第十三話 おっさん、事情を聞く①
先週はお休みして、すみません……
今日からまた投稿を再開していきます!
「ミロンたちは、どうしてこんなところに来たんだ?」
【ミレーネの繊細な乙女心を守り隊】を勝手に設立した俺は、二人に問いかける。とはいっても、その内容は当たり前のものだ。
子供だけでこんな魔獣のいる場所に来ようなんて、そんな無謀なことミロンのような子なら思わないだろう。ましてや、軽いとはいえ二人とも栄養不足。よっぽどの理由がない限り、体力が無いのに動こうとはしないはずだ。
もし事情があるのなら、何か俺にできることはないだろうか。あるなら全力で手助けしてやりたい。
そんな思いを込めて、軽い気持ちで聞いたつもりだったのに……俺の言葉によって二人の表情が、一気に曇ってしまった。
ミロンは食事の手が止まり、色付いていたミレーネの頬は一気に色褪せた。纏う空気の温度が急降下した子供たち。その理由が分らず、俺はサイプルに目を向けた。サイプルにも心当たりがないのか、何も言わずただ首を横に振るだけだ。
「……ホーンラビットの角が欲しいんだ」
不意に、ミロンがぽつりと言葉を零す。落とされた声は、ひどく重い。その重みに引きずられる様に、ミロンの顔が伏せってしまう。ミレーネのほうを見れば、彼女も兄と同じように大きな瞳に影を落としていた。
これは、何か深い理由があるな。
そう確信した俺は姿勢を正した。子供たちが背負う仄暗い空気を取り除くため、改めて問いかける。
「危険じゃないとはいえ、ホーンラビットが魔獣って知ってるよな?」
「うん」
「じゃあ、どうして大人と来なかったんだ? 二人だけで行くなんて、危ないって止められただろ?」
ミロンの肩が微かに揺れた。バツが悪そうな顔を浮かべるミロンに、俺はピンっと来た。
「もしかして、黙って来たのか?」
躊躇しながも、ミロンは小さく首を縦に振った。そして、チラッと俺の反応を窺ってくる。
どうやら、自分たちが危険なことをしたという自覚はあるようだ。大きな茶色の瞳が、俺の顔と自身の手元の間を忙しなく往復している。怒られるかもしれない、という不安にかられているミロンのフワフワの頭に俺は軽く手を置いた。
「まぁ、今回は無事だったからよかったけど……もうしたら駄目だぞ」
「ごめんなさい……」
「良い子だ」
俺はわしゃわしゃと、頭に置いていた手を左右に動かした。
「それで? どうして、ホーンラビットの角が欲しかったんだ?」
フワフワの髪を思う存分堪能したところで、俺は手を退け再び問いかける。少し頭がボザついたミロンは、俺から視線を逸らした。
「何か理由があるんだろ? もし困っているなら、力になるぞ」
その言葉に、ミロンの視線がゆっくりとだが俺に戻される。
大人の真剣さは、時に子供を萎縮させてしまう。だから、俺は声に明るさを意識的に織り交ぜた。その効果はてきめんだったようで、俺を見上げているミロンの顔にはもう、不安や戸惑いといった気配が感じられなかった。
仕上げとばかりに俺がニコッと微笑みかければ、ミロンの小さな口がおずおずと開かれていく。
「おじいちゃんとおばあちゃんが、病気なんだ……だから、薬の材料になるホーンラビットの角が欲しくて」
「それでこの草原まで来たのか?」
こくん、とミロンは頷いた。
そういえば、ホーンラビットの角は薬の材料として重宝されているんだったか……頭の片隅に収納していたサイプルから得た知識を引っ張り出す。
こんな子供が親に黙って危険な冒険に出ようと思うほど、二人の祖父母の容態は切羽詰まっているということなのか……?
そんな推測をたてていると「でも……」と、ミロンの言葉が続く。
「ここに来る途中で、クシ草を見つけて……それを採るのに夢中になっていたら、ワイルドピックに出くわしたんだ」
「クシ草? それも薬の材料なのか?」
「クシ草は薬の材料にはなりません。食用の野草ではありますが……下処理が必要なうえに、あまり美味しくはないですね」
「でも、お腹は膨れるよ」
サイプルの解説に付け足すように、ミロンはさらりとそう言い放った。その言葉に、俺は息をのんだ。
二人の細すぎる肉体を見れば、空腹状態が続いているというのは一目瞭然だ。そんな二人が腹を満たす行為を最優先にしてしまうことに、疑問も引っ掛かりを覚える理由もない。問題なのは、こんな小さな子が味覚より飢えを凌ぐことを優先させていることだ。子供の舌は、大人より繊細に味を捉えるというのに――
この子たちは、それほどまでに追い込まれているということか……
拳を固く握りしめている俺の隣で、サイプルが眉を顰めた。




