第九話 おっさん、自分のステータスを見る②
スキルは鑑定眼の他には、アイテムボックスのみ。鑑定眼は今、使っているから大丈夫として……問題はアイテムボックス。ド定番な能力とはいえ、使い方は未知なものだ。これも練習が必要なのかもしれないな。
「ん? このマークって……」
アイテムボックスの横にあるマークに着目する。このマークって、無限を意味するものだよな? ということは……
「俺のアイテムボックスって、もしかして容量が無限なのか?」
「その通りです」
予想が当たり、少しテンションが上がる。ふと、ずっと持っていたホーンラビットの角に目を向けた。
「じゃあ、このホーンラビットの角をアイテムボックスに仕舞っておけるんだよな?」
「もちろんです。アイテムボックスは生きたモノでなければ、なんでも収納できます」
「へぇ。で? どうやって使うんだ?」
そんな便利なスキル、使わない手はない。俺は簡単にサイプルから使い方の説明を受けた。一度スキルを使ってみたからか、鑑定眼よりも使い方のイメージがしやすい。説明を聞き終えた俺は早速スキルを発動させ、ホーンラビットの角をアイテムボックスの中に収納してみた。
「えっと、アイテムボックスの中身を確認したい時は……“リストオープン”」
サイプルに習った通りに呪文のようなものを口にする。すると、ステータス画面によく似たディスプレイが目の前に浮かび上がった。書かれている内容を確認してみる。
・ホーンラビットの角 × 1
ちゃんと、収納させていることに安堵の息を吐いた。いくら簡単なスキルだとしても、初めて使うときは緊張するものだ。アナログ人間のおっさんにとっては、こういうのは特に緊張する。
「アイテムボックスの中は、時間が止まっています。なので、アイテムや食材を入れても腐敗はしないので、ご安心ください」
「へぇ、便利なもんだな」
サイプルからの有益な情報に耳を傾けつつ、リスト画面を閉じ、再度ステータスを確認する。分からないことがあれば、今のうちに聞いておく方がいいだろう。
えーと、他に気になる項目は……お?
「換金ってなんだ?」
俺の目に留まったのはスキルではなく、固有ギフトだった。換金ってことは金に関係していることぐらいは想像できる。華が移動販売車としての能力を使うには、金が必要不可欠だ。快適な勇者探しの旅のためにも、財源の確保は必須。その要となりそうな俺の固有ギフト、換金について詳細を知る必要性は高い。
サイプルなら知っているだろうと、俺は軽く質問してみる。しかし、そんな甘い考えはすぐに打ち砕かれてしまった。
「自分には分かりません」
「え? サイプルでも分からないのか?」
純粋に驚く俺に、サイプルの眉が困ったように下がる。
「固有ギフトの能力については、与えた神にしか分かりません」
「へぇ。じゃあ“換金”て、どの神様からの能力なんだ?」
「それも自分には分かりかねます……自分も全ての神を知っているわけではないので」
『サイプル様でも把握できないほど、たくさんの神様にアルテルは守られているんですね』
アルテルの広大さを思わぬ形で知り、俺は心の中で華と同じように感心の声を漏らす。まぁ、別に変な話ではない。俺が暮らしていた日本でも八百万の神っていうくらい、多くの神々がいるって言われているしな。それに、この世界もたくさんの神様に愛されているってことになる。これからアルテルの住民になる俺にとっては朗報だ。
「それにしても、お前でも知らないことがあるんだな」
「勉強不足で申し訳ありません」
「別に謝らなくて、いいぞ」
『寧ろ、親近感がわきました』
華の発言に、うんうんと首を縦に振り賛同する。人間というものは、多少、隙というか抜けているところがあるほうが親しみやすい。サイプルの場合、人を基準にしていいものか悩むところだが、細かいことはこの際、気にしないようにしておこう。おっさんは時に大雑把なのだ。
「うーん……じゃあ、とりあえず使ってみるか」
「それが一番手っ取り早いですね」
能力の名前を見る限り、危険度は低そうだ。博識なサイプルも知らない能力とは、どんなものなのか……正直、楽しみでもある。何より、全能というチートなスキルを持つサイプルでさえ使えない俺だけの能力。期待も膨らむってものだ。
胸を高鳴らせている俺を、ホーンラビットが小首を傾げながら見上げてくる。その愛くるしい姿は、正に癒しそのものだ。目の前にいるホーンラビットを見ていると、魔獣って本当に怖いのか? と疑ってしまう。
サイプルが少し大げさに説明しているだけかもしれない。若しくは、人間を餌にする魔獣なんて、ごく一部にしか存在しないのかもしれない。あるいは、そういった危険生物たちはダンジョンでしか、お目にかかれないかもしれない。
様々な“かもしれない”を唱えた俺の中で、魔獣に対する恐怖心がさらに低下していく。
角が無くなったことで危険度がさらに低下した魔獣を愛でていると、ポツリと小さな声が鼓膜を揺らした。
「それにしても、鑑定眼にアイテムボックスが無限とは……父上も随分と思い切ったな」
風にさらわれてしまいそうなほど微かな言葉。その発言の真意を問おうとした、その瞬間……
――ブモオォォー!
おぞましい鳴き声が、その場の空気を一瞬にして塗り替えた。
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