第十三話 おっさん、事情を聞く②
「ミロン殿、単刀直入に聞く。貴殿らの親は何をしている?」
「ぇ……」
「貴殿らを冷遇しているのか? それとも貴殿らのご両親は、すでに他界しているのか?」
「!? おい、サイ――」
「どっちも違う!!」
俺の声を押し退けて、ミロンは荒々しく否定する。その小さな身体からは想像もできないほどの大きな声に、俺と隣にいたミレーネの肩が跳ねた。ミロンのオムライス弁当が地面に落ちないかと心配したが、どうやら無事のようだ。
張り詰めた空気の中で、サイプルだけは眉一つ動かさず、ただ静かにミロンを見据えていた。凪いだ深紅の瞳からは、感情が読み取れない。それでも、ミロンは一歩も引きはしなかった。
「僕たちのお母さんとお父さんは生きてるし、僕たちを冷遇なんてしてない! すごくすごく優しいんだ!!」
「ならば、何故、貴殿らのお腹を満たせるほどの食事を与えない? 我が子が飢えに苦しんでいるのに、何もしないなど……優しいとはいえない」
「何もしないんじゃない! 何もできないんだ!!」
悲鳴にも似た叫びが空気を揺らす。今にも泣きだしそうなミロンに、サイプルは首を傾げた。
「何もできない……? なら、その理由を自分に教えてほしい」
どこか高圧的なサイプルに、ミロンはついに口を噤んでしまった。
――嫌われたな、これは。
サイプルの言動はあまりに率直すぎる。それを好ましく思う人もいれば、不快だと感じる人もいるだろう。正に、諸刃の剣だ。
ましてや、今回の相手は子供。言葉の意味をそのまま受け取ってしまう素直な子にとって、サイプルの歯に衣着せぬ物言いは、悪手となってしまったに違いない。その証拠に、ミロンの心は固く閉ざされてしまっている。優しい両親のことを悪く言われたのだからなおさらだ。
仕方ない。ここは、俺が仲介に入ってやるか……
肩を竦めつつ、間を取り持とうと口を開く。しかし、俺が声を発するよりも先にサイプルが言葉を放った。
「理由を知らねば、対処ができないぞ?」
開いた口が塞がらないとは、このことだろう。ポカーンと間抜け面を晒す俺と同じように、ミロンも驚きのあまり目を見開いていた。
「なんとか、してくれるの……?」
「? 当然だ」
震える声で問いかけられた内容に、サイプルは不思議そうにしながらも力強く頷いた。
「病に臥せっている祖父母のため、自分にできることをしようとする。そんな心根が優しいミロン殿たちが困っているのならば、手助けをするのは当たり前のことではないのか?」
至極当然、とばかりにそう言い切るサイプルに、ミロンの瞳がもう一回り大きく見開かれた。サイプルは白い歯を見せると、自分を見上げてくる子供のふんわりとした茶色の頭を豪快に撫でる。
「心配することは無い。自分ならば大抵のことは対処することができるはずだ」
傲慢でも、自惚れでもない。ただ単純に真実を告げている様な口調。神様の子供であり、神見習いのサイプルだからこそ、そんな風に言えるのだ。
だが、そんなことなど知らないミロンは、戸惑いながらチラッと草原に横たわっている魔獣に目を向けた。つい先ほど、サイプルが一人でしかも一撃で討伐したワイルドピック。サイプルの言葉に説得力を増させる材料としては、十分すぎるものだ。
ミロンは視線を彷徨わせながら、口を開いたり閉じたりしている。喉奥につっかえているものを吐き出そうか悩んでいる少年に、俺は解放を促した。
「ミロン。ゆっくりでいいから、何があったか話してくれないか?」
「テラカさん……」
「サイプルだって、ミロンたちのことを心配してるんだよ。な?」
「当然です。自分も師匠と一緒で、ミロン殿やミレーネ殿の憂いを取り払いたいのです。そして、やるからには……」
サイプルの瞳がキラーンと鋭く光る。
「徹底的にです」
頼もしいことこの上ない少年に、俺は小さく息を吐いた。
だったら、もうちょっと言い方ってものがあるだろうに……そんな小言を心の中で呟いてはいるものの、俺の口元は緩まっているんだろうな。
『ミロン様。サイプル様はお二人の悲しみを原因から知ろうとしただけなんです。そこだけはどうかご理解してあげて下さい』
「お兄ちゃん……」
華とミレーネに背を押され、ミロンの喉が詰まらせているものの開放を望むように息を求めた。心の扉が徐々に開かれていき、小さな口は言葉を紡ごうとゆっくりと動き出していく。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価をもらえると、すごく励みになり執筆速度が加速します!
リアクションも押していただけると、とっても嬉しいです!




