第六話 おっさん、鑑定眼を使う②
――鑑定
【 名 前 】 サイプル
【 年 齢 】 鑑定不能
【 状 態 】 正常
【 種 族 】 神
【 職 業 】 神見習い
【 加 護 】 なし
【 スキル 】 全能
【 固有ギフト 】 なし
【 総合ステータスランク 】 SSS
目の前に現れたのは、半透明なディスプレイ画面。そこに記載されている内容が、サイプルのステータスだとすぐに察した。
「おぉ……まさに、ファンタジー」
無事スキルが発動したことで、自分にも華と同じように特殊な異世界らしい能力が備わっていることを実感した。感嘆の声を漏らしつつ、俺はサイプルのステータス画面に表示されている内容を確認していく。
「総合ステータスランクSSSって、どうなんだ? すごいのか?」
「ランクはFからSSSまであります。つまり、自分は最高ランクですね」
疑問を口にすれば、サイプルがすぐさま解説してくれるのでとても有難い。
それにしても、事実とはいえ自分自身のことを最高ランクだ、とさらりと言い放つとは……どうやら彼は謙遜という言葉を知らない、馬鹿正直な若者のようだ。
というか顔の偏差値だけでなく、総合ステータスランクまでもが最上級って、羨ましすぎるだろ!
世の不条理を恨めしく思いながら、改めてサイプルのステータスに目を通していく。
「全能ってなんだ?」
「全能は全能力のことです」
「全能力?」
「全てのスキルが使えるってことです」
「そんなんありか!?」
「神ですので!」
それを言われてしまったら、ぐうの音も出ないのが悔しい。神といってもまだ見習いのくせに、少年のステータス画面はチートすぎる。何か欠点の一つでもないかと、俺は必死にあらを探す。
「そんなに凄いスキルがあるのに、加護や固有ギフトは“無し”なんだな」
やっと見つけた弱点らしきもの。だが、そこを指摘してもサイプルは動揺することなく淡々と言葉を紡ぐ。
「固有ギフトは別名“神の贈り物”といわれており、限られた者だけに与えられた特別な能力です。加護は各々の神が、気に入った者や目にかけた者を守護するためのサポート的なものです。自分は神見習いなので、そういったことは対象外なのでしょう」
なるほど。確かに全能ってスキルだけでも、十分にすごいもんな。これで他の神々のサポートまで介入してきたらサイプルの修行の邪魔にもなりかねない。
ふむふむ、と頷きながら、サイプルの解説をしっかり落とし込む。ふと、俺は周りを見渡した。
「鑑定眼って、人間以外にもできるのか?」
「もちろんです。このアルテルに存在する全てのものは、鑑定眼で鑑定することができます」
「へぇ、便利だな」
「せっかくなので、もう少し鑑定眼を試してみてはどうでしょうか?」
そう言ってサイプルは角のある兎たちの方に目を向けた。少年の言わんとしていることを理解し、俺はゴクリッと緊張を飲んだ。
大人しそうとはいえ相手は魔獣。怖くないと言えば嘘になる。でもサイプルの言う通り、経験を積むことは必要なことだし、より安全に華をするためにも、少しでもスキルに慣れておきたい気持ちもあった。
俺はサイプルのステータス画面を閉じ、深く息を吸うと、眼前の景色に意識を集中させた。
――鑑定
【 名 称 】 ホーンラビット
【 状 態 】 正常
【 脅威ランク 】 D
【 名 称 】 雑草
【 状 態 】 正常
【 稀少ランク 】 F
表示された二つの鑑定結果は、シンプルかつ肩透かしな内容だった。
「ホーンラビット……?」
「この世界では珍しくない魔獣です。基本的に大人しく、よほどでない限り人に危害を加えません」
そういう情報は事前に教えて欲しかった……!
とんだビビ損をさせられた俺の無言の訴えになど、サイプルは気が付きもしない。
相手にされない不満ほど虚しいものはない、とおっさんは悟った。
俺は一つ息を吐くと、気持ちを切り替えるため目の前の簡素なステータス画面を目でなぞっていく。
「へぇ、魔獣や植物の鑑定結果はシンプルなんだな」
「それは名前がないからです」
「名前?」
雑草はともかく、ホーンラビットは名前じゃないのか?
俺が小首を傾げていると、サイプルの講義がすぐさま始まった。
「ホーンラビットは名称、いわゆる種族名のようなものです」
「俺なら人間、サイプルなら神、みたいな感じか?」
「そうです。名称は全体を指し、名前はその者だけを指します。名前のない個体を鑑定すれば、種族としての鑑定結果が表れます」
なるほど。と、納得はしたが別の疑問が瞬時に浮上してきた。
「魔獣に名前って、つけられるものなのか?」
「可能です。魔獣と従魔の契約を結ぶ際には、主となる者が仕える魔獣に名を与えることが必須なので」
「魔獣と従魔の契約……それって、魔獣使いがいるってことか!?」
「えぇ、魔獣使いは存在します」
異世界ならではの職業に、俺の心は弾んだ。だが、その気持ちにはすぐに水を差されてしまう。
「しかし、その数は多くはありません」
何故? と純粋な疑問を抱きながら、サイプルの言葉の続きを待った。
「従魔の契約を結ぶには、主と魔獣の両者の合意が必要なんです。けれど、言語を理解できるほどの知恵がある魔獣は下位種ではほとんどいません。上位種であれば人と会話ができる者もいますが……」
言葉を置いた少年の顔つきが険しくなる。
「そういう連中は、自分自身が強者であると理解しています。なので、好き好んで弱者に仕えようとはしませんし、人と言葉を交わす必要性などないと思っているはずです。奴らにとって、人間など食料の一種にすぎないのですから」
本能のままに生き、血肉を喰らう存在……それが魔獣。
告げられた言葉の重みに、俺は固唾を飲んだ。ホーンラビットによって忘れかけていた恐怖がじんわりとよみがえってくる。
「上位種の中にも穏やかな奴はいるそうですが……そういう理性を持った魔獣と出会える機会は滅多にありませんしね」
「つまり、魔獣使いは相当な実力と運がないとできない職業ってことか?」
「端的に言えば、そうですね」
能力は鍛えればなんとかなりそうだが、運だけは才能に近いからな……魔獣使いは天に選ばれた者にしかできない職業だと理解した。
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