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第十二話 おっさん、ミロンとミレーネにご馳走する①

 それにしても、この子たち瘦せすぎじゃないか?


 改めてミロンたちを観察してみると、その姿はあまりにも弱弱しすぎるものだということに気が付いた。


 いくら子供といっても、古びた服からのぞいている腕や足は小枝のように細い。顔もよく見れば、頬が少しこけているようだった。これくらいの歳の子なら誰しもが持っているはずの元気というか、瑞々しい生命力というものが二人からはあまり感じない。


 大きな瞳が濁っていないだけマシなのかもしれないが……この細さは異常だ。もしかしたら、何か病気にかかっているとか?


 とりあえず、二人を鑑定してみよう。状態次第では食事以外に必要なものを用意してやるべきだしな。俺は鑑定眼を使った。



――鑑定



【 名 前 】 ミロン

【 年 齢 】 8

【 状 態 】 軽度の栄養不足

【 種 族 】 人間

【 職 業 】 なし

【 加 護 】 なし

【 スキル 】 なし

【 固有ギフト 】 なし

【 総合ステータスランク 】 E



【 名 前 】 ミレーネ

【 年 齢 】 5

【 状 態 】 軽度の栄養不足

【 種 族 】 人間

【 職 業 】 なし

【 加 護 】 なし

【 スキル 】 魔獣探知

【 固有ギフト 】 なし

【 総合ステータスランク 】 E



 栄養不足って……育ち盛りの子供がそんなことではダメだろ!? というか、そんな状態でこの子たちは魔獣から逃げていたのか……


 ワイルドピッグから必死に逃げていた二人を思い出すと、拳が自然と固くなっていく。


「絶対、腹いっぱいにさせる……」


 大人としての使命感にかられた俺の中で、闘志が静かに燃え上がった。


 とは言ったものの……子供の食事とは、どんなものが最適なのだろうか……


 ガリガリの二人が肉をつけれるようなものを食べさせてやりたいところだが、相手は子供。安直に肉の塊のような分厚いステーキを用意しても、その迫力に戸惑ってしまう可能性が高い。美味しさはもちろんだけど、楽しむことも重要だ。


 心と身体が同時に満たされる行為。それが食事だと、俺は思っている。


 しかし情けないことに独身の俺にとって、小さな子が喜びそうな献立を決めるということは中々の難題であった。二人の食欲を刺激し、なおかつ栄養がとれる食品……候補は何個か思い浮かぶが、どれもいまいちピンとこない。


『マスター、私に任せていただけますか?』


 うーん、と頭を悩ませる俺を見かねてなのか、華がメニュー決めを志願してくれた。


「別に構わないけど、何にするつもりだ?」

『フフ、それはお楽しみです』


 悪戯じみた言い方だが、華の声には自信が滲んでいた。俺に隠し事をするなんて……可愛い奴め。


 頼りになる相棒の言葉を信じ、俺は首を縦に振った。すると、華の体が淡く光る。早速、ミロンたちのために移動販売車の能力を使って商品を入荷しているようだ。


 突然光り出した華に、ミロンたちは驚いていて俺にしがみついてきた。不安そうにしている二人の頭を軽く撫でていると、光が淡くなっていく。


 光が完全に収まったのを合図に、荷台の扉が開いた。商品棚を確認してみると、子供用の使い捨てカトラリーがセットになっている小さな弁当が二つ。その横には、蜜柑の色の液体が入った大きめのペットボトルと小さなコップが二個あった。


 小ぶりな弁当の中身を見て、相棒のセンスのよさを実感する。


「さすが、華だな。ベストチョイスだ!」


 親指を立てる俺に、華が軽いクラクションで応えてくれた。


 ミロンとミレーネに座って待っているようにと言い、俺は弁当などを商品棚から取り出していく。


 柔らかな草原の上にお行儀よく腰を下ろしていた二人の表情は、どこか緊張気味だった。強張ったミロンたちの心をほぐせるように、俺はできるだけ優しく微笑みながら小さな手に弁当を渡す。


「どうぞ」

「これは……?」

「オムライス弁当だよ」


 華が選んでくれたのは、大人も子供も大好きなオムライスだ。好きな卵料理ランキングがあれば、必ず上位に食い込んでくるオムライス。二人に渡したのは、そのオムライスを中心にした弁当だった。子供用の弁当だから、オムライス自体のサイズは少し小さいが、一口サイズのハンバーグと小さくカットされた野菜も一緒に入っているので、栄養もボリュームもしっかりある。


 これなら、この子たちのお腹いっぱいにしてやれるに違いない。そう確信した俺は透明な弁当の蓋を取ってやった。ふわりと立ちのぼる優しい香りが、ミロンたちの喉をゴクリッと上下に動かす。


 子供らしい素直な反応が可愛らしくて、思わず笑ってしまう。俺は軽く笑いながら子供用のスプーンをミロンとミレーネに手渡す。


「熱いから気を付けて食べるんだぞ。それと、こっちは水な」

「ほ、本当にいいの……?」

「あぁ、いっぱい食べろ」

「う、うん……」


 ミロンはスプーンを受け取ると恐る恐るといった風に、オムライスを崩していく。


 楕円形の卵を割れば、ケチャップと同じ色の米が出てきた。オムライスの中身って、バターライスかケチャップライスかで分かれることがあるが、今回はケチャップのようだ。ちなみに、俺は昔ながらのケチャップライス派だ。ケチャップライスの中には細かく切られている肉と野菜が見える。恐らく、鶏肉と玉ねぎだろう。ド定番な具材なので、ミロンたちもきっと大丈夫だな。


 ミロンはスプーンにのっている卵とケチャップライスを、しばらく観察していた。見知らぬ食べ物に警戒しているのか、食べる決心が中々つかないようだ。けれど、隣で不安そうに自分を見ている妹の視線に気が付いた瞬間、パクリッ! と勢いよくオムライスを口へと放り込む。


 もぐもぐ……と頬が動いてから数秒後。大きな茶色の瞳が喜色に輝きだした。


「……美味しい!」

「本当……?」

「あぁ! ミレーネも食べてみろ!」


 兄であるミロンに促されて、ミレーネも恐々とオムライスを口に運ぶ。


 スプーンが口内に納まった瞬間、ミレーネの瞳がキラキラと輝いた。さすが兄妹、反応がよく似ている。


「!! 美味しい!」

「な? すっごく美味しいよな!!」

「うん!」


 二人は笑い合うと、そのままオムライス弁当を勢いよく頬張る。嬉しそうに弁当を食べる子供たちの姿は微笑ましくて、おっさんの頬の筋肉は緩んで仕方がない。


「こっちも、どうぞ」


 子供の小さな手でも持ちやすいタイプの取っ手付きのコップを、二人に渡す。中に注がれている液体に、ミロンは小首を傾げた。


「これは、何?」

「いい匂い」

「オレンジジュースっていう、飲み物だよ」


 今回、華が用意してくれた飲み物はオレンジジュースだった。柑橘系特有の爽やかさには、どこか懐かしさを感じる。鼻腔をくすぐる香りに誘われるように、ミロンたちはコップに口をつけた。


「! 酸っぱいのに甘い!」

「私、これ好き!」

「そうか。よかった、よかった」


 俺の世界での味だが、二人の口にあったようで安堵の息が漏れた。


 確か、オレンジジュースにはビタミンとか、そういった栄養素が含まれているはず。オムライス弁当では様々な栄養がとれていることは間違いない。その証拠に、二人の瞳には子供らしい生命力がほんの少しだけ戻っていた。


 弁当とジュースでお腹が満たされたことによって、二人の栄養状態はもちろんだが、それ以上に心が潤っているのなら、おっさんとしては嬉しい限りだ。

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