第八話 おっさん、相棒のステータスを知る①
魔獣セラピーによって俺の心が平穏を取り戻しだした頃。サイプルの腰がおもむろに地面から持ち上がる。
「さて、そろそろ本題に戻りましょうか」
「本題?」
放たれたサイプルの言葉に、俺は首を傾げる。まだ若干、現実逃避気味である俺の頭では彼の言う本題というのが何を指しているのか、いまいちピンとこないでいた。
ホーンラビットから手を離し、少年と同じように立ち上がりながら疑問符を頭上に浮かべる。そんな俺にサイプルは軽く笑うと、傍にあった銀色の車体に優しく手を置いた。
「華殿のステータスを確認しましょう」
「あ……」
そうだ、華のスキルとかを確認するために鑑定眼を使う練習をしていたんだった。本来の目的を思い出した俺は、両手で挟み込むように自分の頬を叩いた。
大切な相棒を鑑定するんだ。現実逃避なんかしている場合じゃない。
頬にじんわりと広がる痛みを、気合いへと変換していく。少しばかり強く叩いたせいで、じんじんと頬に淡い熱が宿ってしまった。何も恥ずかしがることはない。これは真剣さの表れなのだ。しかし、今後は力加減というものを覚えよう。
注入した気合いによって現実逃避から抜け出した俺は華のほうへ体を向けた。
「よし。じゃあ、鑑定するぞ」
『はい、お願いします……!』
どこか緊張したような固い声音。伝わってくる緊張に飲まれないよう、深く息を吸い込み意識を集中させる。心を落ち着いた頃、スキルを発動させた。
――鑑定
【 名 前 】 華
【 年 齢 】 鑑定不能
【 状 態 】 正常
【 種 族 】 魔道具
【 職 業 】 なし
【 加 護 】 なし
【 スキル 】 結界・念動力・テレパシー・自己回復
【 固有ギフト 】 移動販売車・絶対拒絶
【 総合ステータスランク 】 S
現れたステータス画面は、先ほど見たサイプルと同じようなものだった。
「ふむ。自分と同じステータス画面とは……これは珍しいですね」
「そうなのか? てか、お前も鑑定眼が使えるんだな」
「先ほど説明しましたが、自分のスキルは“全能”です。“鑑定眼”は数多くあるスキルの一つなので、自分でも使えます」
淡々と説明してくれながらも、深紅の瞳は華のステータス画面に釘付けだ。サイプルの言葉を聞き、頭の中に疑問が浮かんできた。
「華のステータス画面が珍しいって言ったけど、名前があるからサイプルと同じで当たり前じゃないのか?」
「通常であればそうなのですが、華殿は魔道具という無機物です。本来であればステータス画面は、自分たちと異なるはずなんです」
「へぇ。ステータス画面にも色々あるんだな」
俺が呑気に関心している間にも、サイプルは顎に手を添え何やら考え込んでいる。
「恐らくですが……華殿は魔道具ですが、他者と意思疎通できるほどの明確な自我があります。それがステータス画面に大きく影響している要因となっているのでしょう」
「それって、いいことなんだよな?」
「もちろんです。数はありませんが、意思を持つ魔道具はこの世界に存在します。その中でも華殿はとびきり優秀である、ということです」
その言葉に俺はとても誇らしくなった。自分の子供を褒められた親の気持ちが、今なら理解できる。
フフンッと、鼻高々にしている俺になどかまうことなく、サイプルは華のステータスをさらに詳しく確認していた。
「スキルもかなり貴重なものがありますね。これなら総合ステータスが高位なのも納得です」
「総合ステータスランクがSって、やっぱりすごいのか?」
「師匠は最初に見たのが、自分のステータスでしたからね」
そう言うサイプルの表情を見て、俺は察した。
そうだった。こいつは何もかもが規格外だったんだ。容姿も知識も、そして食欲も……全てにおいて、サイプルのステータスは最高レベルだったことを思い出す。
「総合ステータスランクがSというのは、とても高いランクです。自分のステータスは人間離れしているので、あまり基準にしないほうがいいと思います」
「そうするよ」
相変わらず謙遜の欠片も見せないサイプルの正直さに、俺は苦笑を浮かべながら抱いていた価値観を急いで書き換えることにした。よくよく考えてみれば、子供とは言え神様が人間と肩を並べて立っているという、この現状そのものが異様なことだと、自覚すべきかもしれない。
なんてことを考えていると、おずおずと遠慮がちな声が脳内に響いてきた。




