第四話 祓い師の転校生【後編】
「は!?悪霊……って、俺かよ!!」
颯が自分を指さして声を上げる。
「やはり悪霊ですね、口が悪い……」
「元からな!性格だよ!!」
「た、確かに颯は口が悪いし、態度も目つきも悪いけど……悪い霊では……」
「フォローしろよお前!」
「なるほど……祓います」
霧島さんがブレザーの下から、お札を取り出した。
お札がぼうっと青白い光を纏う。
「成仏しなさい!!」
霧島さんが颯を目掛けてお札を投げた。
「ま、待ってください!」
「ふざけんなてめぇ!!」
ヒュッ!!
放たれたお札は──
颯をすり抜けて、体育館の壁に張り付いた。
ジュゥゥゥ……
音を立てて、お札が燃えながら消失する。
「おい燃えてんぞ!?危ねぇもん投げんな!!」
「………すり抜けた!?有り得ない!もう一回!」
霧島さんは目を見開き、すぐに次のお札を構える。
僕は颯を庇うように立ちはだかった。
「は、颯は僕の弟なんです!祓わないで下さい!」
「……弟……?」
霧島さんの手元のお札から、すっと青白い光が消えた。
「そうなんです!交通事故に遭って、今は病院にいます!」
「ちょ、ちょっと待ってください!まだ死んでないってことですか!?」
「おうよ。俺、生きてっから」
「そんな馬鹿な…!」
霧島さんの顔が青ざめる。
この状況、一体どうしたら良いのだろうか。
僕は何と言ったら良いのか分からずにいた。
その時。
「はーい!ストップストップ!」
パンパンッと仕切るように手を叩き、僕らの間に割って入ってきたのは――
斎賀先生だった。
「さ、斎賀先生?何でここに……?」
何故、こんなタイミングで?
僕の頭の中はもうパンク寸前だった。
「奏さん、ごめんなさい。先に説明しておけば良かったですね」
斎賀先生は穏やかに微笑みながら、話を始める。
「彼は、白瀬柊くんの弟の霊、白瀬颯くんです。先ほど柊くんが言っていたように、本体は病院にいます。
いわゆる……半霊状態ってやつですかねぇ。人柄はまあ置いておいて、悪霊じゃありません」
「さりげなく人格否定すんなよ!」
「先生、颯のこと、見えてるんですか……?」
「本体が生きてるとか、半霊状態だとか、そんなこと今まで聞いたことありませんよ!」
先生は両手を軽く上げ、“まあまあ”と言わんばかりに僕たちを制止する。
「質問、後でまとめて聞きます。
まず――奏さんは僕がこの学校に呼んだんです。君たちの力になってもらうためです」
「はあ??」
颯が眉間に皺を寄せる。
謎がまた増えた。ただ一つ分かることは、斎賀先生がただの教師ではないと言うことだ。
「奏さんはね、霧島家という、有名な祓い師一族の生まれなんですよ。
祓い師は、霊を祓ったり成仏させたりする専門職みたいなものです」
奏が丁寧に頭を下げる。
祓い師。そんな職業がこの世にあったなんて。
少しだけ、胸が軽くなった。
だけど、同時にある仮説が思い浮かんだ。
「ま、まさか、颯のことを成仏させるつもりなんじゃ……!?」
「はぁ!?成仏!?俺まだ死んでねぇのに!?」
「違います違います!颯くんは本体は生きてますし、むしろ成仏されたら困るんですよ!」
斎賀先生が、両手をブンブン振って否定した。
「僕は、颯くんが元に戻る方法を探す手助けができたらと思っています」
「どうして先生が……そこまで?」
「つか、何で俺らの情報ダダ漏れなんだよ」
斎賀先生は一瞬、寂しそうな表情を見せた。
「――君たちのお母さん、白瀬綾さんは……僕の恩師なんです。とても、お世話になった人です」
恩師……そうだ、母さんの生前の職業は、高校教師だった。斎賀先生は母さんの生徒だったのか。
「綾さんの忘れ形見である君たちのことを……守りたいと思うのは当然でしょう?
だから、入学した時から君たちの様子をずっと――」
「きも!!」
「へぶぅっ!!」
颯の即レスに斎賀先生がダメージを受けたようだ。
「颯、先生に失礼だよ……。
確かに、入学した時からこっそり見られてたと思うと、ちょっと……気持ち悪いかもしれないけど、先生は僕らのために――」
「白瀬くん、それはフォローになっていないのでは……」
霧島さんが困った顔をして突っ込む。
斎賀先生のメガネに、ミシッとヒビが入った……ような気がした。
「んで、俺が戻るための方法って、何か案はあるのかよ?」
「そ、そうですね……」
斎賀先生がメガネをクイっと持ち上げた。
「君たちの今の状態について、思い当たることはあるんです。ただ、少し長くなるので……本格的に説明するのは、放課後にしましょう。
化学準備室に来てください。奏さんも。
そして――君たちに協力してくれる人を、あと一人……いや、二人呼んであります」
「他にも……僕たちに協力してくれる人が?」
二人だけでどうにかしなくてはいけないと思っていた。
でも、違ったんだ。
この先を、一人で進まなくても良いと思えた。
「まあ……あとの二人は、かなりの変わり者ですけどね……」
斎賀先生が小さく呟いた言葉を、僕は聞き逃さなかった。
読んでくださってありがとうございます。
次回更新:1月7日21時
第五話 決めるのは、僕




