第六話 おっさん、鑑定眼を使う①
俺とサイプルが食べ終えた後のゴミを、華によって処理してもらっている時、ふと素朴な疑問が脳裏をよぎった。
「そういえば、“移動販売車”と“念動力”それと……”テレパシー”だったか? 色んなスキルを使ってるって言ってたけど、他にもスキルがあるのか?」
『恐らくあるとは思います。けど……正確には把握できておりません』
「え? そうなのか?」
『はい。先ほどまで使っていたスキルは、頭の中に浮かんできたものを使っていただけなので』
曖昧な返事しかできないことに華は申し訳なさそうだ。俺は軽く笑いながら、ボンネットを優しく撫でる。
あっさりとスキルを使いこなしている華ことだから、取得しているスキル全てを把握していると勝手に思っていた。思い込みとは恐ろしいものである。
というか……手探り状態で、あれだけのしっかりとスキルをしっかりと使いこなしている華って、やっぱり天才じゃないか!?
『マスター? どうかしましたか?』
「え? 何が?」
『お顔が、その……だらしないです』
「だら……!?」
新たに判明した相棒の優秀さに、どうやらニマニマしてしまっていたらしい。悪意ない指摘は、おっさんの繊細なハートにダメージを負わせた。
「スキルを知りたいならば、”鑑定眼”を使えばいいのでは?」
ここでサイプルが会話に入ってきた。
少年は最後の弁当を空っぽにすると、両手を合わせ「ごちそうさまでした!」と元気よく言い放つ。あれだけあった食料は米粒一つたりとも残されることなく、綺麗に完食されていた。
食後の礼儀を忘れなかったからなのか、大量の弁当を完食したからなのか……サイプルは若干、ドヤ顔だ。
褒めてほしそうな少年から受け取った空箱を華に処理してもらいながら、聞き覚えのある単語についての記憶を掘り起こす。
「そういえば、デミウル様も言っていたな。アルテルに着いたら、鑑定眼でステータスを確認しろって」
「今後の旅のためにも、それぞれのステータスは見ているほうがいいかもしれません」
ごもっともな意見だ。等身大の自分の実力とは、きちんと向き合っておくべき必要があると俺も思う。身の程を知らずに勢い任せて物事を進めては、ろくな事にならないと、おっさんはよく知っている。
あまり無理がきかない歳でもあるしな……
思わず腰をさすりながら、俺はサイプルの意見を採用することにした。
「鑑定眼って、どうやって使えばいいんだ?」
「相手の芯部分を見るような感じです」
さすがは神様の子供。能力の使い方をよく知っているようで助かる。
早速スキルを使ってみようと、華を見た瞬間、俺はハッ! とした。
このまま、華を鑑定してもいいのだろうか……?
謂わば、これが俺にとって人生初スキルだ。そんな不安要素しかないものを、大切な相棒に使うなんて危険なことなのではないのか、と思い至った。
大切な華に何かあっては大変だ。かと言って、自分が実験体になるのもなぁ……
チラッと、頑丈そうなサイプルに目を向けた。
「試しに、サイプルを鑑定してもいいか?」
鑑定眼とやらで、どこまでのことを知ってしまうのか分からない。サイプルくらいの年頃だったら、他人に知られたくない部分だってあるだろう。それに、俺はスキルそのものを使うのが初めてだ。万が一、ということもある。大人のマナーとして、相手から事前に了承を得るのは当然のことだ。
すると、サイプルのルビーの瞳が宝石のように輝きだした。
「師匠の初スキルを自分に使うのですか!?」
「え……嫌ならやめておくけど……」
「とんでもない!」
ブンブン、と千切れんばかりの勢いで、少年の首は横に振られる。
「師匠の初めてをもらえるなんて……光栄です!!」
「いや、言い方!」
誤解しか生まない発言に、思わずツッコんでしまう。
サイプルに他意はない。だからこそ、癖が悪いと思う。ここに人がいなくて本当によかった、と心の底から思った。
「是非、自分の全てを見て下さい!」
さぁ! と両手を広げ、興奮気味なサイプルに頬が引き攣る。俺はあまり深く考えずに、鑑定してみることにした。
意識をサイプルへと集中し、俺は心の中でスキルの名前を唱える。




