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二つの心音――弟が守護霊になり、霊と戦うことになった  作者: しょう
始まりの心音

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第四話 祓い師の転校生【前編】

昨夜の続きです。

物語を動かす新キャラが登場します。


「おはよー!昨日のさぁ、TikTok見た!?」


「見た見たー!光流まじバカだよね!」


 朝の教室。クラスメイトたちの声が飛び交う。

 僕はいつも通り、誰とも話さず、本を読んでホームルームまでの時間を潰していた。


「……お前、ほんと陰キャだよな」


「…………」


 僕の頭上で颯が呟いた言葉を、あえてスルーした。


「おい!てめぇ無視すんな!」


「しーっ!静かに!

 颯の声は僕にしか聞こえないんだから!僕が独りで喋ってるみたいになるでしょ!」


 口元を本で隠しながらヒソヒソ声で返す。


「つかよ、朝起きたら普通に戻ってたな」


 そう、僕と颯はあの後、元に戻れた。

 正確には――朝、目を覚ましたら、颯はもう僕の中にいなかった。理由は、まだわからない。

 

「颯が……消えてなくてよかったよ」


 ぽつりと本音を呟く。


「あ?なんか言ったか?」


「何でもない。父さんに心配かけちゃったなって……」


 昨日、帰ってから僕らは部屋にずっと籠っていた。

 父さんはきっと、颯のことで僕が落ち込んでいると思ったのだろう。朝、『無理するなよ』とだけ、スマホにメッセージが届いていた。父さんには悪いことをしてしまった。


「親父に話せば良かったじゃん」


「信じてくれると思う?それに、父さん絶対心配する。巻き込みたくないんだ……」

 

「まあ確かに、俺がお前の中入ると見た目もちょい変わるしな。親父もお前がグレたかと思うわな」


 昨日、部屋の鏡で見た僕の姿は、半分だけ颯みたいだった。琥珀色の片目、黒髪に混じる銀髪。


「僕が気にしてるのはそこじゃないんだけど……」


 深刻に話す僕とは打って変わって、颯はケラケラと笑っていた。でも、この状況を笑ってくれる颯に、僕は救われてもいたんだ。

 

「おーいホームルーム始めるぞー!」


 担任が教室に入ってきた。みんながぞろぞろと席につき始める。


「このクラスに転校生が来てまーす。入ってー」


 担任の言葉に、クラスがざわつく。

 すっ、と中に入ってきたのは、黒髪の少女だった。


「初めまして。霧島きりしま かなでです。唱和高校から来ました。みなさん、これからよろしくお願いします」


 肩のラインで切り揃えられた髪、きちんと着こなされた制服、丁寧な所作。


 “真面目そうな人だな”。

 それが、霧島奏さんの第一印象だった。


「唱和って、頭めちゃ良いとこじゃね?」


 颯が僕に耳打ちする。

 

「うん。超進学校だよ……」


 僕の学校とは偏差値が十以上違う。


「じゃあ、霧島さんは、あそこの空いてるとこ座ろうか。白瀬ー!お前隣だから色々教えてやってな!」


「は、はい!」


「おー、良かったじゃん、割と可愛いぞ」


「しーっ!」


 茶化す颯を僕はジロリと睨んだ。そんな僕の反応を見て、颯は一層楽しそうにしている。

 

 隣の席か……緊張するな。


「白瀬くん、よろしくお願いしますね」


 席に着いた霧島さんが、僕の方を見て微笑んだ。

 ふわっと漂ったシャンプーの香りに、思わずドキッとしてしまう。

 

「う、うん!」


「……あの、以前どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?」


 一瞬、霧島さんの視線が、僕の目元をなぞるように動いた。


「え?な、ないと思うけど」


「……気のせいですね。すみません」


 霧島さんはそう言って軽く頭を下げる。


「いえいえ!」


 彼女はゆっくり頭を上げ、そして、


「…………」


 視線が、僕の頭上に向っていた。

 まるで、そこに"何かいる"と確信している目だった。


「あの……?どうかした?」


「いえ。何でもありません」


 そう言って霧島さんは、すぐに視線を戻し、机の中に教科書を片付け始める。


 今の、何だったんだろうか。


「……おい、柊。俺、あいつと目合った気すんだけど」


「ええ?まさか……気のせいでしょ……」


 もしかして、彼女も僕と同じ"見える側"だったりするのだろうか。

 けれども、今までそんな人、出会ったことがない。

 でも、もし、本当にそうだとしたら――?

 

 僕の心臓はドキドキと脈打っていた。




 そして何事もないまま、昼休みになった。


「あーー授業疲れたなーー」

 

 颯が空中で胡座をかいたまま、背伸びする。


「颯、ずっと寝てただけじゃん……」


 授業、颯は僕の頭上に寝転がって寝ていた。

 

 その時。


「白瀬君、少し、お話が」


 霧島さんに声をかけられた。

 

「え?ぼ、僕ですか?」


「はい、ここでは少し……人の目が。場所を変えても良いでしょうか」


「おい、柊!これ告られるやつじゃね!?」


 颯がウキウキした声で茶化す。

 僕が颯を無言で睨むと、


「……違います。そういう話ではありません」


 なんと、霧島さんが答えた。


「えっ!?」


 やっぱり颯の声が聞こえてるのだろうか。

 体温が上がる。手が汗ばんできていた。


「こちらへ」


 僕たちは顔を見合わせた。

 ――彼女の後をついて、体育館裏へ向かう。体育館からバスケをする男子生徒の声とドリブル音が聞こえてくる。


「あ、その……話って、何でしょうか……?」


 震える声で尋ねた。

 

 霧島さんは一歩踏み込み、まっすぐ僕を見る。

 その瞳には、迷いがなかった。


「単刀直入に言います。あなたに悪霊が憑いています」


 そう言って霧島さんが、指をさした先は、

 僕の頭のすぐ横――誰もいないはずの空間だった。


 ……はずなのに。

 


※次回更新:1月6日21時

第四話 祓い師の転校生【後編】

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