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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
始まりの心音

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第六話 守りたい人が、増えた【前編】


 校舎を出た瞬間、空気がひやりと冷えた。

 空は厚い雲に覆われて、どんよりと暗い。


 颯が声を潜める。


「なあ、“霊害”って何なんだよ?」


「そうですね……」


 奏さんは言葉を選ぶように、ゆっくり話し始めた。

 

「霊は長く現世に留まると、やがて霊害になります。

 ……放っておくと、人を殺すこともあります」


 母さんの事故が、頭をよぎった。

 

 一瞬、息が詰まる。


「小さな霊が集合する場合もあります」


「昨日のアレだろ」


「あ……」


「昨日、霊害に遭ったんですね。

 そして二人が共霊して……祓ったと」

 

 なぜだか気まずくて、僕は視線を逸らした。


「共霊も、霊との契約も。

 霧島家では、厳しく禁じられていることなんです」


「何でだよ?」


「霊と人間の境界が曖昧になると――

 自我が、侵食されます」


「侵食……?」


「いずれ颯くんが、柊くんを乗っ取ってしまうかもしれないということです」


「颯が……僕を……?」


 鼓動がひとつ、大きく跳ねた。


「あなた達の契約は、仕方がなかったのだと思います。

 けれど、共霊は今後避けるべきです」


「やめるも何も、勝手に起きたんだっつの。

 それによ……」


 颯は頭の後ろで手を組み、面倒くさそうに言った。


「俺は柊を乗っ取る気なんかねぇよ。

 そんなの……ありえねぇだろ」


 ……颯なりに、気遣っているのかもしれない。


「だいたい、このチビのひょろい身体なんかいらん」


「はい!?そんなに身長変わらないからね!?」


「あーん?」


 ――いや、やっぱり違うな?


「とにかく、次霊害に遭っても……戦わないで逃げて下さいね。

 怪しい場所に行かない限り、日常生活で霊害に遭遇することは滅多にありませんから」


 日常生活ではほぼ遭わない――

 それでも、胸のざわつきは消えなかった。


「怪しい場所ってどこだよ」

 

「いわゆる……心霊スポットと呼ばれる場所です」


「わざわざそんなとこ行かねーなぁ」

 

 ビュウッ。


 突風が吹き抜け、木の葉が舞った。

 僕が目を閉じた、その時。


「あれー!奏ーー!?」


 高い声が響いた。

 声がした方から、同じ制服を着た女子高生が三人。

 唱和高校――奏さんの前の学校の制服だ。


「奏の友達じゃね?」


 颯が親指で彼女たちをさす。

 女子高生たちが弾むように奏さんに駆け寄ってきた。


「なんで急に転校しちゃったの!?」


「てか、その子誰!?え!奏、彼氏できたの!?」


 一斉に向けられる好奇心いっぱいの視線。

 

 彼女たちには颯の姿は見えない。

 僕と奏さんが二人で帰ってるように見えたのだろう。


「か、彼氏ではありません!!」


 奏さんが慌てて両手を振る。


「おい柊。彼氏扱いされてんぞ。やったな」


「うるさいよ……!」


 自然と、耳が赤くなってしまった。


 “普通の女子高生”みたいな顔で、奏さんが友達と笑っていた。


「奏さんも普通に友達いるんだよね……。

 僕らのために転校なんて、なんか申し訳ないな……」


「転校、本当に嫌なら断ってるだろ。

 それに友達なら、会おうと思えばいつでも会える」


「……友達か」

 

 僕には、よく分からない感覚だった。


「ところで皆さん、どうしてこんなところに?」


「あ、そうだった!じゃじゃーん!」


 女子の一人がスマホの画面を掲げた。

 画面には近くの墓地がピンで示されている。


「出るって噂の心霊スポット!今日行こうってなって!」


「またそんな場所へ!?ダメですよ!」


 奏さんが止めるが、三人は気にしていない。


「頭いい学校のやつらが考えることってわかんねぇな……」


「勉強のストレスなのかな……」


 僕と颯は声を潜めて話した。


「せっかくここまで来たんだし〜。帰るとかなしなし!」

 

 奏さんが、観念したようにため息を吐く。

 

「私も行きます。……嫌な予感がしますから」


「奏も来てくれるの!?心強い〜!」


「あ、そうだ!彼氏くんもこれば!?」


「あ――」


 僕が言うより先に――


「絶対についてこないで下さい!!」


 と、ぴしゃり。


「うっ」


 ……ちょっと傷つく。


「振られたな、柊〜」


 頭上で颯が笑う。


「……別に振られてないし」


「ドンマイドンマイ!

 ま、奏もそう言ってんだから帰ろーぜ。

 ダチと楽しんでんのに、俺らがいたら悪ぃだろ」


「それは……そうだけど。

 でも、あの子たち、心霊スポットに行くんだよね……」


 怪しい場所には、霊害が出る。

 その言葉が、妙に引っかかった。


「奏がいれば大丈夫だろ。お前心配性すぎ」


 奏さんは友人たちと並び、墓地の方へと歩いて行く。

 その先の空を、黒い雲が覆っていた。


「……あのまま行かせて、大丈夫なのかな」


「奏が言ってた話、気にしてんのか?霊害がどーとか」


「うん……」

 

 僕の不安そうな顔を見て、颯が舌打ちをする。


「なら、ついてけばいいだろ。

 どーせお前このまま帰っても、うだうだうるさそうだし」


 ……やっぱり、颯は優しい。


 僕たちは距離を保ちながら、こっそり奏さんの後ろをついていくことにした。


 ――もう、

 何かを失くして後悔することだけは、嫌だったから。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:1月8日21時

第六話 守りたい人が、増えた【後編】

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