第九話 おっさん、自分のステータスを見る①
満を持して明かされる、俺のステータス。
まぁ、おっさんだし? 期待なんて、そんなにはしてないけど……ハイスペックな二人と一緒に旅をするんだ。俺のステータスだってそれなりには……
ゴクッと喉を鳴らし、鑑定眼を発動させた。
――鑑定
【 名 前 】 寺日 陽太
【 年 齢 】 36
【 状 態 】 正常
【 種 族 】 人間
【 職 業 】 神見習いの保護者
【 加 護 】 創造神デミウルの加護(仮)
【 スキル 】 鑑定眼・アイテムボックス(∞)
【 固有ギフト 】 換金
【 総合ステータスランク 】 E
「ショボっ!?」
思わず飛び出た感想を否定する者は誰もいなかった。
総合ステータスランクがEって、ブービー賞じゃないか!! 加護はあるけど(仮)ってなんだよ!? スキルも華より少ないし、職業に至っては……もはや、なんて言ったらいいのか分からない。
異世界転移の醍醐味であるはずの、チートな能力や規格外なステータス。そういったものが欠片だって感じない自分のステータス画面に愕然としてしまう。
「非戦闘員すぎるだろ。いや、いいことなんだけど……」
基本的に争いごとを好まない俺としては、有難いステータスではある。しかし、正直言うと転移者特典的なものをちょこっは期待していた。今となっては、そんな自分が恥ずかしい。
はぁ……と、重々しい息と共に視線を下げる。すると、ホーンラビットと目が合った。
そういえば、ホーンラビットの脅威ランクってDだったよな。脅威ランクって、俺たちでいうところの総合ステータスランクってことになるのか。
「ん? ということは……」
こいうことだよな……?
SSS←サイプル
SS
S←←←華
A
B
C
D←←←ホーンラビット
E←←←俺
F
脳内で作り上げたランク表に愕然とする。
「俺の総合ステータスランク、ホーンラビットに劣るのか……」
膝から崩れそうになるのをなんとか耐えた。しかし、気付いてしまった情けない事実は重石となり、俺の肩をガックリと落とさせる。
『マ、マスターらしい平和的なステータスだと思います!』
「ありがとよ、華。でも、今はその優しさが辛い……」
『マスター……』
気遣ってくれる相棒には悪いが、今だけは放っておいてほしい。おっさんの心は意外に繊細なのだ。
「気にすることはありませんよ、師匠」
傷心する俺に、サイプルの明るい声がかかる。
「師匠はこの世界に来て間もないですし、鍛錬どころか何もしていない状態です。総合ステータスランクが低いのは当たり前なので、何も落ち込むことはありません」
「サイプル……」
『そうです! マスターも私と一緒に鍛錬をすれば、すぐにランクアップできますよ!』
「華……」
そうだ。中年街道ど真ん中を走る俺だけど、夢や希望を抱いてもいいんだ。鍛錬以外の方法で、ランクアップできる可能性が俺には秘められている!……と信じたい。というか、鍛錬だけは絶対に避けなければならない。おっさんにとって肉体的な努力というのは、過酷すぎるのだ。ましてや、年若いサイプルが提案してくる鍛錬方法なんて……想像するだけでも、恐ろしい。
持ち前の気合と根性で、鍛錬しなくても成長できるよう頑張っていこう!……しつこいようだが、改めて言っておく。俺は、鍛錬だけは絶対にしない、と!!
向けられた暖かな心に鼓舞され、しょぼくれモードから脱出できた俺は淡い希望の星を胸に抱き、二人を見据える。
「そうだよな……俺だってこの先、少しくらいランクアップしていけるよな!」
『その意気です! マスター!』
「師匠なら必ずランクアップできます! これからは自分と共に鍛錬に励みましょう!」
「あー……鍛錬はいつかやるよ。うん、いつかな」
「そのように消極的ではいけません!」
「ヒェッ!?」
言葉を濁し、この場を逃れようとするおっさんの肩を、少年が力強く掴んでくる。深紅の瞳に宿るのは、情熱の炎。向けられた熱に、俺の頬がヒクリッと悲鳴を上げた。
「師匠は年齢が年齢なので、鍛錬の成果が出るまでに時間を要する可能性が高い可能性があります。なので、早期のランクアップを目指すなら、鍛錬を少しでも早く始めるべきです」
「ああ、そうかい! ご忠告、どうもありがとよ!!」
「師匠に感謝されるとは……光栄です!」
「言葉をそのまま受け取ってんじゃねぇ!」
真面目な顔で分析結果をぶつけてくる若者の残酷さに、思わず声を荒げてしまう。きょとんとしているサイプルの表情から悪意は本当にないことは察せた。が、言っていいことと悪いことがある。サイプルにはそこらへんを今後学んでほしいものだ。
「はぁ……俺なんかが鍛錬してみろ。筋肉痛で数日は、まともに動けなくなるぞ」
「? 筋肉痛なんて、すぐに治るでしょう?」
「アホ言え。運動不足なおっさんの体をなめるなよ?」
言っている意味が分からない。とでも言いたそうなサイプル。若い彼はまだ経験したことが無いのだろう、肉体の衰えというものを……俺はわざとらしく長いため息を吐いた。
まぁ、いいさ。老いというのは、誰しもがいずれは通る道。さっきの言葉の意味を少年が理解できる日を、おっさんは楽しみに待っておくとしよう。
ニヤリと、唇で意地の悪い弧を描きながら、俺は改めて自分のステータス画面と向き合う。




