第三話 守るって、決めてた【前編】
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Side:颯
ガキの頃、怖がる柊を見て俺はよく笑ってた。
「おばけがこわいとか、ダセェ」ってな。
だけど、俺も“そっち側”になってわかった。
――こんなん、怖ぇに決まってんじゃん。
黒い影。張り付いた顔。
ガキの頃なら、なおさら怖ぇだろ。
……こんなバケモノを、
柊はずっと見てきた。
今、目の前で柊が引きずり込まれる。
俺は手を伸ばした。
すり抜ける。
掴めない。
触れられない。
「くっそ!」
無力だ。
――俺は、何のためにここにいる?
柊は俺に「逃げろ」と言い残して、消えようとしている。
母さんの言葉が脳裏に浮かんだ。
『あの子は優しいから、全部抱え込んじゃうの。
颯が、柊のこと、助けてくれたら嬉しい』
昔から柊は、怖がりで、優しくて、いつも誰かのために動くやつだった。
自分は我慢して、他人を優先する、
他人の幸せで笑うやつだった。
それが、ムカついてた。
――でも、そんなお前が眩しくて。
……ずっと、好きだった。
だから、
「諦めてんじゃねぇ!
お前のこと、俺がずっと守るって約束しただろうが!!」
俺は――あいつを守るために、ここにいるんだろうが。
「だいたい、逃げろっつったってな、お前がいねぇと俺はどこにもいけねぇんだっつうの!クソ兄貴ぃ!!」
喉が裂けるほど叫んだ、その時。
黒い塊の中から、柊が俺を呼ぶ声がした。
「うお!?」
俺の身体が閃光みたいになって、凄まじい引力に引っ張られた。
俺の意識と身体は、黒い塊の中――柊のもとへ吸い込まれていった。
*
――知らない映像が頭の中に流れ込む。
葬儀場。白い花。
棺桶の中で眠る母さん。
喪服姿でわんわん泣き叫ぶ少年。
――十二歳の、俺だ。
「可哀想に……。綾さん、山で事故に遭ったんですって」
「土砂崩れを起こすような状態じゃなかったそうよ。変な話よね」
「行方不明者が続いてるあの山でしょ?
呪いか何か?恐ろしいわね……」
喪服を着た婦人達がヒソヒソ話をしている。
『母さんが死んだのは、きっと僕のせいだ』
十二歳の柊の声が、頭の中に響いてくる。
『僕が“変なもの”が見えるから、母さんに呪いがかかったんだ』
『僕と一緒にいたら、父さんも、颯も、壊れてしまう』
『だから、僕は離れなきゃ』
――あの日から、か。
「そういうことかよ……」
*
映像が途切れ、意識が戻った。
全身に、懐かしい暖かさを感じる。
心臓が――二つ、脈動した。
――もう、一人じゃねぇ。
※次回更新:1月5日21時
第三話 守るって、決めてた【後編】




