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二つの心音――弟が守護霊になり、霊と戦うことになった  作者: しょう
始まりの心音

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第六話 守りたい人が、増えた【前編】


 校舎を出た瞬間、空気がひやりと冷えた。

 空は厚い雲に覆われて、どんよりと暗い。


 僕と奏さんの頭上で浮いていた颯が、声を潜めて言った。


「……なあ、“霊害”って何なんだよ?」


「そうですね……」


 奏さんは言葉を選ぶように、ゆっくり話し始めた。

 

「霊は長く現世に留まると、やがて霊害になります。

 ……放っておくと、人を殺すこともあります」


 母さんの事故が、頭をよぎった。

 心臓が、ぎゅっと掴まれる。

 一瞬、息が上手くできなかった。


「小さな霊が集合する場合もあります」


「昨日のアレだろ」


「あ……」


 昨日の黒い影を思い出す。


「昨日、霊害に遭ったんですね。そして二人が共霊して……祓ったと」


 奏さんがまっすぐ僕の方を見た。

 責められているわけではないのに、なぜだか気まずくて、視線を逸らしてしまう。


「共霊も、霊と契約も。霧島家では、厳しく禁じられていることなんですよ」


「何で禁止なんだよ」


 颯が奏さんの顔を覗き込む。


「霊と人間の境界が曖昧になると――自我が侵食されます」


「侵食……?」


 奏さんは淡々と続けた。


「いずれ颯くんが、柊くんを乗っ取ってしまうかもしれないということです」


「颯が……僕を……?」


 鼓動がひとつ、大きく跳ねた。


「あなた達の契約は、仕方がなかったのだと思います。けれど、共霊は今後避けるべきです」


 奏さんの言葉は真剣だった。

 僕らを心配してくれているのが分かる。


 だが。


「やめるも何も、勝手に起きたんだっつの。それによ……」


 颯は、頭の後ろで手を組み、どこか面倒くさそうに言った。


「俺は柊を乗っ取る気なんかねぇよ。そんなの……ありえねぇだろ」


 その軽口が、逆に心に響いた。

 颯なりに僕を気遣ってくれているのかもしれない。


「だいたい、このチビのひょろい身体なんかいらん」


「はい!?そんなに身長変わらないからね!?」


「あーん?」


 颯が僕にガンを飛ばす。


 ――いや、やっぱり気遣ってないのかもしれないな?


「とにかく、次霊害に遭っても――戦わないで逃げて下さいね。

 怪しい場所に行かない限り、日常生活で霊害に遭遇することは滅多にありませんから」


 日常生活ではほぼ遭わない――その言葉に、僕は胸を撫で下ろした。


「怪しい場所ってどこだよ」

 

「いわゆる……心霊スポットと呼ばれる場所です」


「わざわざそんなとこ行かねーなぁ……」

 

 ビュウッと突風が吹き抜け、木の葉が舞った。

 その勢いに僕が目を閉じた、その時。


「あれー!奏ーー!?」


 高い声が響いた。

 声のする方を向けば、同じ制服を着た女子高生が三人。唱和高校――奏さんの前の学校の制服だ。


「奏の前の学校のやつらじゃね?」


 颯が親指で彼女たちをさす。

 女子高生たちが弾むように奏さんに駆け寄ってきた。


「なんで急に転校しちゃったの!?」


「てか、その子誰!?え!奏、彼氏できたの!?」


 一斉に向けられる好奇心いっぱいの視線。

 もちろん彼女たちには颯の姿は見えていない。僕と奏さんが“二人で帰ってる”ように見えたのだろう。


「か、彼氏ではありせん!!」


 奏さんが慌てて両手を振る。その耳は、ほんのり赤かった。


「おい柊。彼氏扱いされてんぞ。やったな」


「うるさいよ……!」


 僕の頭上で腕を組んで、にやつく颯。

 僕の顔も、自然と熱くなってしまった。


 僕らには見せなかった“普通の女子高生”の顔で、奏さんが友達とやりとりをしている。

 前の学校では、あんな感じだったんだろうか。


「奏さんも普通に友達いるんだよね……。僕らのために転校なんて、なんか申し訳ないな……」


 思わず呟くと、颯がすぐに返答した。


「転校、本当に嫌なら断ってるだろ。それに友達なら、会おうと思えばいつでも会える」


「……友達か」


 そういうものなのだろうか。

 僕にはよく分からない感覚だった。


「ところで皆さん、どうしてこんなところに?」


「あ、そうだった!じゃじゃーん!」


 女子の一人がスマホの画面を掲げた。画面には近くの墓地がピンで示されている。


「出るって噂の心霊スポット!今日行こうってなって!」


「またそんな場所へ!?ダメですよ!」


 奏さんが青い顔をして止めるが、三人は気にしていない。


「頭いい学校のやつらが考えることってわかんねぇな……」


「勉強のストレスなのかな……」


 僕と颯は後ろで小声で話す。


「せっかくここまで来たんだし〜。帰るとかなしなし!」

 

 奏さんのがため気をひとつ溢した。

 

「私も行きます。……嫌な予感がしますから」


「奏も来てくれるの!?心強い〜!」


「あ、そうだ!彼氏くんもこれば!?」


「あ――」


 僕が言うより先に奏さんが――


「絶対についてこないで下さい!!」


 と、ぴしゃり。


「うっ」


 僕たちのことを、心配して言ってくれているのは分かる。けれど、ここまで全力で拒否されると、少し落ち込む……。


「振られたな、柊〜」


 頭上で颯が楽しそうにケラケラ笑う。


「……別に振られてないし」


「ドンマイドンマイ!」


 颯は笑いながら続けた。


「ま、奏もそう言ってんだから帰ろーぜ。せっかくダチと楽しんでんのに、俺らがいたら悪ぃだろ」


「それは……そうだけど。でも、あの子たち、心霊スポットに行くんだよね……」


 ついさっき奏さんが言っていた。“怪しい場所は霊害が出る可能性がある”と。

 その言葉が引っかかって、胸がざわつく。


「奏がいれば大丈夫だろ。お前心配性すぎ」


 奏さんは友人たちと並んで話しながら、墓地の方向へと歩いて行く。

 その先の空を、黒い雲が覆っていた。


「……」


 颯は黙って、遠くなる奏さんたちの背中を見ていた。


「……本当に、僕たち帰っても良いのかな」


「奏が言ってた話、気にしてんのか?霊害がどーとか」


「うん……」

 

 僕の不安そうな顔を見て、颯が舌打ちをする。


「なら後ろついてけばいいだろ。どーせお前このまま帰っても、うだうだうるさそうだし」


「颯……」


 言い方は乱暴だけど、ちゃんと僕のことを分かってくれている。やっぱり、颯は優しい。


 僕たちは距離を保ちながら、こっそり奏さんの後をついていくことにした。


 ――もう、

 何かを失くして後悔することだけは、嫌だったから。



読んでくださってありがとうございます。


※次回更新:1月8日21時

第六話 守りたい人が、増えた【後編】

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