第三話 守るって、決めてた【後編】
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Side:柊
バアァァァン!!
僕は黒い影を吹き飛ばし、闇から飛び出した。
息を深く吸い、ゆっくりと目を開ける。
颯の姿が、ない。
でも、君の存在を感じる。
「……颯が、僕の中にいる」
『多分な!わかんねぇけど!!』
脳内に響く颯の声。
『アイツ倒すぞ!柊!』
「……うん!」
黒い影の手が、再び僕らへ襲いかかる。
『柊、避けろ!』
颯の声が頭の中に響いた。
「うん……!!」
敵の動きがよく見える。身体が軽い。
頭でイメージした通りに動く。
まるで――颯と一緒に戦っているみたいだ。
迫りくる手へ拳を叩きつけた。
バァンッ!!
黒い影が大きく弾け飛ぶ。
「当たった!!」
「……あ……ああ……」
影に張り付く人の顔が、苦しそうに声を上げた。僕らの攻撃が効いている。
「ずるい……お前たちばかり……生き残って……」
『おい、何か言ってるぞ!』
「僕、アイツらに取り込まれた時に分かったんだ。
アイツらは……交通事故で亡くなった人たちなんだ」
助からなかった人たちのことを思うと、また胸が痛くなった。
『……そりゃ気の毒だけどよぉ!だからって生きてるやつまで巻き込むのはちげぇだろ!』
「うん……。だから、僕たちで、還そう。もう苦しまなくて良い場所へ」
四方から伸びる影の手をひらりとかわしながら、赤い車――黒い塊の中心へ向かって走った。
「恨みながらここにいるのは、苦しいよね」
『誰かを恨んだって、幸せにはなれねぇよ』
「――だから」
拳に強く力を込め、振り上げた。
「安らかに、眠ってください!!」
ドガァァァン!!
拳が中心を撃ち抜く。
その瞬間、黒い影と赤い車が、
光の粒となって煌めきながら空を舞った。
「……ありがとう……」
気のせいだろうか。
そんな言葉が聞こえた気がした。
真っ暗だった空は、いつの間にか美しい夕焼けに戻っていた。夕陽の中に、光の粒が涙のように散って消えていく。
「ご冥福を……お祈りします」
僕と颯は、そっと手を合わせた。
『何とか、なったみてぇだな』
「……うん。颯のおかげだよ、ありがとう」
夕暮れの空は美しく、さっきの出来事が嘘だったみたいに、穏やかだった。
僕はまた――颯に助けられた。
『ちげぇよ。さっきのは……お前の力だろ。』
「え?」
『俺は、アイツに触ることすらできなかったからな。
……んで?』
一呼吸おいて、颯が尋ねる。
『どうやって戻んだ、コレ』
「え?わ、わかんない……」
『おい、待て。まさか俺、一生お前の中!?』
「え、ど、どうしよ!?」
『っつか、何で自分の身体には入れねぇのに、お前の身体には入れるんだよ!!意味わかんねぇ!!』
「ちょ、颯、落ち着いてっ……。頭に響く!響くから!!」
『うっせぇボケ!!!』
僕は頭を抱えた。
これから先、どうなるんだろう。
僕と颯は、本当に一生このままなのだろうか……。
その時、僕らの頭上を、蒼と緋の二匹の蝶がひらひらと通り過ぎた。その蝶は、薄く光を散らしながら茜色の空へと消えていく――。
***
郊外にある、静かな平屋の屋敷。
手入れの行き届いた美しい庭を通り抜け、二匹の蝶は家屋の中へと入っていく。
和室で花を生ける、一人の青年。
白銀の髪。襟足が長く、さらりと肩にかかる。白く、陶器のように滑らかな肌。伏せた睫毛が頬に影を落とす。
濃紺の着物を纏い、水盤に花を生ける彼は、“かっこいい”よりも、“美しい”という言葉がよく似合った。
その足元で、蝶が淡い光を弾けさせ、人間の形に姿を変える。しかし、その姿は半透明で、生気は感じられない。
桃色のフリル着物の少女。
水色の着物の少年。
――背丈も顔立ちもよく似ている。双子なのだろう。
年齢は十三歳前後といったところか。
二人は同時に深く頭を垂れた。
蒼髪の少年が恭しく口を開く。
「篝様、白瀬柊とその弟、白瀬颯の共霊を確認しました」
緋色の髪を揺らし、少女が続いた。
「中級レベルと思われる霊害を、白瀬兄弟が祓ってしまいましたわ♡」
篝と呼ばれる青年は、ふっと微笑んだ。
「ふふ……そう。宵、灯。報告ありがとう。あの人にも、伝えておかないとね」
篝は、ゆっくりと視線を二人に向け、柔和な笑みを浮かべながら述べる。
「引き続き、白瀬兄弟を見守ってあげて」
「はっ」
「お任せくださいませ♡」
二人は礼儀正しく頭を下げ、再び蝶の姿へ戻った。
夕暮れの風に、水盤の花が揺れる。
「……夜が、動き始めるね」
篝がひとり呟いた。
――この青年が一体何を思っていたのか、柊たちがそれを知るのは随分と先のことだ。
***
※次回更新:1月6日7時
第四話 祓い師の転校生【前編】




