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二つの心音――弟が守護霊になり、霊と戦うことになった  作者: しょう
始まりの心音

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第三話 守るって、決めてた【後編】


 ***


 Side:柊

 

 バアァァァン!!


 僕は黒い影を吹き飛ばし、闇から飛び出した。

 息を深く吸い、ゆっくりと目を開ける。

 

 颯の姿が、ない。

 でも、君の存在を感じる。


「……颯が、僕の中にいる」

 

『多分な!わかんねぇけど!!』


 脳内に響く颯の声。


『アイツ倒すぞ!柊!』

 

「……うん!」


 黒い影の手が、再び僕らへ襲いかかる。


『柊、避けろ!』


 颯の声が頭の中に響いた。

 

「うん……!!」


 敵の動きがよく見える。身体が軽い。

 頭でイメージした通りに動く。

 まるで――颯と一緒に戦っているみたいだ。


 迫りくる手へ拳を叩きつけた。


 バァンッ!!


 黒い影が大きく弾け飛ぶ。


「当たった!!」


「……あ……ああ……」


 影に張り付く人の顔が、苦しそうに声を上げた。僕らの攻撃が効いている。


「ずるい……お前たちばかり……生き残って……」


『おい、何か言ってるぞ!』


「僕、アイツらに取り込まれた時に分かったんだ。

 アイツらは……交通事故で亡くなった人たちなんだ」


 助からなかった人たちのことを思うと、また胸が痛くなった。


『……そりゃ気の毒だけどよぉ!だからって生きてるやつまで巻き込むのはちげぇだろ!』


「うん……。だから、僕たちで、還そう。もう苦しまなくて良い場所へ」


 四方から伸びる影の手をひらりとかわしながら、赤い車――黒い塊の中心へ向かって走った。


「恨みながらここにいるのは、苦しいよね」

 

『誰かを恨んだって、幸せにはなれねぇよ』


「――だから」


 拳に強く力を込め、振り上げた。


「安らかに、眠ってください!!」


 ドガァァァン!!


 拳が中心を撃ち抜く。

 その瞬間、黒い影と赤い車が、

 光の粒となって煌めきながら空を舞った。


「……ありがとう……」


 気のせいだろうか。

 そんな言葉が聞こえた気がした。


 真っ暗だった空は、いつの間にか美しい夕焼けに戻っていた。夕陽の中に、光の粒が涙のように散って消えていく。


「ご冥福を……お祈りします」


 僕と颯は、そっと手を合わせた。


『何とか、なったみてぇだな』


「……うん。颯のおかげだよ、ありがとう」


 夕暮れの空は美しく、さっきの出来事が嘘だったみたいに、穏やかだった。


 僕はまた――颯に助けられた。


『ちげぇよ。さっきのは……お前の力だろ。』


「え?」


『俺は、アイツに触ることすらできなかったからな。

 ……んで?』


 一呼吸おいて、颯が尋ねる。


『どうやって戻んだ、コレ』


「え?わ、わかんない……」


『おい、待て。まさか俺、一生お前の中!?』


「え、ど、どうしよ!?」


『っつか、何で自分の身体には入れねぇのに、お前の身体には入れるんだよ!!意味わかんねぇ!!』


「ちょ、颯、落ち着いてっ……。頭に響く!響くから!!」


『うっせぇボケ!!!』


 僕は頭を抱えた。


 これから先、どうなるんだろう。

 僕と颯は、本当に一生このままなのだろうか……。


 その時、僕らの頭上を、蒼と緋の二匹の蝶がひらひらと通り過ぎた。その蝶は、薄く光を散らしながら茜色の空へと消えていく――。




***


 郊外にある、静かな平屋の屋敷。

 手入れの行き届いた美しい庭を通り抜け、二匹の蝶は家屋の中へと入っていく。


 和室で花を生ける、一人の青年。

 白銀の髪。襟足が長く、さらりと肩にかかる。白く、陶器のように滑らかな肌。伏せた睫毛が頬に影を落とす。

 

 濃紺の着物を纏い、水盤に花を生ける彼は、“かっこいい”よりも、“美しい”という言葉がよく似合った。


 その足元で、蝶が淡い光を弾けさせ、人間の形に姿を変える。しかし、その姿は半透明で、生気は感じられない。

 

 桃色のフリル着物の少女。

 水色の着物の少年。

 ――背丈も顔立ちもよく似ている。双子なのだろう。

 年齢は十三歳前後といったところか。

 

 二人は同時に深く頭を垂れた。

 

 蒼髪の少年が恭しく口を開く。


かがり様、白瀬柊とその弟、白瀬颯の共霊きょうれいを確認しました」


 緋色の髪を揺らし、少女が続いた。

 

「中級レベルと思われる霊害を、白瀬兄弟が祓ってしまいましたわ♡」


 篝と呼ばれる青年は、ふっと微笑んだ。


「ふふ……そう。よいあかり。報告ありがとう。あの人にも、伝えておかないとね」


 篝は、ゆっくりと視線を二人に向け、柔和な笑みを浮かべながら述べる。


「引き続き、白瀬兄弟を見守ってあげて」

 

「はっ」

 

「お任せくださいませ♡」


 二人は礼儀正しく頭を下げ、再び蝶の姿へ戻った。

 夕暮れの風に、水盤の花が揺れる。


「……夜が、動き始めるね」


 篝がひとり呟いた。


 ――この青年が一体何を思っていたのか、柊たちがそれを知るのは随分と先のことだ。


***


※次回更新:1月6日7時

第四話 祓い師の転校生【前編】

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