫


 音楽が停止すると、目の前に新たに現れたのは半透明のウインド画面。そこにリストアップされているのは、ワイルドピッグの皮や骨や肉といった素材の数々だ。前の世界でプレイしていたハンティングゲームを思わせる画面をしげしげと眺める。


≪返却希望のアイテムがありましたら、対象アイテムを選択し、右下にある返却希望の欄に対象のアイテムを移動させて下さい≫


 その言葉に促され、画面の右下に視線を動かす。すると、そこには『返却希望』と表題が明記されている領域がひっそりと鎮座していた。サイズはテレビのワイプくらいのだろうか。


≪換金・返却希望の仕分けが終わりましたら、下記にある決定を押してください≫


「はいよ。あ、これって制限時間とかってあったりするのか?」


≪選択時間に制限はございません。しかし、こちらでアイテムや商品をお預かりできるのは二十四時間だけです。一秒でもすぎれば、お預かりしている品物はどんな物体でも完全消滅します。そして、どのような理由があっても復元などはできませんのでご注意ください≫


「了解。じゃあ、とりあえず見せてもらうな」


 事務的ではあるがとても丁寧に説明をしてくれる換金ショップ。相手が固有ギフトだということを忘れ、思わず砕けた物言いをしてしまった。換金ショップが不快な思いをしていないか不安になったが……どうやら大丈夫みたいだ。ディスプレイ画面からは怒っているような雰囲気は感じられない。寧ろ、返事も反応すらも無い。当然と言えば当然なことなのだが、ちょっと寂しい気もする。


 固有ギフトだから仕方がないか、とすぐに思考を切り替え、解体してくれた素材たちが載っているリストに意識を向けた。おっさんとは割り切りが速いのだ。


『返却希望を聞いてくれるなんて、とても親切ですね』

「そうだな。今後は防具を作る可能性だってあるわけだし、加工に必要な物は持っておかないとな」

『武器も必要ですよね!』

「えー……戦うのはちょっと」


 武器の所持に前のめりな華には悪いが、平和主義である俺はそんなもの持ちたくない。例え刃物を持つとしても、それは料理とか何か物造りの時にだけにしたいものだ。


『護身用には必要です!』

「まぁ、確かにそうだな……じゃあ、機会があれば一本だけ持っとくよ」

『絶対ですよ! マスターに何かあったら私、すごく悲しいです』

「分かってるよ。心配してくれて、ありがとうな」


 俺が笑いながらそう言うと、ヘッドライトがチカチカと二回光った。

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